柔らかさを感じる暇なんてない。
緊張で、なんて可愛いものではなく、触れたと思ったらすぐに離されてしまうから、柔らかさまで感じることが出来ないだけ。
今回もまた、触れた、と思ったらもうすでにとても近くにあった存在は近いと呼べる距離に戻っていた。
瞼を開ければ、白い肌に映える赤。頬も、耳も、赤い顔。
唇に残っているのは、触れたと言う一瞬の感覚だけ。ぬくもりも、柔らかさも、解る前に離されてしまうから。
そんなことを私が思っているなんて知らないあなたは掌で自分の顔を仰いで、それでも足りないのかパーカーの胸元を掴んでぱたぱたと空気を送っていた。
口付け。
そう呼ばれている行為をするのは、これが初めてじゃない。
けれど、慣れていないのも事実で、あなたがそれに慣れることなんてないんじゃないかとも、思う。
だって、ほら、一瞬だけの逢瀬にも、こうやって私の顔を見れないまま、そうやって恥ずかしがっているんだもの。
こっちの様子が気になってちらちらと見てくるのに、私と目が合うとすぐに逸らしてしまう。もう。こっち見て。

「……あつい」

ちいさく呟かれたその言葉を拾う。
私が欲しかった熱はあなたに溜まるばかり。それが、欲しいのだけれど。
ベッドが小さく鳴く。その音でこっちを見たあなたの頬を掌で包んだ。ね。こっち見て。
口が震えて、黎明色の瞳がまあるく、掌から熱が伝わる。あついね。
ねえ、それ、欲しいな。

「えいら」

言葉を乗せて、唇を重ねた。
触れたそこからびくりと身体が跳ねたのがわかる。
やわらかさを、感じて。触れて。心音が耳を打つ。
熱が伝わる。私の熱も、伝わってるでしょう。
少し唇を押しつけて、もっと柔らかさを感じてから離れた。
瞼を上げた至近距離。まあるくなった黎明の色。と、赤。赤。赤。
あなたの熱を貰ったように。私の熱も、あなたに渡されたみたい。
何だか無性にうれしくて、固まっているあなたに微笑んだ。
肩に、白金の頭が落ちる。
音になりきれない唸り声が喉で奏でられて、肩に触れた額が熱い。

「さーにゃ」

流れる細い白金から覗く耳も、首筋も、真っ赤。
掠れた声。

「のぼせそう……」

これくらいでのぼせてたら大変よ。
私の熱は、もっともっと、あるんだから。



【愛情】

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