割とよくある



テラスでのお茶会はツンツンメガネが淹れた紅茶と、リーネと宮藤お手製のお菓子。
ネウロイの襲撃予報はない。お説教の予定もない。


「リーネちゃん、明日の訓練の予定見た?」
「うん、・・・・ちょっと大変そうだったよね」
「あなたたち、坂本少佐がせっかく訓練してくださるというのに何ですかその顔は!」
「だってぇ・・・」


よくわかってない宮藤に噛みつくツンツンメガネをわたわたしながら抑えるリーネ。
いつもの光景。
他愛もない会話とあったかい陽気。私の肩を枕代わりにしているサーニャの寝息にも乱れなし。
ああ、平和だ。


「ちょっとエイラさん?ぼーっとしてないで貴女も会話に加わったらいかが?」
「んー?」
「裏庭の物干し場所の近くに鳥が巣を作ったんですよ!」
「ああ、コマドリだろ」
「あれ、エイラさん知ってたんですか?」
「よく飛んでたから」


窓際までやってきてさえずっていた時もあったな、なんて思いながらカップに口を付ける。
上半身はなるべく動かさないように細心の注意を払って、なんていうのはもう慣れた。


「エイラさんって、見てないようでよく見てますよね」
「どういう意味だよ」
「あっ、悪い意味じゃないですよ!」
「良い意味でもないだろ」
「あ、あはは」
「みーやーふーじー?」


口端をあげて名前をわざと伸ばして言えば、焦ったように言い訳を言おうとする宮藤。
だけど何も出てきちゃいなくて、あー、うー、言っているだけ。


「あ、えっと、え、エイラさんが最近気付いたことってないですか?」
「気付いたこと?」
「エイラさんだから気付くこと、あると思うんです」


追撃してやろうかと口を開きかけて、リーネにそれを遮られる。
注意が自分から逸れたことに安堵する宮藤。リーネが助けてくれたってことわかってんのか。って思ってたらテーブルの下で手を握ったらしいことを察した。
顔赤いぞお前ら、少しはポーカーフェイス覚えろ。
仕方ないからリーネの質問の答えを考える。かといってそうすぐに面白いことが出てくるわけじゃない。
とくに、こんな平和な時は。


「あー、花壇に花が咲いてたな」


結局頭をよぎったのはそれくらいだった。
ごほっ。ちょっと咳き込んだ音が聞こえた。出処を見れば、ツンツンメガネ。珍しい、咽たのか。


「それだけですの?」


口元をハンカチで軽く押さえながら、少しきつい目線。
宮藤とリーネは、ツンツンメガネではなく、私を見て目を丸くしている。


「な、なんだよ」
「花の種類だとか、植えてある配置のバランスの良さとか!」
「そんなのわかるわけないだろ。何で怒ってんだ?」


きゃんきゃん吠えたてるような声。お前は猫だろ、なんて思ったけど言わなかった。余計にうるさくなるって知ってるからだ。
何で怒られてるのかわからない。わからないけど答えれば少しは落ち着くのかと思って、記憶を呼び起こす。


「ただ、そうだな」


脳裏に、花。


「そこらへんで売ってるのより、綺麗だったってことくらいしかわかんねーよ」


そう。そうだ。綺麗だった。花屋なんてそう何度も行ったことはないけれど、そこで見た物より綺麗だった。気がする。うん。
頷いて、これでいいだろとツンツンメガネを見れば額あたりを押さえて何故か俯いていた。


「ツンツンメガネ?どうした、眼鏡の度がきつすぎてくらくらしてんのか?」
「そっ、そんなわけないでしょう!!」


勢いよく上がった顔は赤い。何だ、お得意の脳内坂本少佐ワールドでも展開したのか。
眉を寄せると、視線を感じた。宮藤とリーネ。


「エイラさん・・・」
「エイラさん・・・」
「な、何だよ、その目」


何だか、凄く微妙な。


「私をそんな目で見んな!」


どこか哀れんだ目で私を見んな。
声を張れば、それに続くように空気を切る音と、銃撃音。
反射的に私たち四人は視線を、宮藤たちの背後の空に向けた。海の上、太陽を横切る二つの影。


「あ、バルクホルンさんとハルトマンさん」
「すごいね」
「さすが、エース同士といいますか・・・」


訓練の時間になったらしい。
青空を意のままに駆る二つの影を見ながら、少しだけ息をつく。
あの居た堪れない視線から逃れられたことに、二人に少しだけ感謝する。
なんて、気が抜けていた。
そんな私が袖から伝わる感触に身体に刷り込まれた反応で、顔をそちらに向けて。
翡翠に映り込んだ、無警戒な顔。
目の前に、サーニャの顔。


−−−−−−


「わあー、やっぱり凄い迫力だねー」


エース同士の訓練は見ていても訓練になる。坂本さんがそう言っていた。
なにより、目を奪う。
感嘆の息を漏らして、空に向けていた視線を正面に戻す。


「エイラさん?」


そこにはテーブルに突っ伏したエイラさんがいた。
どうしたんだろう。微かに震えてるし。
疑問符を飛ばしている私とリーネちゃんとペリーヌさん。
そして私は空を見上げる前ともう一つ違う点に気付いて、笑顔を向けた。


「あっ、サーニャちゃん起きたんだ」
「うん」


ともあれ、皆でお茶会、再開だ。






















「さーにゃんマジ不意打ち」
「ハルトマン!余所見をするな!!」
「はいはーい」


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