鼻梁



「シャーリー! シャーリー!!」

可愛い子猫。
あたしのあとをいつも付いて回るね。

「おお、どうしたルッキーニ」
「見て見て! 芳佳がくれたの!!」

飛び込んできた小さな身体を抱き上げて問いかければ、満面の笑みで手にしたものを見せてくれた。
鼻さきに香ばしい匂い。クッキーか。

「うまそうだなー」
「でしょお!? シャーリーにもあげる!」
「いいのか?」
「特別だよ! あーん!」
「あーん」

特別の言葉に頬が緩んで、開いた口に香ばしさ。
甘さ控えめ。ジンジャークッキー。ははーん。

「サーニャも居たか?」
「何でわかるの? 見てたの?」
「いんや、なんとなく」
「シャーリーすごい!! エスパーだね!!」

きゃらきゃら笑いながら、自分もほっぺを膨らませるルッキーニを見る。
もごもご一生懸命食べる姿に、目を細めた。
こんな子供が、ロマーニャのエース。まったく、世界は馬鹿げてる。自分のことを差し置いて考える。
けれど、速さに焦がれてこんなところまで来た私と、力を見初められて母親と引き離されたこの子。こんな世界じゃなきゃこの子には会えなかったのも事実。
母親の面影を求めて懐いてくれる子猫。
内に飼うのは黒豹なんて獰猛な獣のくせして、兎にべったり。笑えてしまう。

「ルッキーニは可愛いなぁ」
「んにゃ、シャーリーなぁにー?」
「何でもないよ」

子猫の鼻筋に口付けた。
目を瞬かせて、すぐに太陽のような笑顔を浮かべてくれる。
子猫はすぐに大きくなる。立派な黒豹になる。自分が懐いていたものが、小さな白い兎だと気づくのは、きっと、もうすぐさ。
それでも。それだからこそ。

「シャーリー!」

可愛い子猫。
いつまであたしの名前を呼んでくれるかな。



【愛玩】

inserted by FC2 system