近衛家21



それは真祖のほんの気紛れ。


「刹那、手伝え。拒否は許さん」
「え?」


そんな遣り取りが行われたログハウス。
数時間後。
お昼過ぎ、バイトから帰って来た明日菜がいつもの様に寮の部屋のドアノブに手を掛け、いつもの様に少し間延びした声で帰宅を告げ、いつもの様

に扉をくぐれば。


「お母さん〜」「お母さま〜」
「へ?」
『おかえりなさい〜』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」


満面の笑顔で紅葉のような小さな手を精一杯伸ばして抱っこをせがむ、何処かの誰かの面影がありすぎる、むしろ毎日鏡で見ているような、そして

ほぼ毎日顔を合わせているような、そんな幼女×2が出迎えてくれた。
数秒の空白の後。


「バカガモーーーーーーーッ!!!」


明日菜の怒号が響くことになる。


――――――


雪広あやかは混乱していた。
石化していた。
絶望していた。


「げ」「あ〜」


オレンジ色の綺麗な髪を靡かせた太陽のようなその人の腕に、彼女とそっくりの幼女が抱っこされていたのだ。
彼女に妹が居たとは聞いたことがない、何より、家族が居ただなんて聞いたことがない。
それは、つまり。


「明日菜、さん?」
「ち、違うのいいんちょ、これはピンポイントで深いわけがッ!」
「お母さん大きい声〜」
「だッ!」「おかあさん・・・」


聞きたくなかった。
そうであっても鼓膜を打ったその単語が示すのは、事実のみ。
あやかのいつも強い意志に満たされた瞳が、悲しみに染まっていく。
気を抜くと膝を付いてしまいそうな、気を失いそうなほどの、喪失感。


「そう、でしたの」
「ちょ、何だかとんでもない勢いで誤解してるでしょ!」
「いいえ、誤解なんてしていませんわ。あるのは事実でしょう?」
「それが誤解だっつってんのよ!!」
「その子が貴女を母と呼んでいることの、どこが誤解だって言うんですの!!


あやかの言葉が荒れる。
感情が止められなかった。
あまりの剣幕に明日菜の言葉が詰まり、力の抜けた腕から幼女が飛び降りた。
何かを見つけたのかあやかの後方に手を振っている。
だが、それに気を止めるほどあやかは、明日菜にも余裕はなかった。


「つまり、つまりはッ!私ではダメだったということでしょう!?」
「ち、違ッ!!」
「私は、これでも、貴女を本気で・・・!!」


逆上したあやかの感情を止めたのは、服の裾を引かれる感触。
視線を下げれば、そこにはオレンジと、金。
彼女にそっくりな幼女と、・・・・・。


「お母さまとケンカしちゃだめですわ〜」
「ダメだよ〜」


彼女を同じく母と呼ぶ、あやか自身にそっくりな幼女。
一瞬、思考が真っ白になった後。


「お父さん〜」「お父さま〜」


紛れもなくあやか本人に掛けられた呼び名。
あまりの衝撃に、あやかの意識は、途切れた。


――――――


「ったく・・・!!んで気絶とかすんのよ・・・!!」


何故か気絶したあやかを何とか自室へと運んだ明日菜。
そして自分たちにそっくりな双子の幼女はというと。


「お父さん〜」「お父さま〜」
「・・・・・・」
「お母さん〜、お父さん起きない〜」
「病気なんですの〜?」
「いや、病気じゃないから」


めちゃめちゃ心配気にパパを覗き込んでいた。
まだママ呼びされることに耐性の付いていない明日菜が微妙な顔をする。
もちろん、ママって呼ぶなとは言ったのだ。
ところが。


『ふ、ふぇ〜・・・』
「え、あ、ちょっと」
『ふぇ〜〜〜〜んっ!』
「な、泣かないでよ!」
「お母さんはあたしたちのこと嫌いなんだ〜っ!」
「お母さまは私たちのこと要らないんですわ〜っ!」
「そ、そうじゃなくて」
『ぅえ〜〜〜〜〜〜〜んっ!!』
「・・・・・っだー!わかったわよ!!」


こういうことである。
幼子の涙には敵わなかったらしい。


「ああもう、あのバカガモはどこいったわけ!!」


明日菜は今、ことの元凶を探しているのだ。
さきほどあやかに見つかったのは誤算だったが、実は一人で寮内を探していたら幼女たちがついてきてしまい自室に連れ戻す途中だったのだ。
幼女たち曰く『一緒がいい〜』。


「・・・・・・・・・・・・、とりあえず木乃香に電話してみるか」


おそらく式神であろうこの幼女たちのことなら、同じく式神を喚ぶルームメイトなら何か対処法を知っているかもしれないと、明日菜は携帯を手に

した。
確か愛しの護衛と一緒にログハウスに居るはずの木乃香。
それ何〜?と手を伸ばしてくる幼女たちをたしなめつつ、数コール。


明日菜?どないしたん?
「あ、木乃香、今大丈夫?」
ええよー、・・・・・明日菜今どこに居るん?何や小さい子ぉの声聞こえるけど
「ちょ、ちょっとね」


慌ててしーっと幼女たちにジェスチャーする。
あえて今何が起こっているかを言わないあたり、明日菜は木乃香の性格をよく知っているのだ。


「木乃香、式神について聞きたいんだけど」
へ?
「だーかーら、式神、ちびズのこと」
ええけど、式神のことやったらせっちゃんの方が知っとる思うよ
「あ、じゃあ刹那さんにかわって」
無理や
「は?」


キッパリと言い放たれた却下。
眉根を寄せる明日菜。


「何でよ!?」
なんやせっちゃんぐったりしとるんよ
「・・・・・・・・・・・・・・何したの、あんた」
そのせっちゃんが疲れる=うちのせい、みたいな公式止めてくれへん?
「八割当たるでしょ」
もうっ


誰がなんと言おうが事実だった。
本人は納得していないらしいが。


エヴァちゃんに呼び出されて、帰ってきたらこうなってたんよー
「エヴァちゃんに?修行?」
さあ?・・・・・・でもめっちゃ疲れてるん
「そうなんだ・・・」
寝顔かわえー☆
「あーはいはい、じゃあ切るわよ」


ぷちっと通話が切れた携帯を見詰め、数秒。
首を動かせば、無垢な瞳二対。


「お母さん〜?」
「どうしたんですの〜?」


状況は一歩も進んじゃいなかった。


――――――


「ふむ、持ってあとどのくらいだ?」
「三時間がいいところかと」
「やはりそのくらいか・・・・、改良が必要だな」
「・・・・・・・・・・・・」
「何だその眼は」
「いえ、ただこういうことに掛ける労力は凄いのですね、と」
「馬鹿にしているのか」
「恐れ多い」
「・・・・・・・・・・・・・・、最近嫌味の言い方があの眼鏡に似てきたぞ、お前」
「そうでしょうか」


水晶を眺めていた真祖が己の従者を半眼で仰ぎ見る。
しばらく無言の応酬が続き、真祖の溜息でそれは終結した。


「気と魔力の相性はいいはずだな」
「ええ、あの方には敵いませんが」
「あれと比べるな、別格だろう」
「そうですね。あとは気の最大使用量が問題かと」
「他人二人・・・しかも対象の魔力なしはキツイということか。ッチ、軟弱な・・・今度鍛えてやるか」


面倒くさそうに水晶を指で小突く真祖に従者が呟く。


「気が使えないマスターが言えないと思いますが。しかもアレはほとんどが気の産物です」
「・・・・・・・・・・・・・・、お前、眼鏡に悪影響受けてるな」
「とても良い友好関係かと」


今度は視線を合わせない。
微妙な沈黙の後、真祖の視線は水晶の隣にある紙の人型へ。


「・・・・・・しいて言うならあとは筆跡だな」
「今回は本人のものではありませんしね」
「・・・・・・・・・・・・・」
「どう書かせようか、とかお考えではないですよねマスター」


ピクリと小さな肩が動いたのを、従者はあえて流した。


――――――


明日菜は頭を抱えていた。


「お父さん〜」「お父さま〜」
「おと、おとうさん、おとうさま・・・・・」
『どうしたの〜?』
「子供が自分の父親を呼ぶ語。また、子供にとって父親のこと(大辞泉より)・・・!!」
『・・・・・、パパの方がいい〜?』
「父親。お父さん。また、子供などが父親を呼ぶ語(同上)・・・ッ!!」
『・・・・・・』
「そう呼ばれているのは、間違いなく私・・・・!!」


気がついたと同時に自身を覗きこんでいた幼子二人に父親呼びされてくわっと目を見開き何やら悟った!!みたいな感じに打ち震えているあやかを

見て、明日菜は頭を抱えていた。


「お母さん〜、お父さんが変〜」
「お母さま〜、お父さまがおかしい〜」


そして自分を母親呼びして袖をくぃくぃ引っ張っている双子に対しても頭を抱えていた。
あんたらが原因だ!!といっても理解してくれないだろう。


「おかあさん、おかあさま・・・・。子供が自分の母親を呼ぶ語。また、子供にとって母親のこと(同上)・・・ッ!!」
「いい加減にしろ!!」


スパーンッ!!


どこからか現れた厚紙で作られた打撃用玩具であやかは現実に引き戻された。
最初何の衝撃があったのか解らないようだったあやかだったが色んな意味で顔を赤くした明日菜を視線に留め、こちらも微妙に頬を染めて何だかも

じもじし始める。


「・・・・・・・・・・あの、明日菜さん」
「何よ、っつーか何でもじもじしてんのよ」
「いえ、あの、勘違いだったとはいえ私が逆上してしまったことを謝りますわ」
「へ?」
「ごめんなさい」
「あ、うん」


いきなり真摯な顔で謝罪するあやかに拍子抜け、明日菜は素直に頷く。
あやかは明日菜に歩み寄り、足もとの双子の頭を軽く撫でてからオッドアイを見詰める。


「で、本題ですけども」
「は?本題?」


そこで明日菜は気付く。
こちらを向く瞳が、微妙に遠いことに。
あやかがあくまで真面目に、そりゃあもう真面目に口を開いた。


「入籍はいつにs」
「目を醒ませこの馬鹿ッ!!」


スパコーンッ!!


――――――


「私としたことが、取り乱しましたわ」
「違う人格入ってたでしょ」
「はい?」
「や、もう、何かどうでもいいわ」


やっといつものあやかに戻り、明日菜は疲れ切った息を吐いた。
とりあえず誤解は解け、あやかの背中にくっついたり膝に乗ったりしている双子があのオコジョのせいだと説明を済ませたのだ。


「それにしても・・・そっくりですわね」
「まあ、たぶんあたしとあんたの式神だし」
「でも私、魔法とか陰陽道とかからっきしですわよ?」
「あたしだってそうよ。刹那さんから気の使い方を少しは教わってるけど」


二人とも式神生成をすることは不可能。
ならば何故二人にそっくりな式神がいるのか、それが疑問だった。
基本的には洗練された気と、莫大で質の高い魔力、このどちらも必要とするのだ。この特殊な式神を作るのには。他人の式神となれば、より高い技

術が必要になる。


「両方使ってってことになると、変なマジックアイテムだと思うのよね」
「それでどうにかできるんですか?」
「そうじゃなきゃ納得できないじゃない。気と魔法どっちも使えて他にこんな事するような人知らないし」


明日菜がカモを探している理由はそれに尽きた。
犯人は彼女の中で確定しているのだ。悔やむべくはそれを否定してくれる人と違う予想を立てる人がいなかったことだろう。


「で、よ」
「はい?」
「もうばれちゃったから、いんちょにも協力してもらうわよ」
「それは、他人事とは思えませんし」
「他人事、ねぇ・・・」


明日菜の視線が双子に向く。


「お母さん〜?」「お母さま〜?」


二人にそっくりな幼女から発せられる呼称。
明らかに他人では、なさそうだ。
乾いた笑いが、明日菜から漏れた。


――――――


「部屋でお留守番してなさい」
『ふ、ぇえぇ・・・っ』
「・・・・・・・・泣いてもダメ」
「明日菜さん、可哀想ですわ」
「お父さん〜!」「お父さま〜!」
「あーもう、ほら!甘やかすから!」
「いいじゃありませんの。ねー?」
『ね〜♪』


なんてやり取りが交わされ、仕方なく双子と一緒に捜索することになった明日菜たち。
言い訳は、従姉妹。
悪戯に成功したならばその成果を見ていないはずがない、そう踏んだ明日菜さんは寮内に目星をつけていました。
周りを警戒しつつ、廊下を進んで行きます。


「ちっこいのが本当にいると、あの近衛夫妻の凄さが解るわね・・・」
「確かにお二人はもう普通に親みたいですものね」
「ちびズがいないと逆に違和感感じ始めたわよ、最近」


そこにいることが当たり前になってきた日常。
それが異端ではなく正常と感じてきた生活。


「刹那さんなんて自然すぎる子守りだし」
「最初は微妙な顔していましたのに」
「ほら、奥さんが教育上手だから・・・」
「ああ、操縦されてるってわけですか・・・」


二人とも遠い目になり、近衛家の未来の婿養子を思い浮かべる。跡取り娘の隣に居られるのは、翼ある剣士しかありえないのだ。
尻に敷かれている、ともいう。


「この前なんてお散歩の時の注意事項とか聞いたわよ」
「へぇ、どんなものがあるんですの?」
「ちびズから絶対に目を離さない、もしくは手をつないでるってのが最重要みたい」
「ああ、どこに行っちゃうかわかりませんし、ね・・・」


そこで二人の会話がぴたりと途絶え、歩も習うように止まった。
背中に伝う汗。ごくりとなる喉。何度確かめても何も掴んでいない両手。聞こえない小さな足音×2。感じない気配×2。
意を決して同時に背後を振りむき。


『いない』


二人の子守りは、見事に躓いた。


――――――


「ん、ぅ・・・」
「あ、せっちゃん起きた?」


刹那の視界に最初に映ったのは木乃香の満面の笑み。頭の下には明らかに人肌。慌てて起き上がることは安易に予想されたので、ぶつからない様に

上半身を少し引いた木乃香の眼前を黒髪が過ぎ去った。


「なななななななん、何で・・・!?」
「せっちゃんいきなりお眠やったんよ?」
「へ?・・・・・あ」


寝惚けていた脳が覚醒し、刹那は倒れる前のことを思い出す。
つまり、あれが、あれで、ああなって、今に至ると。頭を抱えた。


「どないしたん?百面相しとったよ?」
「あ、いや、その、・・・・・・・ナンデモナイデス」
「・・・・・・。ふぅん?」
「・・・・・・・・・」


カタコトに帰ってきたのは笑顔。
とてつもない対刹那用プレッシャー。それでも口を開かずに視線を逸らす刹那。どうやらかなり言うにはばかることのようだ。


「・・・・・、エヴァちゃんのお手伝いしとったんやろ?」
「あ、はい」
「何の?」
「・・・・・エヴァンジェリンさんの個人的なことです」
「プライベートねぇ・・・」


ニコニコ笑顔。
居た堪れない刹那は別の話題を切り出した。


「ち、ちびたちは、どうしたんですか?」
「ん?ああ、ちびちゃんたちはさっきのどかと一緒に寮に帰ったよ。皆と一緒にいるようには言ってあるから、心配せんで」
「あ、そうなんですか」


どうやらちびたちはここにはいない模様。
つまり、二人きり。


「で、せっちゃん。うっかりせっちゃんがエヴァちゃんのプライベートなこと話しても、うちしか聞いてへんよ?」
「・・・・・・・・ぁぅ」


はんなりと尋問は、続く。


――――――


「いんちょが手繋いでないから!」
「明日菜さんも人のこと言えないでしょう!」


余りにもなすりつけ合いな言い争いをしながらも明日菜たちは寮を駆け回っていた。
途中で会うクラスメイトたちに不自然な笑顔を向けつつ、何とか気取られずに双子を探し回っていた。


「クラスの皆に見つかったとしたら一瞬で知れ渡るから、まだ見つかってないってことよね」
「なら、早く見つけないと」


人があまり来ないホール。
そこがある人物の手品の練習場所だとは二人は知らない。
そのホールに続く角を曲がろうとした瞬間。


「誰ですか〜?」「誰や〜?」
「誰〜?」「誰ですの〜?」


二人にクラスメイト達よりもある意味絶望的な二人と、双子の声が聞こえてその姿を隠した。


――――――


近衛家の双子こと、双那と桜香。
マジックの練習見学を堪能して、さてのどかお姉ちゃんたちに会いに行こうかと思った矢先。
現れたのは何だか見覚えのある、それでも見たことのないオレンジと金色。
相手の二人も驚いたらしく、ぱちくりと瞬き。


「初めて会いますね〜」
「そうですわね〜」
「ここに住んでるん〜?」
「わかんない〜」


しかしそこは幼児同士。
二言三言で警戒心は解かれます。


「どうしてここにいるんですか〜?」
「探検してたの〜」
「探検〜?」
「そしたらお父さまとお母さまがいなくなったんです〜」


むしろ自分たちが居なくなったとは考えない。
隠れている二人の、どっちが!とかそんなツッコミは聞こえない。


「父上はどんな人なんですか〜?」
「ん〜、きらきらしてて〜、お母さんに勝てない〜」
「母様はどんな人なん〜?」
「ほんとはすっごく優しくて〜、お父さまが勝てない〜」
『へ〜』


ちびたちの会話を聞いている隠れた二人が互いにちらりと相手を見て、それからすぐに逸らした。その頬は、赤い。


「そっちのお父さんは〜?」
「いっつも守ってくれて〜、母上に勝てない〜」
「お母さまは〜?」
「ふんわり笑ってくれて〜、父様が勝てない〜」
『同じ〜』
『うん、同じ〜』


遣る瀬無い気分に駆られる隠れた二人を知らずに、ちびたちの会話は弾んだ。
しばらく幼い笑い声が聞こえていたかと思えば、双那が首を傾げる。


「そういえば名前はなんて言うんですか〜?」
「名前は〜・・・・・ない〜・・・」
「ないん〜?」
「ないですわ〜・・・」


その事実に気付いた双子がしょんぼり肩を落とし、近衛家の双子が同時にぽむっと手をたたく。


『母上(母様)に付けてもらえばいいよ〜』
「お母さまに〜?」
「わたしたちはそうでした〜」
「つけてくれるかな〜」
「つけてくれるよ〜」


隠れている金色の方の視線が、双子二組からオレンジに向き、それに彼女が気付く。


「こっち見ないでよ・・・」
「あ、すみません」
「ふん・・・」


そんなこんなで妙に生暖かいというか、微笑ましい光景と雰囲気だったものが近衛家の双子の声により粉々に砕かれることとなる。


『あ』
『どうしたの〜?』
「父上と母上の足音です〜っ」
「お迎えや〜っ」


それに焦るのが隠れている二人である。


「まずいっ!刹那さんならともかく、木乃香に見つかったら終わる!」
「内緒にしてくれませんの?」
「ちびズに同年代の友達欲しがってたのよ!」
「それはマズイですわ!」


しかし今ちびたちの前に出たらその呼称からばれることが必至。どうすることもできずに慌てる二人の眼前で。


『あ』『え?』

ボシュッ!!


双子の姿がかき消え、一瞬現れた人形が燃え尽き跡形もなくなった。
やはりその負荷に耐えられなかったのか、未完成だったからなのか。
双子が消えた一拍後、木乃香が姿を現す。


「ちびちゃんたち、帰るえー。あれ?二人だけなん?声聞こえたんやけど」
『さっきまでいたよ〜』
「誰が?」
「わたしたちと同じくらいの二人〜」
「え?ちびちゃんたちと?」
「お友達になったん〜」
「どんな子たちやったん?」
「ん〜、誰かに似てた気がします〜」
「でもわからん〜」
「そかー」


母娘の会話を聞き、何となく刹那の視線が泳いでいることは誰も気付かない。
近衛家がこの場を去り、


「・・・・・・・とりあえず、問題なし?」
「そう、ですわね」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「ぁー、うん、えっと、手伝ってくれて、ありがと」
「いえ、それでは私はこれで」
「うん・・・」


何となく気恥かしい中、遠ざかる背中を見詰めていた明日菜がよし、と気合を入れなおす。


「覚悟しなさい、バカガモ・・・・」


その日。
何か小動物的な断末魔が寮内から聞こえたとか、聞こえないとか。













「あら、ちびズ、二人でお散歩ですの?」
「ううん〜、亜子お姉ちゃんのところにいくんです〜」
「そうですの」
「・・・・・・・・・・」
「おうか〜?」
「あやかお姉ちゃん、誰かに似てる〜」
「!?」
「あ〜、ほんとです〜」
「誰やったっけ〜」
「誰でしょう〜」
「そ、それでは私は失礼しますわ!」
『ばいばい〜』


あれから数日。
ちびズに会うのを避けるあやかが目撃された。

頑張れ、パパ(予定)。

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