アンサー!!



「クレヨンを発掘しました」
『は?』













「さあ今日も始まりました、ゲスト関連の問題を回答して頂く“あんた、あの子の何なのさ!!”」
「初回だけどな」
「今宵はどんな素晴らしい戦いが繰り広げられるのでしょうか!!」
「今昼だけどな」
「司会兼回答者はワタクシ、エーリカ・ハルトマンです!!」
「あんたもやんのかよ」
「番組進行はアシスタントのリネット・ビショップが務めます!!」
「よ、よろしくおねがいしますっ」
「リーネ、断っていいんだかんな……」
「おいおい、回答者まだ黙ってろって」
「はぁ……」


食堂から聞こえる、騒がしい声。
覗けば、そこには待機指令を受けた隊員たちが集まっていました。
芋が刺さったフォークを、何故か小指が立てられた片手に携え、おそらくマイクのつもりなのでしょう、エーリカさんが朗々と語っていました。
とてもいい笑顔でした。
事の起こりはエーリカさんの部屋の掃除。
発掘されたあれやこれやそれの中に、クレヨンの箱があったことが原因です。


「クイズ大会しようぜ!」


紙の束とクレヨンを手に、きらきらした顔で言い放ったエーリカさんが十分ほど前に確認されました。
以下略。
そして今。


「というわけで回答は文字だけではなく絵、もしくは絵に類似するものでも構いません」
「記号もオッケーってこと?」
「はい。正答に一番近いものをゲストに判断して頂いて、正解とします」
「わあ、なんか面白そうだね」


突発的に始まったこのお遊び、ゲームに参加、あるいは巻き込まれ、皆さんここに集まっているというわけでした。
アシスタントという大役を任されたリネットさんが若干上擦った声で対面を見ました。


「また、回答席にはエーリカさんの他、…………」
「あ、良いよリーネ、言っちゃえ言っちゃえ」
「あー、何々?……ブハッ」


詰まった言葉にエーリカさんが笑い、手元の紙を覗き込んだシャーロットさんが吹き出します。
相当躊躇った後、リネットさんは小さな小さな声で言いました。


「……す、すおむすがうんだきせきのへたれ、ゆーてぃらいねんちゅういd」
「何か今変なこと言わなかったか!?」
「台本に書いてあるんです…っ!」
「はいはい、スオムスが生んだ奇跡の至宝、ユーティライネン中尉だってさー」
「違うこと言っただろ……!!」


唸るエイラさんに可哀そうなほど眉を下げて委縮するリネットさんの頭をぽんぽんと撫でながらシャーロットさんは笑いました。
首謀者であるエーリカさんに噛みつきかねないエイラさんは放っておいて、促されたリネットさんは続けます。


「あと、ロマーニャの愛しき子猫、ルッキーニ少尉ですっ」
「はぁーい!よろしくぅー!!」
「おお、ルッキーニ良い返事だ!」
「えへへー」


以上が、回答者。
いつものように発案者のエーリカさん。
その左隣、机に突っ伏して溜息を吐きだしたのが、さきほどまで律儀にツッコミを入れていたエイラさん。。
さらにその左隣、やんややんやとはやし立てるのが、フランチェスカさん。
この三人がテーブルをはさんで対面する、所謂、今回のゲームの出題者であり観客席側。
どこか緊張した面持ちのリネットさんと、リネットさんが座っている椅子に肩肘をついてにやにやしているシャーロットさん。
隣の席にある四つ山の桃源郷を食い入るように見詰める芳佳さん、そして、その隣。


「さふぇ、ほんはいの、ふぇふとはー」
「イモ食うな」


もっしゃもっしゃと芋を食べるエーリカさんが示した先。リネットさんが台本と思われる紙に目を落とし、慌てたように手で示した隣。


「オラーシャ陸軍の一輪の白百合、リトヴャク中尉を招いてお送りいたしますっ!」
「よ、よろしく、おねがい、します……」


恥ずかしいのか困惑しているのか、ちょっとおどおどしたサーニャさんがいました。















「では、最初の問題です」


シャーロットさんと芳佳さんの用意したらしい問題が書かれたメモ書きが入った箱。
そこから一枚取り出して、提示された問題。


「じゃ、じゃじゃんっ、サーニャちゃんがよく飲む飲み物はなんでしょう!」


効果音はセルフの様です。
照れているのか頬が若干赤いリーネさんの言葉に、クレヨンを手にとる回答者たち。
もちろん、回答者たちの間には即席つい立てが設置され、カンニングは不可能です。


「飲み物かー、まあジャブってとこだな」
「皆でお茶会もしますしね」
「そういうこと」


コメンテーターらしい二人の会話をBGMに、書かれた回答は、一斉に開示されます。


「じゃあ、まずハルトマンさんから」
「ココア、これだね」
「エイラは紅茶か」
「自分でも淹れるし、リーネが淹れたのがうまいって言ってたかんな」
「ルッキーニちゃんは」
「ホットミルク! おいしいもん!」


見事にばらけた答え。
文字だけの回答もあれば、用紙の隅にイラスト付きもあります。
正解を委ねられたサーニャさんは回答をゆっくり眺めて、口を開きます。


「紅茶、です」


軍配はエイラさんに上がりました。
さすがというか、なんというか。


「しまった、これは部屋に居る時限定か……!」
「うじゅ、間違ったー」
「……」
「エイラ、どや顔すんな」


三者三様の反応。
その光景を見ながら、リネットさんは任務を全うすべくまたメモ書きを引きます。


「じゃじゃんっ、サーニャちゃんのパーソナルマークはどんな絵でしょう!」


今度は書きではなく、描き問題。
しばらくして描きあがった回答を提示。


「ハルトマンさん、絵もお上手なんですね」
「まぁねー」
「エイラの絵、……上手いんだが、なんか、絶妙に、崩れてるな」
「うっせぇ、絵なんて描かないんだから仕方ないだろ」
「ルッキーニちゃんは……その……前衛的な……」
「芸術は爆発なのだよ!」


個性が光る作品たちです。
困ったように微笑んだサーニャさん。


「ハルトマンさんで」
「さっすが私!」


フンス。エーリカさんのどや顔が決まりました。
この後、様々な問題が出題されましたがここからは一部をダイジェストでお送りしましょう。


「えぇぇええぇ、全員違うって、じゃあ答え何なのー」
「えっと、ペリーヌさん、です」
「ツンツンメガネ!?」


「身長って問いにその答えは反則じゃないのか」
「あたし以上、シャーリー以下!!」
「もうちょっと絞った方が……」


「その黒いひし形って……」
「サルm」
「はい不正解」


「えっ……えっ、なんですかその怪獣みたいなの」
「堅物じゃね?」
「おー、よくわかったね!」


「じゃじゃんっ、……ぶ、部隊内での、その、胸囲の順位h」
「ここは私が答えましょう!!!」
『座ってろ』


さて、回答者たちに配った紙が残り一枚になりました。
エーリカさんとエイラさんによる接戦になるかと思われたこのクイズですが、予想外に少々癖のある問題に対して強いフランチェスカさんの存在が寄り面白いものにしていました。


「次が最終問題となります、こちらを見事正答しますと、今までの一ポイントではなく二十ポイント差し上げます」
「これってポイント制だったのかよ」
「うん」
「しかも二十ポイントって全部正解してても追いつかないだろ」
「お約束だよね」


ここで最後の問題。
この大一番でリネットさんがとてもいい引きを見せてくれることになります。


「じゃじゃんっ、サーニャちゃんが一番好きなものはなんでしょう!」


広がるざわめき。ぱちくりと瞬きをするゲスト。


「おぉーっと! これはいい問題きた!」
「王道ってやつですね!」


テンションの上がるコメンテーター。
そして回答者はというと、素晴らしいほど自信に満ち溢れた顔と、筆跡で、堂々とその答えを記しました。
即、開示。


「おおー……」
「これは……」
「なんというか……」


三人の回答を見ることのできるリネットさんたちから何とも言えない声が漏れます。
そして、サーニャさんの頬は何故か桜色に染まっていました。
回答者の中でも、もはや正答を聞くまでもないと言っていいほどの雰囲気を醸し出す人がいました。
エイラさんです。


“ピアノ”


よほど自信があるのでしょう、ちょっと歪なピアノの絵まで添えられた回答です。
エーリカさんは回答を見た後から俯いているサーニャさんに向けて、暖かい、それでも少し悪戯っぽい声をかけました。


「一番好きなこと、じゃないからね」


誰も何も言わないまま、回答者が別の回答者の答えを知らないまま、一分。
小さな声が、発せられました。


「エイラの答え」


輝いた瑠璃色の瞳は。


「……以外が、当たり、です」


続いた言葉にどん底に突き落とされました。


「はい! というわけでぶっちぎりでエイラの負けだな!!」
「ちょ、私は完璧な答えだったはずだ!!」


椅子を蹴倒さんばかりの勢いで立ち上がったエイラさんにシャーロットさんは笑います。
伏せられた回答用紙の上に頬杖をついて、エーリカさんもまた、笑いました。


「罰ゲーム何にしよっか」
「しかも罰ゲームありとか聞いてねぇ!!」
「今決めたから」
「詐欺だろ!!!」


ぎゃあぎゃあ騒ぎ始めたエイラさんを前にして、フランチェスカさんの回答用紙をいつの間にか手にして伏せていたサーニャさんが、リネットさんに耳打ちします。
とても優しげに微笑んだリネットさんは、ぽん、と手を叩きます。


「あっ、はい、最後の問題に限り、ゲストの意向により回答は伏せさせて頂きます」
「何でだー!!!」


結局、気になる答えも知ることも出来ず、後ほど言い渡される罰ゲームを回避することも出来ず、エイラさんの声が食堂に響きました。




サーニャさんの手により、厳重に廃棄された、回答用紙二枚。
それは。


エーリカさんの回答。

“→”


フランチェスカさんの回答。

“←”


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