みんなで



見知った顔が集まった。
揃いの空色。馬鹿みたいに騒ぐ声。開けたコルクは何個目か。乾杯したのは何回目か。
待機中。正確に言えば、任務中だって言うのに、どんちゃん騒ぎ。
しかもその騒ぎの理由だってまだ迎えていないけど、お構いなし。どこからか調達してきたのか、各種アルコール、普段じゃ見ることもない御馳走、ケーキ。全部特別に用意された物。空便で届いたメッセージカード、小包、花束。なんだよ皆、暇なのか。なんて。
クッキーを一つ口に放り込んで窓を見る。闇夜。その色に、連想する。
と、背中に衝撃。を受ける前に回避。しようとして、畳みかけるように数人。こんなの避けられるわけがない。
肩を組まれて、前のめりになりながら、振り向けばニヤけた顔が幾つも。

「テンション低いぞ主役!!」
「仕方ないよ、愛しのお姫様が夜のお散歩だ」
「本当ならついていきたかったんだもんなぁ?」
「そのお姫様に窘められちゃったら仕方ないもんね」
「本当に、弱いよなー」

口々に好き勝手言って、わしわしと髪をかき混ぜられる。
騒ぎたいだけだろお前らは。
体重を掛けてくるやつらを押しのけるようにのけぞる。
振り向いて、吠えた。

「ああもううるいなお前ら!」
「あーあー、嘆くな飲め飲め!!」
「ちょ、おま、やめrうわあああああ!!!」












どうでもいい、って少し思ってた。
他の人ならともかく、自分の誕生日なんて、ひとつ年を取るだけで。それはウィッチとしての命を削るものだから。
それでもこうやって祝ってくれる人たちがいるんだから、私は幸せなんだろう。
ブリタニアから戻った私がその日を迎える前日。つまり、今日。
いつものように夜間哨戒に付き添うつもりでいた私に、あの子は言った。
皆で楽しんでほしいの。
静かに、微笑んで、そう言った。
皆、エイラのこと待ってたのよ。
私がその時間を守るから。そう続けて、私が頷くまで、ずっと手を握っていた。
周りには、友人たち。先輩たち。今日ばかりは溜息をついて見逃してくれる上司たち。
騒ぎたいだけ、私の誕生日を祝うために騒ぐ皆がいる。
ああ、楽しいよ。
凄く楽しい。久し振りの皆だ。ずっと一緒に居た皆だ。
とっても、楽しいよ。
でも、少しだけ、心に隙間があるんだ。
他のものじゃどうしたって埋められない。
心臓の、中心。
足りないよ。
もうすぐ。
大時計の針が天辺に並びそうだ。
皆が持つプレゼントの中身を知っている。よく知る人たちの考えることだ。私のことをよく知っている人たちのことだ。
タロットカード。呪術書。機械工学本。サルミアッキ。
全部全部、私のために用意してくれたものだ。
窓辺に立った私の前に、皆が集まる。
大時計の振り子はゆっくり動く。
一人。
柔和な笑みを浮かべて、私の前に歩み寄った人が、掌を開く。

「私からのプレゼントは、これです」

掌に収まる、小さな機械。

「インカムぅ?」

任務ではもちろん、訓練でも使うものだ。
耳を示されて、眉根を寄せながらそれを嵌めた。
聞こえる砂嵐が収まっていく。
さっきまでの騒ぎが嘘みたいに、皆も静かにしてくれていた。
調整の音。
小さな断絶音。
沈黙。
そして。

“……エイラ?”

間違えるわけがない。
間違えたくない。
声が、聞こえた。

「サーニャ?」

見えるはずもないのに、窓越し、夜空を見上げる。

“エイラ、皆の方を見て”

私が空を見上げていることをわかっていたのか、声が告げる。
振り向く。
大時計が一番奥に。振り子が揺れる。
テーブルには御馳走。ケーキ。メッセージカード。空便の小包。
皆。
大切な、仲間。
ふっと、吐息が漏れるような、笑みを聞いた。
大時計の鐘が鳴る。


“お誕生日おめでとう、エイラ”

「「「「「「「おめでとう、イッル!!!!!!!」」」」」」」」


私は、ひとつ、年を重ねた。



愛されエイラさんマジ最高。

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