アフター2
麗らかな昼下がりでした。
リビングには柔らかい日差しが注ぎ込み、なんとも平和で暖かい午後二時。
そのリビングの中央、なにやら異様なオーラを発する二人。
「今日は妹で」
「うん」
超まじめな顔で頷き合うのは当家の大黒柱と長女。
なのはさんとヴィヴィオちゃんです。
本気と書いてマジと読むくらいの表情で、おそらく彼女たちを少し知っている人ならば何か事件がと思う、彼女たちを良く知っている人ならば・・・呆れた顔を見せることになりそうな表情で、二人はくるりと振り向きました。
満面の笑みで。
『ことはー、おいでー?』
少し離れた位置にいる幼子に呼びかけました。
栗色の柔らかそうな髪が声の方に振り向いたと共にふわりと揺れます。
まんまるの瞳がぱちくりと瞬きし、パパとおねーちゃんを捉えて紅が嬉しそうに輝きました。
「ぁー、ぅ、あは」
まだ覚束ないハイハイで二人に近づく幼子。
よちよち。よちよち。
固唾を飲みつつも緩んだ顔で二人がこちらに寄ってくる幼子を見ることしばらく。
果たして幼子がたどり着いた先は。
「ウィナーッ!!うんうん、やっぱりおねーちゃんだよねことは!!」
「な、なんで!?何でパパじゃないの!?」
片や勝者の笑みで幼子を抱き上げ、片や敗者の悔みを両手を床につけて嘆いていました。
どうやら今回、幼子の気はおねーちゃんに向いたようです。
幼子のほっぺにちゅーでもしかねない喜びようのヴィヴィオちゃんを羨ましそうに見ていたなのはさんが、服の裾が引かれる感覚に視線を落とせば。
「ぁーぅ?」
なのはさんを見上げる、蒼。
陽光に煌めく金糸。
もう一人の幼子が、パパを見上げていました。
「ライ・・・!!パパはライのことも大好きだよ!!」
何故だか感極まってその幼子を抱きあげるなのはさん。
「ことはも本当はそうだけど、ライもおねーちゃんよりパパだよね!!」
「ライー?ライもこっちおいでー」
「ぇぅ?」
「あの笑顔に騙されないでライ!」
「なのはママ酷い!」
なんて不毛な争いを繰り広げるパパとおねーちゃんに抱っこされてきゃっきゃとはしゃぐ幼子たち。
さて、この幼子たち。
容姿がママ似、瞳の色がパパ似の男の子。
容姿がパパ似、瞳の色がママ似の女の子。
先ほどの会話からもわかるように、なのはさんの子供たちであり、ヴィヴィオちゃんの弟と妹。
高町家の長男と次女、双子なのです。
性格がどちら寄りになるかが問題やな・・・と両親の親友が真顔で言っていたのはさておき、その双子のママはと言いますと。
「・・・・・・。またやってるの?」
『あ』
少し呆れたような困ったような、そんな笑みを浮かべてリビングに入ってきました。
手にしていた双子のお昼寝用ブランケットをソファに置き、ママ、フェイトさんは四人を、正確にはなのはさんとヴィヴィオちゃんを見ます。
「今日はどっち?」
「ことは」
「・・・、ヴィヴィオの勝ち?」
「うん!」
ねーっ、と妹に同意を求めるヴィヴィオちゃんに苦笑して、次は勝つもんねー、と息子に決意を固めるなのはさんにさらに苦笑して、フェイトさんは首を傾げました。
「なんで二人とも私がいない時にするの?」
そう。
この、こっちおいでゲーム。どうしてかフェイトさんが近くに居ない時に開催されるのです。
参加者は極めて真剣に答えました。
「だってフェイトママが一緒だと、絶対二人ともママのところに行くもん」
「お姉ちゃんとパパは寂しいのです」
「そ、そうなんだ」
それ以上、フェイトさんは何も言えませんでした。
ちなみにこのゲーム、勝敗はまったくの五分。いつか勝率を引き離してやろうとパパとおねーちゃんの争いは続くのです。
余談ですが。
数日後、二人がこのゲームをしている時にママがこっそりと。
「ことは、ライ、おいで」
となのはさんとヴィヴィオちゃんの背後から呼んだ際、いつもの倍くらいのスピードでママに近寄って行った双子がいました。
その時の、素通りされたパパとおねーちゃんのショックを受けた顔が忘れられないと、のちのママは語っています。