公立スオムス



「・・・・・、イッル、なんでそんなに余裕なんだよ」
「何が?」
「今日一限数学の小テストだろ!?」
「ああ、なんとかなるって」
「あーもー!頭良い奴はこれだから!」
「ニパだって悪いわけじゃないだろ?ただ回答欄ずれてたり名前書き忘れたり記号問題を普通に答えたりして点数ごりごり削られてるだけで」
「・・・・・・わざとか?」
「別に?」
「にやにやすんなー!!」

がたごと揺れる電車。通勤ラッシュとはそれほど関係がない路線。周りに居るのは制服姿の人ばかり。通学専用電車といっても過言ではない。
そんないつもの朝。断続的な振動とくだらない会話。手摺に掴らなくてもバランスがとれる程度には慣れた日常。
私と同じ制服を着た友達と馬鹿なことを言いあう。学校に着くまでの、学校に着いた後とは違う楽しさ。ちょっとした憂鬱。

「そうじゃなくたって今日は気が滅入るのに・・・」
「何で?」
「二限」
「あー・・・・」
「良い先生だってのはわかってんだけど・・・」
「わかんないとこ手とり足とり腰とり懇切丁寧に教えてくれるんじゃないか?」
「絶対いやだ!」

先生の愚痴。テストへの悲観。昼休みの楽しみ。放課後の予定。色んな事を話して、すぎていくこの時間は短いけれど濃い。
学校に着いてからの学生ライフとは何か違う、そんな時間。短くて、それでも登校するのと同じ回数増えていく時間。

「イッルも猫撫で声で囁かれたことあるだろ!?」
「私逃げてるぞ」
「何で逃げられるんだよ」
「勘。ここにいたらやばいって何かわかるんだよなー」

ここでしか味わえない。ここでしかありえない。そんな時間。
停車駅。次々と乗り込んでくる学生。
私たちと同じ青の制服だけじゃない。黒。濃紺。ベージュ。カーキ。白。色んな色の制服がこの電車には詰められていく。

「まあ色んな先生がいるのは良いことなんじゃないか?」
「限度ってものがあるだろ」
「やたらと凹みやすい先生もそのうち増えるぞ」
「あ、やっぱりエルマ先輩うちに来るつもりなんだ」
「この前会ったら言ってた」

私たちが乗っているのは六両目。
決めたわけじゃない。ただなんとなく、いつもこの車両。
乗り込んでくる人たちを会話の途中に流し見る。

「イッル?」
「え?」
「え、じゃないって。今度の休み、ハッセがどこか行こうってさ」
「ああ、うん」

発車。会話がワンテンポ遅れる。苦笑いと、ちょっとだけ曖昧な返事。でもそれはすぐにさっきまでの調子に戻る。
それでも私の頭にある、ひとつのこと。ついさっき見ていたもの。

「どこ行くんだ?」
「候補はバッティングセンター」

黒を基調にした制服。私立の、所謂お嬢様学校。
きっと、たぶん、おそらく。私より、後輩。

「ホームラン多く出したやつがご飯奢られる権利獲得」
「のった」

銀髪。顔は、ちゃんと見たことはないけど、可愛い。それも、とても、可愛い。
その制服。銀髪。後輩。同じ要素を持った人はたくさんいるのに、気になる子。何故かはわからないけれど。

「前みたいに最下位じゃなきゃいいな」
「あれはマシンが壊れて豪速球が出てたせいだ!」
「すごかったよなー」
「何で私の時だけ・・・」
「いやー、ニパだし」
「何だよそれ・・・」

流れる景色を追うふりをして、背後を少しだけ見る。
ほら、いた。
今日も。この車両だ。
気付いたのはいつだったか。気になったのはいつからだったか。わからない。

「あ、数学の小テストの範囲ってどこだっけ」
「・・・・・・、こんなこと言うやつがそれなりの点数とか間違ってる・・・」
「もっといい点のやついるだろ」
「イッル、テスト勉強とかあんまりしないだろ・・・」
「授業でやるじゃん」
「うわぁ・・・・」

がたごと揺れる電車。慣れた日常。短い時間。

やっぱり。どうしても。何故か。気になる、あの子。

特別な時間。



青春やんなぁ。

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