額
「えっ、ごめん、もう一回」
「エイラが、ちゃんと、言ってくれたんです」
「何て?」
「好き、って」
はにかむ少女は誰が見ても間違いなく可愛い。可愛いので。
「さーにゃんかわいー!!」
「きゃっ」
抱きしめてしまったのは仕方ない。そう、誰も私を咎められないのだ。うん。
一通りかいぐりして離したさーにゃんはちょっと頬が赤くなってた。可愛いねぇ。三つ年下の彼女を、私はとても可愛がっている。だって可愛いし。可愛いねぇさーにゃん。いやいや、私もプリティーエンジェルだけどね。
「で、ごめん、何だって?」
「ハルトマンさん、このやり取り、五度目です……」
さーにゃんの眉が下がる。うん。そうだね。五回目だよ。
でも私には俄かに信じがたいわけだ。だって。だってだよ。あのヘタレの名を欲しいままにして欲しがらないエイラが、あのエイラが!
「さーにゃんに好きって言ったなんて!!」
「こ、声大きいです!」
「好きだー!!」
「ハルトマンさん!」
もっと頬を赤くして慌てるさーにゃんに笑う。基地の隅っこ。私のお気に入りのひとつ。お小言からの隠れ家。そこに私たちは居る。ちょっとおっきな声を出したって宿舎に届くわけじゃない。そんなことを知らない、というかどこかいっぱいいっぱいなさーにゃんは誰かに聞こえやしないかドキドキなんだろう。違う意味でも常時ドキドキ。うはぁ、お熱いことで。けれど、その誰にも聞かれたくないようなことを、私にだけはこっそり、嬉しそうに伝えてくれたことが、私も嬉しいわけですよ。
「それでそれで? どんな状況で言われたの」
「私が哨戒の非番だった日の、寝る前だったんです」
「ほうほう」
「静かだな、あんまりしゃべらないな、って思ってたら」
「告られたと」
「……はい」
照れと幸せで白い頬を朱に染めてはにかむその姿。うん。
「さーにゃんかわいいいい!!」
「きゃあ!」
文句なしの可愛さでした。恋する乙女マジプリティー。
ぎゅむぎゅむと大して変わらないけれど私より少し小さな身体を抱きこんで銀髪に頬ずり。はー、ふわふわ。この感触を私より知らない人は、私よりもこの子のことを知っている。そう考えるとおかしくて笑えた。
私の震えに気付いたのか、腕の中で見上げてくる翡翠。うん。そうだね。とりあえず。
ふわりと前髪を避けて。
「おめでとう、さーにゃん」
そこに唇と触れさせた。
まあるくなる翡翠。その後の、照れた微笑み。
私も笑う。そうだなぁ。あと一つ、言うとしたら。
「あともうちょっと、頑張れ」
私の頭によぎること。
言うだけでこんだけかかったのに、手なんて出せるのかな。
そう思った私の心配はもちろん的中することになるんだけどね。