近衛家19



まだ彼女らが中等部2年の頃。
家庭科の授業とかで一度はあるであろうこのテーマ。
自身の生い立ち、名前の理由、家族構成・・・。
所謂家族がテーマなモノ。
が、このクラスは他のクラスとは違い、事情が複雑な生徒が多いためそのテーマの中から選別しなければいけなかった。
それが・・・。


「自分の子供、かぁ」


想像の域を出ないとは言え、必要な物、資金、その他諸々をシミュレートする授業が行われたのだ。
その授業が行われた日の、お昼休み。
いつものようにお弁当を広げていたハルナが呟いた一言が伝播し、その場に居た美術部員や図書館探検部員にも話は広がる。


「あたし、ガキ嫌いなのよね・・・」
「それとこれとは別でしょ。・・・・・・明日菜の子供って絶対明日菜に似てツンデレだよね!」
「ツンデレゆーな!!」


煌く笑顔のハルナに反論する明日菜。
それをいつものことと流しつつも、夕映は隣に居るのどかに目を向ける。


「のどかの子供は凄くシャイな子に育ちそうですね」
「そ、そうかなー」
「物分りがよすぎて困る感じです」
「ぅー、我侭とか言って欲しいんだけど・・・」
「のどか、自分の幼少期に我侭言いました?」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・ほら見ろ、です」


ほんのり凹むその様子を見つつ、パックジュースを啜る夕映。
そしていつの間にか抗議を受け流し終えたハルナが、会話を微笑ましく見守っていた一人に声を掛けた。


「木乃香は?」
「ふぇ?」
「だーかーら、自分の子供。どんな感じだと思う?」


いきなりの振りに思考が追いつかない木乃香を尻目に、彼女のルームメイトが口を挟む。


「木乃香の子供だったら和風美人ね」
「男の子だったら和風美男子ですね」
「これだから遺伝子に恵まれたやつは・・・」
「ハルナ、その僻みはどうかと思います」


誰もが認める和風美少女。
その木乃香の子供の想像図が皆の脳内では構築されていた。


「う、うちに似ぃひんかも知れへんよ?」
『・・・・・・・・』
「な、何?」


妙な沈黙と共に注がれるこれまた妙な視線。
それに若干腰が引ける木乃香。


「木乃香って面食い?」
「そうやない思うけど・・・」
「絶対美形捕まえると思うんだけど、あたし的にそうじゃないと何かイヤ。創造的な意味で」
「ハルナ、黙ってください」


そう言うイメージらしい。
苦笑する木乃香にのどかがおずおずと口を開いた。


「こ、木乃香さんはどんな子供が欲しいですか?」
「んー?・・・・せやねぇ」


視線を空に彷徨わせて数十秒。
ぽむっと古典的に手を鳴らした木乃香は笑顔で言った。


「優しい子」
「これまたざっくりな・・・」
「ただ優しいんとちゃうよ?」
「では、どんな?」
「人のこと、考えられる優しい子」
「・・・・よく解んない」


にこにこ微笑み続ける木乃香に疑問符を浮かべつつ、ハルナはさらに問いかける。


「容姿は?やっぱ自分に似て欲しい?」
「女の子でも男の子でもええけど、2人以上居てー、どっちかうち似で、どっちか相手似がええなー」
「ほうほう、で、相手似の想像図は?」


不特定な未来の予想図。
少しだけ考えて、木乃香は返答する。


「・・・・、子供やから可愛らしいけど・・・少し凛々しなる思う、相手似やと」
「美形フラグ。やっぱ木乃香、面食いなんじゃない?」
「面食い・・・なんやろか」


眉根を少しだけ寄せて小首を傾げる木乃香に、今度は夕映が問う。


「では、質問です。相手の基準となる要素を答えてください」
「ん?うん」
「容姿は?」
「綺麗やけど凛々しい感じ」
「性格は?」
「真面目で優しい、・・・・ちょぉうっかりさんやとええな」
「特技は?」
「・・・・・武道、かな」
「恋愛感覚は?」
「一途やろなぁ」


答えていくうちに再びにこにこ微笑む木乃香に、溜め息が洩れる面々。
どう考えても。


「木乃香、面食い。しかも理想高い」
「え、ほんま?」
「ほんま。何そのプリンス、どこにいるわけ?」
「いるよ!」
「いないわよ」


何故か断言する木乃香に呆れる明日菜。
そこまで自信がある理由がわからない。
ここで話は明日菜の子供予想図にまた戻り、お昼休みは過ぎていった。


――――――


麻帆良学園女子中等部のとあるクラス。
家庭科の授業。
一年前と同じテーマの授業が行われた。
あの時の自分と、今の自分。どのように考えが変わったかを見るためである。
そしてその日の帰寮後、自室にて。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「な、何?明日菜」
「いや、何かもう、呆れを通り越してね・・・」
「へ?」


生ぬるい視線を送ってくる隣席の人物に困惑しつつも木乃香は言葉を待つ。
ややあって吐き出すように明日菜は呟いた。


「理想の相手とか言ってたけど・・・・特定の人物を想定してたでしょ、あん時の木乃香」
「あん時?」
「一年前の家庭科」
「・・・・・・・・・・ぁー」


思い当たったのかはにかむ木乃香に溜め息しか出ない明日菜。
過去のあの日。
彼女が言った条件が全て揃った人は確かに居たのだ。
それも、極近くに。


「一年前はまだどんな人なのかわかんなかったから予想できなかったけど、今なら簡単に出来るわ・・・お手本が居るんだから」
「あははー」
「頬を染めるな、うっとうしい」
「あ、酷い明日菜」
「うっさい、その弛みまくった顔に当てられんのよ」
「・・・・・・・・・・・・・明日菜やって真逆書いてたやん、ツンデレー」
「何か言った?」
「いいえー、何もー」
「うわ、何かムカつく」


含みのある笑顔に顔を顰めつつ、明日菜は二度目の溜め息を漏らす。
それと同時に玄関が開く音。
そして幼い二重音声。


『ただいま〜ッ!!』


とたたたたっと駆けてくる音におかえりと返して、二人の視線の先のリビングの入り口に姿を見せる小さな影2つ。


「母上〜っ」「母様〜っ」


自分似の娘と、相手似の娘。
木乃香が望んだ通りの双子。
母親にハグする幼子2人を眺める明日菜は思う。


(・・・・・・・・見事にその通りよねー・・・・さすが魔術師名家の跡取り娘)


先見の能力があったのか、魔力のお陰か、想いの強さか。
はたまた、それら全てか。
苦笑する明日菜が気配を感じてリビングの入り口に視線を戻せば、そこには入室を詫びる“相手”の姿。
ちょっとした、好奇心。
明日菜はその“相手”に問いかけた。


「・・・・・・・・ねぇ、一年前の家庭科で、自分の子供どんな風に考えた?」
「はい?」


きょとんとした顔が、双子の母親の考えの理由を聞いて真っ赤に染まりあがるのは5分後。

頑張れ、過去の“理想の相手”にして、現在の“パパ”。

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