アフター3

 


「だいじょうぶかな・・・」
「だいじょうぶだよ」

時空管理局本局、第一区画廊下。
そこに小さな影が二つ。
目深に帽子を被ったため顔は見えませんが、小さな二人。
黒い帽子と、白い帽子。
互いの手を繋ぎ、メモを覗きこんでいました。

「・・・・・何で子供が?」
「さあ、・・・」

行き交う局員たちの視線は自然に幼い二人に。
彼らは知りません、正面玄関を警備する局員が幼児二人が差しだした通行パスの発行者の名を見て凍りついたことに。すぐさまセキュリティをパスしたことに。

「まっすぐいくと、ロビーだって」
「そこにいこう」

てててーと駆けだす幼児たち。
それを疑問符を浮かべて目で追う局員たち。
ああ、ここで誰かが声をかけて、そして目的の場所まで案内してあげれば被害者は減らせたかもしれないのに。
とは、誰も知るわけがありませんでした。

「・・・・・、みられてる」
「うん・・・、みられてるね」
「ぼくたち、なにかしたかな」
「・・・・・、パパのいいつけ、やぶっちゃった」
「・・・・、うん」
「でも、・・・」
「うん、あいたいもんね」
「・・・、うんっ」

廊下よりも人通りの激しいロビーの注目の的になっている幼児たち。
ぎゅっと握った互いの手を離さずに、足を進めます。
と、二人に声をかける局員がついにいました。

「君たち」
『ッ!!』
「どうしたのかな?ここは遊ぶところじゃないよ?」

人のよさそうな局員は二人に視線を合わせるようにしゃがみ込み、笑顔を向けます。
迷子か、はたまた何かの事件で保護された子供か。
それとも、局員の子供か。
黒い帽子を被った幼児が、白い帽子を被った幼児を背中に隠す様に半歩前へ出ました。
手は、つないだまま。

「どうしよう・・・っ」
「・・・・・、えと、はやてちゃんが」
「あ、ぼうしとれって」
「うん、いってた」

局内で困ったら二人の顔見せぇ、そしたら周りの人たち言うこと聞いてくれるから。
遊びに来てくれる両親の親友。
その人が言っていた言葉を思い出して、幼児はそれぞれの帽子に手を駆けて、それをとりました。

『ッ!?』

暖かい栗色。煌めく金色。
深い紅。澄み渡る蒼。
二人の顔。
局員ならば誰もが知っているとある二人を連想する、幼児が二人。
息を飲む局員たち。
聞くまでもありません。どうしようもなく、二人が誰なのかわかってしまうのです。

「・・・・・・・。あの、大変申し訳ありませんが、確認のため・・・」
『?』
「お二人の、お名前は?」

たらたら汗を流して妙な丁寧語で聞いてくる局員に顔を見合わせ、幼児たちは口を開きました。

「たかまちライです」
「たかまちことはです」

その名字を聞いて騒ぐ局員たち。
あれが。あの子たちが。あの二人の。可愛い。どっちも女の子?。馬鹿、提督似は男の子だ。教導官のちっちゃい頃ってあんなだったのかな。撫でたい。愛でたい。構いたい。でも、そんなことしたら。
そんなざわめき。
いきなりのことに涙目になる幼児たち。
それに気付いた声をかけた局員がマズイと思うのと同時に。


空気が、凍りました。


何かが。何かがこちらを見ている。
局員たちは思います。背中に氷柱を突っ込まれただけでは物足りない。背中に突き刺さる氷柱のように冷たさと痛み。
教導隊所属の局員が気絶する、この、視線は。

『パパっ!!』

幼児の声が重なります。
その視線の先、ロビーを見下ろす階段の上に立つその人物。

「ライ、ことは」

時空管理局エースオブエース。高町なのは戦技教導官。
幼児たちの、パパ登場です。
柔らかい笑みを浮かべて駆けよる幼児たちに近づくなのはさん。その雰囲気は優しいのですが局員たちは直立不動です。動いたら塵に帰すくらいの直立不動です。

『パパっ』
「こーら、二人とも。ここに来る時は誰かと一緒に来なさいって言ったでしょ?」
『ごめんなさい・・・』
「連絡もくれないし・・・」
「ぼくが、びっくりさせようっていって・・・」
「ちがうよっ、ライじゃなくてわたしがいったのっ」
「ことはじゃないよ、ぼく」
「わたしっ」
「あー、うん、わかったから二人ともストップ」

どちらがどちらを庇っているのかはわかりませんが、言い合う双子の頭を撫でるなのはさん。
いい子たちだなぁ、なんて親馬鹿な気持ちを隠して言います。

「レイジングハートが教えてくれて、パパ凄くびっくりしたよ、それに嬉しかった」
「びっくりした?ほんと?」
「うん」
「やったっ」
「うん、やったね」
「でもびっくりしすぎてお仕事放り出して探しに来ちゃったから、今度からはちゃんと連絡してから誰かと一緒に来てね?」
『はい、ごめんなさい』
「よし、いいこ」

にこりと笑って、なのはさんは屈めていた身体を伸ばします。

「それで、二人とも・・・」

視線は双子から、その背後に。
暖かい眼差しは、冷たい微笑みに。

「何も、なかったよね?」

局員たちの動作がぴたりと揃いました。
直立不動から、敬礼。さらに深く首肯。言葉を発する余力などありません。ただ、この二人に危害を加えていないという誠意を伝えるだけで精一杯です。
気絶した人は、まあ、そのままですが。

「ライ、ことは。・・・高町教導官」

そんな空気を破ったのは凛とした声。
なのはさんが立っていた階段の上、そこいたのは。

『ママっ!!』
「フェイトちゃ、・・・・ハラオウン提督」

双子のママ。艦隊提督、フェイトさんです。
その手には雷神の戦斧。どうやらママも教えてもらって慌てて駆け付けたようです。
ママに駆けよる双子。

「・・・・ライ、ことは」
『・・・・・ごめんなさい』
「ん。ママも、パパも、心配だから、ね?」
『うんっ』

やんわりと双子を嗜め、フェイトさんはその頭を撫でました。
そんな母親の慈愛に満ちた笑顔に見惚れた局員が次に感じたのは冷たい視線を通り越してもはや殺気としか言い表せないものでした。
ほのぼの母子からは見えない、なのはさんの瞳。


あれは、私のだよ?


再び一糸乱れぬ局員たちの敬礼が見られたのは言うまでもありません。











その日の夜。

「ずるいッ!!ずるいずるいずるいッ!!!」
「ずるいって言われても・・・」
「私も学校にライとことはが来てほしい!!!自慢しまくりたい!!!」
「授業さぼっちゃだめだよ」
「仕事は!?」
「私たちは許可貰ったからいいの」
「私も許可貰うもん!!」
「もぎ取っちゃだめだよ」
「会議に参加してた人たちを笑顔で脅したなのはママに言われたくない!!」
「脅してないよ、ただちょっと大事な用がって抜け出しただけだよ」

そんな会話がなのはさんと長女の間で交わされていました。


 

事の顛末を聞いたはやてちゃん爆笑

 
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