アブラアゲ。
と、いうものを宮藤にもらった。
油揚げと言えば狐。狐と言えばエイラさんです。さあ、どうぞ。
真顔で言われてお前何言ってんだって無表情で返してしまった。
泣きそうになってしまった宮藤を見たスナイパーとか堅物とかに怒られてしまった。なんなんだよ。あのSP。怖ぇよ。
要するに、扶桑ではアブラアゲというものは狐の好物だと伝えられているらしい。
あー、そー。
面倒くさいことになる前に生返事と踵を返した私に掛かった声。
そうして私の手にはアブラアゲが乗った皿。

「あー……」

皿を横に置いて、ベッドに座って何となしに見回した室内。
サーニャはいない。どこかのおちゃらけエースと楽しくお茶会だとよ。嬉しそうな顔して行ってしまった。ちょっと、いや、だいぶ悔しい。
いやいや、皆との親睦を深めるのはいいことだ。そうだよ。そうなんだよ。そう思い込んでおけば心が平和。
と、いうわけで私ひとり。
数秒沈黙。目を瞑り、小さく息を吐いて、身体の内側から広がる妙な感覚。
瞼を上げる。
銀が混じった蒼色がこっちを見ていた。
黒狐。
名前を読んで掌を差し出せば、頭を押し付けてきた。
わしわしと撫でて、耳の裏をかいて、首元をもふり、前脚を持ってプラプラ動かす。
先が白い尻尾が揺れている。

「喚ぶの久し振りだなー」

と言っても、こいつは勝手に出てきたりもする。サーニャが居ない夜中とか。わざわざ私を起こしてくるから毎回何なんだと思う。構えってか。
そして、喚んだとしても、私以外が居ると出てこない。ねーちゃんくらいか、大丈夫なのは。

「あ」

嬉しそうにぐるぐる喉を鳴らしているものだからこっちも楽しくなって遊んでいたけど、忘れてた。
前脚を離して、首を傾げている鼻先にアブラアゲ。

「食えるか?」

ふんふん匂いを嗅いできたから、ちょっとちぎって掌に乗せて数秒。
咥えて、もさもさ咀嚼、呑み込んだ。
胡坐をかいていた私の足に、前脚が乗る。尻尾が揺れる。
好きな味ではあるらしい。

「待てって、一気に食ったら喉に詰まるだろ」

そう言って、ちぎっては食べさせ、ちぎっては食べさせを繰り返して。
もさもさ食べている間、最後のひときれを口の中に放った。
もさもさ。もさもさ。
……これ、うまいか?
顔をしかめていると蒼がこちらを見ていた。

「んあ?」

前脚が、胸元にかかる。顔を近づけてふんふんと鼻を鳴らしていたかと思えば、口から覗いた白い牙と舌。
何してんだと見詰め返しながら飲み下したそれがわかったかのように。
黒い頭と耳。
ぺろり。

「ははっ、ちょ、くすぐったいだろ!」

喉を舐めまくってきた。
くすぐったさに身体を捻っても追ってくる。おま、やめ。おいぃいい!
堪らず身体を後ろに倒して、ベッドに仰向けに。ついでにくっついてくるやつを抱き掲げて、ぷらんと揺れる黒を見上げる。
首傾げんなよ。くすぐったいっつっただろ。ったく。
あー、わかった。わかったって。

「今度また貰ってきてやるよ」

その言葉に尻尾が揺れる。

「クォン」

私にしか聞こえない声で、鳴いた。



【欲求】

inserted by FC2 system