勅令:男性陣入室禁止タイム



「リタ」
「……ん」

リタは朝が弱い。
というより、寝起きがすこぶる弱い。
睡眠が圧倒的に足りないと言うのと、今までが徹夜に徹夜を重ねたうえで寝るというその生活スタイルだったからか、一度寝ると中々起きない。
それでも旅を続けている今ではそうも言っていられないから、こうして無理に起こす。
寝起きが弱いに加えて、良いとも言えない。すこぶる悪い。
一度だけユーリが起こしたことがあったけれど、焦げくさくなっていた。
それ以来、私か、もしくはジュディスが、リタを起こすと言うことになっている。その役目を大抵になっているのが私。
ジュディスが起こすと、何故か顔を真っ赤にしたリタが普通に起こしなさいよと怒るのだ。その後、大抵レイヴンに八つ当たりしている。
嬢ちゃんが起こしてあげて!
レイヴンに懇願されることもあった。そういうこともあって、私が起こすことが多い。

「顔は洗いました?」
「ん」
「歯磨きはご飯の後です」
「ん」

ベッドにぺたんと座ったまま、落ちそうな瞼のまま、リタの視線は私を追っている。
正直に言いましょう。
可愛いです。
可愛いんです。
わかりますか、わかりますね、可愛いです。

「ほら、袖捲れてますよ」
「ん」
「もう、仕方ないですね」

力なく上げられた両腕。直して、の意思表示。
口では窘めるように言っていても、どうしようもなく緩む頬。
華奢な身体。細い腕。小さな手。
袖を直して、ついでに衿を整えて、視線を上げれば、やっぱりぼぅっとこちらを見ている翡翠色。
じっと見詰めるのは、子供の癖。本で読んだことがある。
子供らしからぬ面が多いリタの、この時間だけ垣間見える、表情。
もう一度言いましょう。
凄く、可愛いです。

「髪、梳きましょうね」
「ん」

背後に回って鳶色の髪に櫛を通す。
今日の寝ぐせは比較的落ち着いている。酷いとぴょこぴょこ跳ねてなかなか直らない。
それでも寝ぐせが付いていた方が、この時間が長引くと知っているから、ちょっとだけ残念に思ってしまう私がいるのも事実。
短い猫っ毛がいつもの位置に収まって、ひとり頷く。今日も完璧。
毛づくろいをあまりしない猫の手入れは、私と、もう一人の手にかかっていると言っても過言ではないだろう。
出来れば、私にかかりきりになってくれると、ちょっとだけ、嬉しいけれど。
そんなことは口にしない。

「本当は、自分でしなきゃですよ?」
「ん」

心にも思っていないことを、代わりに口にして、緩慢に頷く姿にまた頬を緩めた。

「はい、ゴーグル」
「ん」

身だしなみをチェックして、最後にゴーグルを渡す。
それだけは、リタ本人が付けるから。
ぎゅっとゴーグルを握って、いくらか開いてきた瞳でまた私をじっと見てくるリタ。

「えすてる」
「はい?」

舌足らずの、甘い声。
この瞬間が、とても好き。

「おはぉぅ」
「はい、おはようございます」

やっと交わした朝の挨拶。
これが聞けて、数分すれば、リタの思考が起動する。

「んー……」

あと少しの至福の時を、リタを見詰めながら過ごす。
さて。
今日も一日が始まります。















「部屋ん中がどうなってるか、おっさん凄く気になるんだけど」
「マーシーワルツ喰らいたいなら開ければいい」
「なにそれこわい」


「あら、先越されちゃったわね」
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