くびわをつけて



にゃあ。


片付け。ご飯。おもちゃ。寝床。毛づくろい。
全部全部貴女がしてくれる。


にゃあ。にゃお。にゃおん。


ひと鳴きで気付かせて。ひと鳴きで振り向かせて。ひと鳴きで貴女は私のもの。
眠たいの。そこに座って。膝を空けて。頭撫でて。喉を擽って。よく出来ました。
お気に入りの枕をちょうだい。タオルケットもちょうだい。私の名前を耳元に降らせてちょうだい。
ぽかぽかな日差しより、ぬくぬくのベッドより、貴女の声が一番好きなの。
ほら、私の名前を降らせてちょうだい。
またたびより蕩けて、ねこじゃらしより夢中に、私をさせてくれるから。


にゃあ。にゃお。にゃおん。


ひと鳴きで気付かない。ひと鳴きでわからない。何度鳴いても貴女は私を見抜けない。
ねえ。着替え。ご飯。ピアノ。枕。髪梳き。どれも違う。
声をちょうだい。体温をちょうだい。貴女の与えてくれる全てをちょうだい。
差し出されたどんな両手より、貴女の指先を選ぶから。
ほら、私の名前を貴女の声で響かせてちょうだい。
どんな音楽より心地よく、どんな歌声より沁み入って、私の心を満たしてくれるから。
喉を鳴らせば見上げた先には貴女の笑顔。お日様みたいに眩しいの。月明かりみたいに優しいの。
明け方に。昼過ぎに。夕刻に。深夜に。
迷い込む私に両手を空けてくれる貴女。
身を守るために、あたたかさを逃さないために、丸まる必要なんてない。
四肢を伸ばして、お腹を見せて、だって貴女の隣だもの。
他の誰にだって、こんなことしないわ。
寝床を求めただけだというの。寝惚けて間違えたとでもいうの。
そんなはずがないじゃない。
貴女の所にしか帰らないのに、貴女は決して私を束縛しないのね。
広げられた腕の中に私が入っても、貴女は閉じようとしない。
頭を撫でて、遊んでくれて、タオルケットをかけてくれるだけ。
私に触れるその掌は、私を掴もうとはしないのね。
躊躇いながら触れるそれをもどかしく思っていることなんて貴女は夢にも思っていないでしょう。


にゃあ。


はやく。はやく。願うのは一つだけ。
私を貴女のものにしてください。
誰が見たって私が貴女のものだとわかるようにしてください。
誰が見たって貴女が私を手に入れているとわかるようにしてください。


いっそ、首輪を付けてください。


そうすればほら、誰にだってわかるでしょう。
私が帰るところも、貴女が誰の傍にいるかも。全て全て、口にすることもなく、口にする必要などなく、わかるでしょう。
鈴なんてつけなくても貴女は私を見つけてくれるけれど、鈴付きの首輪を付けてください。
貴女のものがここにいると、リンとよく通る音で知らせたいの。
あまり通りの良くない私の声の代わりに、誰の耳にでも届けたいの。


私が貴女のものだと知らしめたい。


私の首に、貴女の証をください。
誰にだってわかる。誰にだって阻まれない。誰にだって引き離せない。
そんな所有を私にください。


私を貴女のものにしてください。


ねえ。ねえ。ねえ。
にゃあ、にゃお、にゃおん。



みゃあ。えいら。



貴女は今日も腕を空けて待っているだけ。


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