近衛家1



あるうららかな休日。
麻帆良学園都市の一角から強大な魔力が感知された。
その魔力量は、某真祖様の睡眠を邪魔するほどだったと記述しておこう。
そして驚いてベッドから落ちた真祖様を、その従者がばっちり目撃していたことも一応明記しておく。

「出来たー!!!」

麻帆良学園女子寮、中等部区画、3−A棟、643号室。
その室内で歓声を上げる少女が一人。
そして。

「ん〜?」「ふぇ〜?」

少女の向かいには、三歳ほどの幼女が二人。


−−−−−−


女子寮の3−A棟の廊下に人影。
早乙女ハルナ、綾瀬夕映、宮崎のどか。
言わずもがな仲良し三人。

「暇ねぇ〜」
「そうですね」
「平和だねー」

最初に喋った者の言葉を要約すると“何か起こんないかなぁ〜”。

「ハルナ、その事件を望むように周囲を見回すの止めてください」
「えぇ〜、いいじゃん夕映ー」
「ハルナ・・・・事件がない方がいいよ?」
「わかってないな〜、のどか。人生にスパイスを与えてくれるのは事件よ?」
「ハルナの場合は事件=ネタでしょう?」

その三人の反対側から歩いてくる人影。
が、三つ。

「お?」
「幼児、ですね。真ん中の方の連れでしょうか」
「でもあれって・・・」

真ん中の一人はともかく両脇の人影はあまりにも小さかった。
一メートルにも満たないの身長。
おそらく八十センチほどであろう。
この寮に相応しくない幼児二人と手を繋いでいる人物を見た瞬間。


ギュピーーンッ!!


謎の効果音を発し、ハルナがその人物へと駆け寄って行った。
慌ててハルナを追う夕映とのどか。
このままハルナを放っておいては大変なことになることは経験済みだった。
悲しいことに、経験済みだった。
駆け寄りながらもハルナは幼児たちを連れた、己の友人の名前を呼ぶ。

「木乃香ーーー!!!」

その人物、近衛木乃香はというと三人を確認して、その場に止まった。

「ハルナ。どないしたん?」
「どないしたも何も、それこっちの台詞よ!誰この子達!!」

そう叫んだハルナはしゃがみこみ、木乃香と手を繋いだ幼児たちを見つめる。
しかしいきなりの事態に驚いた幼児たちは木乃香の後ろへと隠れてしまった。

「あ〜ぁ、ハルナが怖がらすからやえ?」
「ご、ごめん・・・怖くないから出ておいで〜?」

その言葉に少し顔を覗かせる幼児たち。
が。

『・・・・っ!!』

やはり隠れてしまった。

「な、何で・・・っ!?」
「ハルナの眼のせいでしょう」
「そのネタを求めるような眼のこと怖がってるんだと思うけど・・・」
「二人とも、この頃キッツいよ・・・・?」

やっと追いついた夕映とのどかから追い討ちがかかった。
それに打ちのめされるハルナ。

「で、木乃香。この子達は誰ですか?」
「ん?ああ、紹介しよかな」
「お願いします。ハルナ、邪魔です」
「・・・・邪魔・・・っ!?」
「ハ、ハルナ、普通にしてれば怖がらないと思うから・・・」
「ぅぅ・・・わかったわよ」

ハルナが一旦離れ、夕映たちと同じところまで後退し、木乃香は後ろに隠れる幼児たちに優しく声をかける。

「ちびちゃんたち、ほら、怖ないえ?出て来ぃ」

その声に答えるかのように、幼児たちが木乃香の後ろから姿を現す。
配色は同じだがデザインが少し違った服を着た幼児たち。

ほんわかした雰囲気の幼女と。
中性的な顔立ちの幼女。

二人とも肩を超えるくらいの黒髪に、くりくりした目を持つ、美幼女だった。
その幼児たちはハルナたち三人を見上げた後、木乃香へと向き直り、言った。

「母上〜・・・」「母様〜・・・」
「ね?怖ないやろ?」
『ん〜』

ふにゃりと笑う幼児たち。
それはとてつもなく愛らしいものだったのだが、紹介された三人はそれどころではなかった。

『母上・・・母様・・・!?』

幼児たちが発したその単語が脳裏を駆け巡っていた。
その思考からいち早く脱したのはハルナ。

「木乃香!「スックーーーップ!!!」おぉうっ!」

しかし木乃香を問い詰める声は、別の声に遮られることとなった。
その遮った人物はデジカメを構え、木乃香たちを激写していた。

「麻帆良学園女子中等部3−A、近衛木乃香!双子を出産!?」

おそらく新聞の見出しであろう言葉を叫びながら、激写していた。
どうやって現れたとかは考えてはいけない。
彼女はスクープあるところに現れる習性なのだから。
その人物の名は朝倉和美と言った。
そしてそれにハルナも便乗して叫ぶ。

「木乃香!いつの間に双子なんて生んだの!?」
「一面で決定ね!この記事!!」

ヒートアップする二人ににっこりと微笑んで、木乃香は答える。

「実はネギ君とエヴァちゃんに頼んで魔法を少し、な」

木乃香の証言をこの場に某魔法先生と某真祖様が居れば否定していただろう。

「さすが魔法・・・・なんでもありね」
「妊娠したこと知らなかったのも頷けるわよね」

それにまったく疑問を持たないハルナと和美。
素直とはまた違う気がしてならない。
強いて言うなら、馬鹿。
ちなみに夕映とのどかはすでに事実を何となく察知していた。

「木乃香さん、この子たち・・・・・」
「あ、ばれてもうた?」
「やっぱりそうなんですか」

全てを理解した夕映とのどか。
そして確信犯木乃香。

「う〜ん・・・こっちの子は木乃香似だよねぇ」
「母様〜、この人たち怖い〜っ」
「・・・・ねぇ、こっちの子、誰かに似てるんだけど・・・・」
「母上〜、この人たち変〜っ」

ハルナたちはその間も幼児たちの前にしゃがみこみ観察を開始。
当たり前だが幼児たちはかなり怯えていた。
と、ハルナが何かに気付き中性的な顔立ちの幼児に言う。

「・・・・・ねぇ、君、髪の毛左側に纏めてみてくれない?」
「母上に下ろしてもらったのに〜・・・」
「また父様と同じにするん〜?」
『父様と同じ・・・・!!!』

ハルナと和美の背後にピシャーンッと雷が突き刺さった。
それほどの衝撃度だったのだろう。
父親が誰か推測できたらしい。
そんな混沌極まる一団にさらに来訪者。

「お嬢様」

木乃香の後方から現れたその人物の姿を捉える幼児たち。

「どうなされたのですか、ってちびたち!?」
「あ〜、父様や〜!」「父上助けてください〜!」
「ぉあっ!な、何だ?」

ぽてぽてとその足元に駆け寄る、いや、避難した。

『父親発見!!!』

本来形容されるはずがない単語を叫ばれたのは、もちろん桜咲刹那。
その刹那の足元でぐずる幼児たち。
それの対応に追われ、刹那は自分がどう言われたのか気が付かなかった。

「ちょ、ちびたち、何でこんな姿に」
「父様〜、あの人たち怖いん〜・・・っ」
「怖い?」
「わたしたちのことずっと見るんです〜・・・っ」
「ずっと見る?」

しゃがみこみ、幼児たちをあやしていた刹那。
そしてその怖がらせていたであろう二人を見る。
しかし。

「木乃香!刹那さんの子でしょ!?」
「他に誰がいるん?」
「だよね!!」

二人は幼児たちの母親への質問に忙しかった。
その質問内容を理解し。
その質問への回答を理解し。
さらには己の置かれた状況と、おおまかにこれに至る経緯を理解した刹那。
最も恐れていたこと。
同人娘と報道娘にこの幼児たちのことがばれてしまった。
時は、遅すぎた。

「で、認知はしたんだよね桜咲!?」
「認知って・・・!?」
「パパって呼ばれてるもんね!!」
「パパ・・・!?」

質問責めに遭うこととなった刹那。
ちなみに幼児たちは刹那にしがみついてさらに怯えていた。
それを木乃香は微笑んで、夕映は呆れて、のどかは心配そうに見ていた。
止める気は、あまりない。
むしろ、止められない。

「ちっがーーーうっ!!」

と、質問に押されていた刹那の否定の叫びが響き。
質問者たちの動きが止まった。
だが、そのあまりの否定っぷりに幼児たちがさらに泣きそうになる。

「父上わたしたちが嫌いなんですか〜・・・?」
「父様嫌っちゃいやや〜・・・」

二対の丸い瞳に溜められた水は決壊寸前で、刹那は慌てて弁解しだす。

「ああっ!ち、違うんだ、嫌ってなんかないっ」
『ほんと〜・・・・?』
「本当だ!ほら、泣かないで・・・・」
「父上〜っ」「父様〜っ」
「はぁ・・・・」

ぎゅうっとしがみつく幼児たち。
そして泣かなかったことに安堵する刹那。
何処からどう見ても。

『やっぱ父親じゃん』
「違いますっ!!」
『ぅう〜・・・・』
「や、ち、違うっ、そうじゃないんだっ」

質問→否定→泣き→慰め→質問→・・・・・。
エンドレス悪循環であった。
それを止めるべく、刹那がさらに叫ぶ。
己の君主に向かって。

「お嬢様!笑ってないでちゃんと説明してください!!」
「やーん、せっちゃん怒らんといて♪」

明らかに、木乃香は楽しそうであった。


−−−−−−


「で?」
「だから、【式神】です」

いまだ女子寮の廊下。
そこで説明は続けられていた。
約二十分にも及ぶ木乃香による(刹那補足)説明を要約すると。

この幼児たちは木乃香と刹那、それぞれの式神。
父、母と呼ばれているのは式神たちが言い始めたから。

とのことだった。
が、不明な点がある。

「何で、普通の人間っぽくなってんの?」

そうなのだ。
いつものように浮いてはいなく、地面を歩いている。
さらにちびせつな、ちびこのか共に三歳児ほどのサイズ。
というよりも、本当に幼児にしか見えないし、実際、感触も全て人間そのもの。
今はハルナたちが危険でないと知り、刹那の足元で大人しくしていた。

「それは私もお嬢様にお聞きしたいのです」
「え?刹那さんも知らないの?」
「はい。今朝ちびせつなをお嬢様に預けてからのことは知らないんです」

疑問の視線は木乃香へと注がれた。
それにニッコリ微笑んだ木乃香。

「言わな、あかん?」
「あかん、です。お嬢様」
『あかん〜』
「ちびちゃんたちまで・・・」

ちびたちも刹那の口真似をしていた。
愛する夫と可愛い娘たちにそう言われれば、口を割るしかなかった(木乃香視点)。

「修学旅行でせっちゃんが《キャーヤ》言うて、ちびネギ君のこと等身大にしてたやん?」
「・・・・ああ、はい、確かに」
「それでな・・・ちょぉ、試したくなってん」
「ま、まさか・・・」
「お父様に聞いて、やってみたんよ」
「え、詠春様・・・っ!!」

刹那の脳裏に“はっはっはっ”と笑う関西呪術協会の長の顔が過ぎった。
果てしなく爽やかだった。
愕然とする刹那。
とは言うものの、まだ疑問点はある。

「でもあれって確か、見せ掛けだけじゃなかったっけ?」
「っは、そうです!何でほぼ人間に構築されてるんですか!!それに言動もいつもより幼くなっていますし!!」
「それはなー・・・・」
『それは〜?』

ハモるちびたちに微笑んだ後。
木乃香の口から、とんでもない事実が飛び出した。

「うちにも、わからへんねん」


−−−−−−


吸血鬼の真祖。
エヴァンジェリンの家。
そこに向かう一行。
すなわち、女子寮の廊下で口論をしていた六人+二人(?)。
木乃香が言うにはどうやら術は成功し、ほとんど本物の人間に近いちびたちが出来て喜んだものの、不思議に思って札に戻そうとしたが、戻らなく

なってしまったらしくどうしようかとちびたちを連れて散歩していたとのことだった。
現在、解除法を知るためにかの人の家に赴いている途中。

「私でも札に戻せませんでしたし・・・」
「エヴァちゃんに聞くしかないねー」
「うちはこのままでもええよ?」
「そういう訳にはいきませんっ」
「ぷー」
『ぷ〜』
「ちびたち、真似するな・・・」

ちなみにちびたちは刹那が抱っこしている。
それに至る経緯はというと。


〜〜〜〜〜〜


「父上〜」「父様〜」
「何だ?」
『だっこ〜』
「だっこ?」
『だっこ〜〜』
「疲れたんやね」
「そうみたいですね・・・・よっ、と」

現在幼児であるちびたちは歩き疲れたらしく。
寮を出た辺りで刹那を見上げ、両手を伸ばしてきたのだ。
右手にちびせつな、左手にちびこのかを抱えた刹那。

「高いです〜」「高いな〜」
「いや、お前たちは元々浮いてただろう・・・」
『楽しい〜☆』
「落ちんようにしとるんよ?」
『は〜い♪』
「まぁ、いいか・・・」

微笑む木乃香、苦笑いの刹那とその腕の中ではしゃぐちびたち。
それを見た四人。

「親子だね」
「木乃香さん、いいお母さんですね」
「刹那さんも凄い理想のパパじゃない。某カエルとはまた違う感じに」
「そうですね・・・・・カエル?」
「気にしたら負けです」
「優しいし、格好良いし、完璧ね」
「妻の尻に敷かれてるってとこも重要よね、いい意味で」
「うんうん」

どうでもいい総評をしていた。
ちなみにそれを聞いていた理想のパパ。

「そこ、変な会話をしないでください」

半眼でそう言い放った。


〜〜〜〜〜〜


こういうことだった。

「このままの方が楽しい思うよ?」
「ですからそういう問題では・・・」
「父上〜」「父様〜」
「ああもう・・・・」

エヴァンジェリンの家まで、あと少し。


−−−−−−


「近衛木乃香!あの魔力はお前だろう!!」

開口一番の真祖様の言葉はコレだった。
何故かご立腹のようだった。
それに疑問符を浮かべる一行。

「どうしたん?エヴァちゃん」
「マスターは今朝木乃香さんの魔力に驚いt「茶々丸!!」失礼致しました」

プリプリ怒るエヴァンジェリン。
何があったのかは茶々丸しか知らない。

「ぅわー。刹那さん、誰この子たち」
「かわいいですね」
「えっと、その・・・」

そしてこの家には修行に来ていた明日菜とネギも居た。
二人ともちびたちに興味津々。

「それで・・・・刹那が抱えているそのあからさまに怪しいガキどもは何だ?」
「せや、この子たちのことで相談があるんよ」
「どういうことだ?」
「実は・・・」

エヴァンジェリンと茶々丸、そしてついでに明日菜とネギに今に至る経緯を説明する木乃香。
説明を聞き終わったエヴァンジェリンは納得がいったと言う顔をする。

「なるほど・・・それであの魔力か・・・」
「ん?」
「いや、こちらの話だ」
「それでな、せっちゃんがこのままにしてたらあかん言うんよ」
「当たり前ですっ」
「せやから札に戻す方法教えてくれへん?」
「ふむ・・・・」

何やら思案するエヴァンジェリン。
ちびたちを抱える刹那を一瞥したかと思うとニヤリ、と笑った。
間違いなく何かを企んでいる顔だった。
それに計り知れない嫌な予感がした刹那。

「いいぞ、教えてやる。ただ、この術を施した木乃香に少し面倒なことを覚えてもらわなければならん」
「ええよ」
「それなら、早速教えてやろう。地下に来い」

こうしてエヴァンジェリンと木乃香は地下室へと去って行った。
残された一行は茶々丸にお茶を頂きながら待つこととなった。
結局、解除術を教えてくれると言うエヴァンジェリン。
先ほど感じた嫌な予感。
それは気のせいだったと刹那は思い込むことにしたようだった。

「どうぞ」
「ありがとうございます」

茶々丸からお茶が出される。
ソファに座った刹那。
その右腿にちびせつな、左腿にちびこのかが乗っかっていた。

「父上〜♪」「父様〜♪」

そしてちびたちは髪を引っ張ったりとじゃれていた。

「こら、止め、い、いてて・・・」
『きゃ〜〜☆』
「きゃー、じゃなくて・・・」

困った顔でちびたちを見る刹那。
それ見る明日菜たち。
感想は一つしかなかった。

「見事にファザコンに育ってるわね」

それしか、ない。

「た、確かに刹那さんにべったりですけど・・・」
「刹那さんが大好きなんですね・・・」
「仕方ないと思いますよ。母親が母親ですし」
「母親のDNAなわけね」
「ああ、木乃香のだったら納得」
「容姿にはちゃんと出てるけど、性格のDNAまで尻に敷かれてるのね・・・」
「可哀想に・・・」

数名が生ぬるく刹那を見ていた。
その視線に気付いた刹那。

「物凄く哀れんだ、かつ笑った目で見るの止めて頂けませんか・・・?」
「いや、だってあまりに不憫で・・・頑張って、婿殿」
「婿殿・・・・?しかもDNAとか関係ありません。式神なんですから」
「それについては否定できかねます、刹那さん」

刹那の言葉を否定したのは茶々丸。
一同が茶々丸へと顔を向ける。

「おそらく陰陽術に木乃香さんの魔力が加わったことにより、式神たちがこの状態になってしまったと考えられます」
「魔力、ですか?」
「魔力が絡んでいなければ、マスターが解除術を教えることはまず不可能です。陰陽道は専門外ですので」
「はあ・・・」
「つまり、です。少なからず木乃香さんが何かのために式神に術を施し、それによって魔力が発動した。それが幼児化に関係していると思われます


「な、何かのためにって・・・?」

刹那の疑問はそこに居た全員の異口同音で返答された。


『刹那さん(桜咲)との子供が欲しい、とか』


血の気が引いていく刹那。
つまり、ある意味原因は自分にあったのだ。
それを不思議そうに見るちびたち。

「その考えが式神たちをほとんど人間に近い形に構築し、精神年齢を低下させ、ファザーコンプレックス・・・刹那さん大好きにしてしまったかと」
「魔力は願いを実現させようとしますから」
「極東最強の魔力の使い方間違ってるわよね」
「確かに・・・」

木乃香にとったら最善の使い方なのだろう。
若干放心気味の刹那に声が掛かる。

「せっちゃん!」
「おわぁっ!!」
「そないに驚いて、どないしたん?」
「い、いえ、何も・・・」

どうやら解除術を身に付けたのだろう。
木乃香とエヴァンジェリンが地下から戻ってきた。
総勢六人+一体による推測を聞いた後では木乃香の顔をまともに見れない刹那。

「母上お帰りなさい〜」「お帰り〜」
「ただいま。・・・せっちゃん、札に戻せるようなったんよ」
「本当ですか!」
「うん。ちょぉごめんな、ちびちゃんたち。えっと・・・・」

ポポンッ

木乃香が印を結ぶと刹那の腿から重みが消え。
そこには“桜咲刹那”と“近衛木乃香”と書かれた人型の紙。

「はぁ、よかった・・・」
『あぁ〜、つまんない』

安堵の息をつく刹那。
残念そうなハルナと和美。
そして何故か笑顔の木乃香。
さらに意地の悪い笑みを浮かべているエヴァンジェリン。

「なぁ、せっちゃん」
「はい?」

人型の紙を二枚拾い、木乃香は笑顔を刹那に向けた。
その笑顔を見た瞬間、刹那の背中を冷や汗が伝う。
嫌な予感、セカンドインパクト。

「な、何ですか?」
「解除術の他に、もう一つ教えてもらったんよ」
「へえ・・・・そ、そうですか」
「見たい?」
「いや、あの、遠慮します・・・」
「そないないけずなこと言わんと♪」

人型の紙が二枚、浮く。
それは召喚の前兆。

「あれ?魔力が・・・・」

ネギの、声。

「朝はまぐれやったんやけど・・・」
「お、お嬢様?」

魔力、発動。

「《マーヌシャ》」

ポポンッ

「父上〜!」「父様〜!」
「ぅわっ!!」
『おぉ〜〜〜っ』
「今度からはちゃんと出来るんよ♪」

式神・・・・否、娘たち召喚。
明日菜たちからは感嘆と拍手まであがった。

「ちびたち・・・っ!?」
「どうだ?刹那。子供たちに囲まれて幸せだろう?」
「エヴァンジェリンさん・・・もしかして・・・」
「ふふん」

抱きついてくるちびたちに慌てながらも、刹那はエヴァンジェリンを見る。
真祖様はとても楽しそうだった。

「せいぜい困るんだな」
「そんなっ」
「私の睡眠を間接的に妨害した罰だ」
「ぼ、妨害・・・?」

逆恨み、とも言える。
さらには関係がない、とも言える。
言えるのだか。
木乃香がこの術を習得してしまったからには。
もう、遅い。

「父上〜」
「だ、だから・・・」
「父様〜」
「な、何で・・・」
「パパ?子供たちが呼んどるよ?」
「どうしてこうなるんですかーーーっ!!!」

かくして。

桜咲刹那の不定期パパ生活(木乃香の気まぐれ召喚による)が幕を開けたのである。

ご愁傷様、いや、頑張れパパ。

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