カミングアウト!!



「えぇぇぇぇぇぇえぇぇぇいぃいいぃいいいぃらああぁあぁぁあぁあ」
「うるさいなー、なんだよ」


珍しく一人でブリーフィングルームに居るエイラを発見して、これ幸いとばかりに声をかけた。
あたしの顔を見るなり嫌な予感がしたのか顔をしかめて、それでもエイラは席を立つことはない。代わりに、ソファの端に寄ってくれた。ははぁ、こういうことを自覚なしにやっちゃうからだめなんだよ。いや、いいところだけれど。
ピタッとくっついて座ると露骨に嫌そうな顔をされた。このスーパー美少女エーリカちゃんになんたる態度!!光栄に思えこのヘタレめ!!


「ヘタレ言うな!」
「あ、コーヒー飲んでるの?一口貰うね」
「ちょ!?」
「うっわ苦ぁー・・・・・、ブラックなんて飲んでないでよ」
「勝手に飲むな!!しかも文句言うな!!」
「間接ちゅー」
「止めろ!!!!」


一人叫んでぜはぜはしているエイラを無視して、あたしはポケットからいちご味の飴を取り出して口に投げ入れる。口直し。
そんなあたしの様子を見てわざとらしく溜息を吐いたエイラは、脱力しながら視線をこちらにむける。どうしたんだ。ってね。うん、エイラのそういうところ割と好きだよ。
で、本題はというとだね。


「トゥルーデがね」
「大尉が?」
「ここぞって時に固まって、何もしてくれないんだ」
「へー」
「いやだからっていまだに清いお付き合いってわけじゃないんだけど」
「へー」
「毎回毎回固まられると、誘い方にもバリエーションがなくなるというか」
「へー」


笑顔のあたしと、無表情のエイラ。
ぴちちちち。
大空を舞う小鳥たちの楽しそうな声が遠くに聞こえるほどの静寂が訪れる。
おい、こら。


「どうしたらいいと思う?」
「知らねーよ」


わざわざ真顔を作って向き直ったら、わざわざ無表情のまま言いやがった。このやろー!ヘタレのくせに!


「相談に乗ってくれてもいいじゃん」
「相談じゃなくて惚気だろ」


溜息ついたし!ははん、あたしとトゥルーデのラヴラヴっぷりが羨ましいんだな、そうだろうエイラ。でもそれは仕方ない、だって事実だから。だけどちょっとは真面目に聞いてくれたっていいと思う。あたしはそれなりの理由があってエイラに聞いているわけなんだし。


「いや、だってエイラ、あのスオムスのトップエースじゃん。経験豊富かと」
「管轄外だ」
「経験h」
「黙秘だ」
「経k」
「断る」
「・・・・・・」
「私をそんな目で見んな」


断固拒否ですか、ふーん。ま、いいけどね。
あたしがまだ何か言いたそうにしているのをわかっているからか、エイラは矛先を変えようと口を開く。


「そーゆー相談は隊長の方がいいんじゃないのか?」
「んー・・・、ミーナだとなんか恥ずかしいし・・・」
「恥ずかしいって言う感情があるのかよ。シャーリーとかどうだ?」


エイラが推薦するのは世話好きかつ面倒見のいいリベリアン。
確かに、シャーリーなら何だかんだ言いつつ答えのきっかけになる言葉をくれるだろう。それはあたしも頷ける。けどそれは出来ないのだ。なぜならば。


「トゥルーデってね」
「何だよ?」
「結構、簡単に拗ねるんだ」
「は?」


あたしの可愛いスウィートハートは、割とお子様なのです。


「シャーリーとあたしがよく話してるとね、拗ねちゃうんだ」
「マジかよ・・・」
「ほんとほんと」


そこが可愛いんだけどね。なんて付け加えると砂を噛んだみたいな顔された。何だよ、可愛いじゃん。ちょうかわいいじゃん。
でもあげないからね。あたしのだもん。


「・・・・・・、ちょっと待て。仮にそうだとして、何で私に相談してるんだよ。大尉、拗ねないのか?」
「あ、大丈夫、エイラなら」
「何で?」
「エイラはぞっこんだから。鈍感堅物カールスラント軍人が解るくらいに」
「・・・・・・・・・・・・・」


周知の事実。
不変の真実。
エイラ、一途っていうのは素晴らしいと思うよ。あたしも一途だけど、エイラのはなんか、こう、一線を画してるよね。


「だからエイラに聞いてるの」
「・・・・・素直に喜べねぇ。つーか、だからってそんなこと聞くかフツー」


ひじ掛けに頬杖をついて、エイラは何だかもう真面目に答えようとかそう言う気持ちは全くないらしい。
あたしがエイラに相談を持ちかけたのは、まあ、スオムスのトップエースうんちゃらっていうのじゃない理由もちゃんとあるわけですよ。むしろこっちが本当の理由というか。


「だってエイラ達も、お手手つないで清く正しくっていうのじゃないでしょ?」
「は!?」


どや顔を意識。


「さーにゃんが嬉しそうに教えてくれました」


甘く見るなよ、あたしとさーにゃんは親友なんだぜ。
驚いてあたしを見たまま固まっていたエイラは、耳まで真っ赤にしてそっぽを向いた。
頬杖をついていた手で顔を覆って、情けなく呟く。


「さぁにゃぁ・・・・」


しばらくその姿を見て楽しんでいると、少しずつ引いてきたとはいえまだ朱の残る顔でちらりとあたしを見て、またそっぽを向いた。やっぱりこっちを向いてくれる気はないらしい。
しかも頬杖の手が口元を覆うようになっているところから、何も答える気はないと主張しているらしい。ま、いいけど。勝手にしゃべるから。


「聞いて驚いたよー、やっとエイラが手を出したか!って」


にやにやしたままそう告げる。
さーにゃんから、清く正しくからレベルアップしました、と聞いてまず思ったのがこれだ。ヘタレオブヘタレ。最高峰のヘタレ。その名を欲しいがままにするエイラがついに!と。
ここであたしは予想していたのだ。エイラが我慢ならなくなって反論してくると。そう、思っていたのに。


「ぇ」


エイラは何も言わなかった。そっぽを向いたまま、無表情で無言を貫いている。
普段なら、他の人なら、怒ってしまったかと思うところだろう。けれどあたしは違った。見つけてしまったのだ。エイラの朱が濃くなっていることに。
そして、気付いてしまったのだ。可能性に。


「エイラ」


あくまで、冷静な声色で。
最初の一言目は、手探り。


「もしかして」


朱が濃くなる。表情が無ではなくなった。
二言目は、少しだけ踏み込んで。


「実は」


朱がさらに濃くなる。何かを耐えるようなしかめっ面になり始める。
三言目は、確認のために。


「される方?」


真っ赤っか。
あ、マジだこれ。
私が自分の考えに確信を得ていると、色々と限界を迎えたらしいエイラがギッと睨んできた。涙目だよ、エイラ。怖くないよ。


「うううううううううううるさいな!!何だっていいだろそんなこと!!!」
「そう言えばエイラ、最近皆と一緒にお風呂はいらないよね」
「ああああああああああもうううううううううう喋るなああああああああ!!!」
「ちょっと襟元緩めてくんない?」
「触んなあああああああ!!!」
「あはっ☆」


やばい、凄く楽しい。
うん、予想外にとてもいいことを知った。


「これはさーにゃんにちゃんと聞かなきゃ」
「聞くな馬鹿あああああああああ!!!!」


エイラの叫びがこだました。


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