アフター5

 


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ライ?」

その日、書斎に居たママは学校から帰ってきた息子に首を傾げました。
凹んでいました。それはもう、背後にズーン、とかそんなロゴが入るくらいの凹みっぷりでした。幼い頃から伸ばしていた、正確にはパパとお姉ちゃんの主張により伸ばさざるを得なかった綺麗な金髪を、女の子に間違えられまくるというストレスから数か月前にばっさり切ったライ君。男の子らしい顔立ちになりつつある、それでも物凄くママ似の容姿は堪らなく無表情かつ凹んでいました。
フェイトさんは少しだけ屈んで目線を合わせていつもの笑顔を浮かべます。

「どうしたの?」
「・・・・・・・・・僕は、ことはの、お兄ちゃん、だよね」
「うん」
「僕、ことはの、嫌いな野菜とか、内緒で食べてあげたり。重いもの、持ってあげたり。怪我したりしたら、おんぶしてあげたり。してたよね」
「・・・・・・野菜のことは今知ったけど、うん」
「僕、ことはを、怒らせたり、してないよね」
「今朝はそんな素振りなかったよ?」

そこで言葉を区切り、何かを耐えたような無表情でフェイトさんを見上げます。
鞄を持った手は、握り拳。

「僕、ことはに、嫌われたかもしれない」

そう言って、下唇を噛み、ライ君は俯きました。
その言葉に目を丸くするフェイトさん。
双子の妹に嫌われた、と凹む兄。
しかしその妹は、自称双子の姉は、自他共に認める己の片割大好きっ子。その妹が、兄を、嫌う。
あり得ない。フェイトさんの頭にそんな言葉が浮かびます。
フェイトさんは首を傾げます。

「どうして、そう思ったの?」
「今日、帰りに・・・」








「パパ!!お姉ちゃん!!」
「あ、おかえりことはー」「ことは、お姉ちゃんにハグ!」

片割が物凄く凹んでいることなんてわかっちゃいないことはちゃんが帰宅早々にリビングへ向かい声を上げました。何だかご機嫌ななめです。
ちゃんとお姉ちゃんにぎゅっと抱きつきながらも、ご機嫌ななめです。
そんな次女の様子になのはさんとヴィヴィオさんは首を傾げます。

「どうしたの?ことは。今日のお弁当に嫌いな野菜入ってたとか?」
「今日の体育マラソンだったとか?」

見当外れなことを言う二人にぶんぶん首を振り、ことはちゃんは言い放ちます。

「ライって無自覚なの!」
『うん、知ってる』
「そーじゃなくてぇー!!」

異口同音にことはちゃんは堪らずにヴィヴィオさんの肩に顔を埋めます。
真意が伝わっていないことが歯痒いようです。
顔を見合わせて苦笑するなのはさんとヴィヴィオさん。
じたばたしていたことはちゃんがぴたりと動きを止めます。くぐもった声。

「ライがね。私の学校にね。迎えに来てくれるの」
「ああ、ライ、心配性だから」
「私もう子供じゃないのに」
「まあ、そこらへんの変質者なら撃退出来るよね。パパ直伝だし」
「でも。迎えに来てくれるの。門のとこで。待っててくれるの」
「そう言うところもフェイトママそっくりだよね」
「でもね。迎えに来るとね」

小さくなる声。

「がっこのみんなが、らいのこと、すきになっちゃう」

言い切って、ことはちゃんは動かなくなりました。
俯いた顔は見えずとも、どんな表情をしているかなんて解りきっています。
なのはさんとヴィヴィオさんは再び顔を見合わせて、言い表しがたい表情を浮かべました。

「そう言うとこまで、フェイトママそっくりなんだね」
「すごいね、ある意味」

なのはさんがことはちゃんの頭を撫でながら、言います。

「パパもね、ことはと同じだったんだよ」
「・・・・・・・、おなじ?」
「お姉ちゃんもね、同じだよ」
「おなじ、なの?」
『うん』

窺うように顔を上げたことはちゃんに微笑む二人。
ダブル溜息。

「もう、訓練終わるのとか待っててくれるのは嬉しいんだけどね、訓練生がこれでもかってほど窺ってるわ、果ては教導隊員が声掛けるわ、人だかりはできるわ」
「学校まで迎えに来てくれるのは嬉しいんだけどね、生徒を夢見る乙女にしちゃうわ、果ては先生まで撃墜しちゃうわ、ファンクラブまで出来ちゃうわ」
「・・・・・・・・・・・・・・・ママ・・・」
『本人全然わかってないし』

受け継がれる行動と、思い。
そして。

「パパもお姉ちゃんも、大変だったんだね・・・」
「今も大変だよ」
「ほんとにね」

トリプル溜息。










「で。迎えに来ないで!って怒られた」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・、ぁー・・・・」

ライ君の話を聞き終えて、フェイトさんはなんだかとっても既視感を覚えていました。
むしろ己の経験談を語られているようでした。

「何でかな。僕、ことはに嫌われたのかな」
「あー、何て言ったらいいのかな・・・」

沈み込む息子を前にどうしたものかと考えるフェイトさん。
とてつもなく身に覚えのある悩みなのですが、如何せん未だに理由がわかっていないのが実情です。

「ライ、大丈夫」
「・・・・・・だいじょうぶ?」
「あのね、ママも理由はよくわからないけど、たぶん、大丈夫」
「え?」

これでもかと自信を込められた声にライ君は首を傾げます。
フェイトさんは、いい笑顔で言い放ちました。

「たぶん、二カ月に一回とか、そんな割合で、あっちから迎えに来て!!ってお願いされる時があるから」
「・・・・・・・・・・・、何で?」
「わからないけど。お願いされるから」
「・・・・・・・・・・どうして?」
「わからないけど。認識させるとか何とか・・・・どうしてもって言われるから」

理由、わからないけど。
何だか不安定すぎる理由でした。
ライ君の頭を撫でるフェイトさん。

「だから、嫌われたとか、そういうんじゃないよ」
「・・・・・・・・・。うん」

それでも同じ思いをしたらしい母親の言葉に嘘はないのでしょう。
何とか納得したライ君に、フェイトさんは微笑みます。
そして数秒考え込んだかと思えば、提案します。

「あ、そうだ、ライ」
「何?」
「迎えに行くのがダメなら、迎えに来てもらったら?」
「ダメ」

毅然とした声は、母親譲り。
どうして、と問えば、短い返答。

「ことはに悪い虫がつく」

受け継がれる行動と、思い。
そして。

「・・・・・・・・・・・・・・・・、そういうとこ、パパそっくりだよね」

心意気。


 

ママと長男は容姿がそっくりじゃないけど似ています

 
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