煽
私だけの貴女が見たいの。
ただでさえ少し低めの体温。
それ以上に指先が冷たいのは、緊張のせい。
私の全てを暴くのは、これが初めてのことじゃないのに、それこそ両手でも足りないのに、私に触れる指先は冷たいまま。
私の熱が貴女に映る、私の熱が貴女に奪われる。
熱だけじゃなくて、色んなものを奪われているのに、これ以上、何を奪うのかしら。
脇腹。私の輪郭をなぞる指は変わらず冷たい。
微かに震えているそれが、あなたがどれほど神経の糸を張り詰めているのかを伝えてくれる。
さっきから私を窺う紫苑が揺らめいている。
大丈夫。痛くない。嫌じゃない。変じゃない。大丈夫。
重なる私への気遣い。
ねぇ、それがいらないわけじゃないけれど、私は今、違うものが欲しいの。
違うものが見たいの。
首筋に触れる唇に、舌に、くすぐったさに、吐息に近い音が漏れる。
脇腹から背中、背中からインナーの内側に手を差し込んで、肩甲骨を撫で上げられる。
わざとでしょう。
貴女は知ってるもの。私がそこを撫で上げられる度に、声を出してしまうことを。
気付いていないふりをして、そのくせ、執拗にそこに触れてくる。
貴女は私の声を聞きたがる。
引き上げられたインナー。
隠されていた場所が外気に触れる。恥ずかしくないわけじゃない。それより熱さが脳を占めているだけ。
心臓の上に、唇が落とされる。
貴女の癖を知っている。
そのまま舌で撫で上げて、たくしあげられたインナーをやっと、邪魔だとばかりに脱がしにかかる。
一瞬陰った視界、指の先を過ぎた衣服。瞼を上げれば、紫苑。
もう少し。
頂きに触れようとはしないで、彷徨う指先がいつもより熱いことにもう気付いてる。
あなたの興奮が熱でわかる。
額、瞼。頬。鼻梁。そして唇。
口付けが降り注がれる。
舌が、唇の端を掠めて。
窺う紫苑に、口を空けて迎えれば。ぬめる感触が入り込んでくる。
どこで覚えたのか。でも貴女はそれに答えない。
ただわかるのは、他の人と比べたことなんてないけれど、とても上手だということ。
比較対象がないのにどうしてと問われれば、頭が霞んでしまうくらいに浮かび上がらせてくれるから。
呼吸も満足にさせてもらえないのを、肩に触れた手で、爪を立てて耐えながら、ただその熱さに任せる。
あともう少し。
緊張しているあなたも。
切羽詰まったあなたも。
皆。誰かしら。見ているでしょう。
だって貴女は私のことになると、酷く緊張したり、一生懸命になりすぎて自分を追い詰めたりするもの。
だから、ここまでの姿は、違う場面で、違う状況で、見られたことがあるでしょう。
でもね。
私は、それ以外が見たいの。
誰にも見せることのない。
私だけのものが見たいの。
ね。
だから。
月明かりに薄く煌めく銀の糸。淫靡に映るそれが途切れて私の唇に落ちる。
貴女がそれを目で追っていたのをわかってるから、落ちたそれを舐めとった。
そのまま、肩に縋っていた手を、腕を、首に回す。
もう一度、今度は私から。
白金が頬を撫でて、下ろした瞼。触れた唇。
濡れたそれを拭うみたいに、舌でかすめる。
伏せていた目をゆっくり上げる。視線が合う。紫紺が、ある。
この温度。
この紫苑。
見つけた。
エイラ
私が欲しくてたまらない貴女。
もっと
私だけの貴女をちょうだい。