自覚なんてあるわけない

 


私は!!
アティ先生が!!
好きです!!!


というわけでめっちゃアティ先生至上主義です。
大体そんな感じ。










「先生さんもいい匂いするですよー」

その一言が引き金でした。
風雷の郷、ミスミの居城の縁側にてその匂いに気付いたのはアティであり、それがお香と呼ばれるものであると説明を受けていたら発されたのが上記の言葉です。

「……えっ」

興味深そうにそのお香の煙を見詰めていたアティさんが振り向くと、そこには上機嫌の花の妖精。
くるりと宙を飛び、満面の笑顔を浮かべてマルルゥちゃんはもう一度口を開きます。

「先生さんは甘い匂いです」
「私、ですか?」

そうですよー。マルルゥは知ってるです。
得意気に話すマルルゥちゃんに首を傾げるアティさん。
自身の袖を軽く引っ張って顔に近付けてすんすんと鼻を鳴らせど、自身の匂いなどよくわからずに困った顔をするのみの終わります。
そんなアティの隣で目を輝かせた人が、一人。

「とりゃっ」
「わわっ」

いきなり飛び付いてきた金色の髪に驚きながらも、そこは元軍人であり、その華奢な身体からは想像できないほどの身体能力をもつアティさんはぶれることなくそれを受け止めます。
飛びついてきたのは元気娘、ソノラさん。ソノラさんはアティ先生を抱きしめる、というよりは身長差から抱き着くと言った方がいいでしょう、首元に顔を埋めてしばらく。

「……はー、ほんとに甘い匂いするー」
「そうでしょうか」

脱力した声に、アティさんは更に苦笑を深めます。
そうして、ソノラさんの背中に緩く腕を回して、金色の髪に擦り寄ったかと思えば。

「私は、ソノラのお日様みたいな匂いの方が好きですよ」

そう、言いました。
直後、ばっと勢いよく離された身体。突っ張る腕によって空いた距離の先には、耳まで赤くした年下の女の子。

「センセー、そーゆーとこ直した方がいいと思う」
「えっ」

耳元でそれを囁かれた形の人にとったら、堪ったものではないのです。
口ごもりながら言って、そそくさとさらに距離を取ってしまったソノラさんに眼を丸くするアティさんは、色々とよくわかっていません。
おろおろし出すアティさんを見詰めて、何やら黙考していたミスミ様がその手を軽く上げます。

「ふむ。アティ、近う寄れ」
「はい?」

手招きに従って寄ってきたアティさんににこりと麗しい笑みを浮かべた鬼姫は、マントを巻き込むようにその細い腰を引き寄せます。
驚いて固まる周りの人、そしてアティさんを気にせず、肩口から流れた赤髪を空いた手で掬い、口元へ。
アティさんは下ろされた瞼が綺麗な睫に縁取られているのをただただ見るしかありません。

「なるほど、確かに甘い香よの」

やっと見えた瞳は、笑んでいました。

「ああああああああああのみすみさまそろそろはなしてください」
「なんだ、よいではないか、減るものでもあるまい?」
「ええええええ……」

この島には綺麗な人は数多居ようと、その中でも姫というある種別次元の綺麗な貌をこんなに近くで見ることにまだ慣れていないアティさんがちょっと泣きそうになっていました。
その隣で、ずずっとお茶をすする音。

「ふん、大方甘いものばっかり食べてるからじゃろう」
「ゲ、ゲンジさん……」

弟子を、先生が呆れた目で見ていました。



















帯剣はしない。
それが、その病室を訪ねる時の、アティさんが新しく自分に課したルール。
部屋の入口。入院という形で幽閉されている患者が勝手に出入りすることは出来ないその扉の横に、剣をそっと置きます。
とはいっても、その身体の内に果てしなき蒼を宿す彼女です。気分の問題と言えば、そうなのでしょう。そうだとしても、彼女が抜剣するとは思いませんが。
しかし今日この病室に訪ねたのは一人ではありませんでした。
アティさんが帯剣していない姿を見て眉間に皺を寄せて、その人は、やはり帯剣したまま病室の扉を潜ります。
かつて自身の部下を殺めた人。蟠りがないとは言いません。それでも、アティさんの姿を認めてしまったあとでは共に面会するという選択肢以外なかったのです。

「こんにちは。気分はどうですか?」

冷え切った瞳に向けて、笑顔を見せるアティさん。
アズリアさんはクノンさんから、アティさんが毎日ここを訪れていることは聞いていました。
ベッドに腰掛けたヘイゼルさんの視線が一瞬こちらを捉えたことを察しましたが、アズリアさんは何も言わずに壁に背を預けます。近くもなく、遠くもなく。おかしな行動をヘイゼルさんが取ろうとすれば、すぐにでも一閃が届く距離。
二人の間に緊迫感があるのに気付いているのか、いないのか。いえ、気付いているのでしょう。それでもアティさんは笑顔を崩しませんでした。

「何かほしいものはありますか?」
「甘いものが食べたい」

今日は珍しくちゃんとした答えを返して来てくれたヘイゼルさんにアティさんの目が輝きます。
病院食は飽きた。そう言ったヘイゼルさんにアティさんは、アルディラに聞いて大丈夫なら明日持ってきます、と笑顔で頷きます。
しかしそれだけでは収まらなかったのでしょう。視線を泳がせた後。

「あっ」

何かを思い出したのか、声を出し。
何事かと見てくるヘイゼルさんに向かって、両手を広げて。

「私、甘い匂いがするようなのでお腹の足しになるか解りませんが、どうぞ」

どやっ。
その笑顔は何故か自信に満ちていました。
アティさんの脳裏にあの日の記憶が浮かんだのは言うまでもありません。
沈黙。
何にも反応がないことに、あれ、と首を傾げるアティさん。

「……馬鹿なの、この人」
「……否定は出来ん」

聞こえたのは、視線を合わせることなくかわされた会話。
その二人は、アティさんを何とも言い難い目で見ていました。
困惑しているアティさんに、アズリアさんは溜息をつきます。

「そう言うこと誰にでもしてるわけではないだろうな」

問いに、瞬きをしたアティさんは口を開きます。

「この前スカーレルさんに言ったら、周りが怖いからやめてよね、って言われちゃったんですけど、どう言うことでしょうか」

答えにこめかみを抑えて、アズリアさんは問いを重ねます。

「ちなみに近くに居たのは?」
「アルディラに、ファリエルに、ソノラ、クノン、マルルゥ、あとはアリーゼです」

それがどうかしましたか、とアティさんは不思議そうにしていますが、指折り並べられた名前。凄まじい陣営です。
Sクラスサモナイト石と、大剣、槍。様々なものが浮かびますが、身震いを起こさせるのは脳裏に浮かんだ人たちの笑顔でしょう。

「珊瑚の毒蛇もそれ相手は辛いわね」
「心中を察する」

二人の言葉に、アティさんはやはり首を傾げるだけでした。


 

お察しの通りヘイゼルさんも好きです
外伝でヘイアティありだなって凄く思いました(真顔

 
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