アフター1
「ん、っと・・・」
麗らかな昼下がり。
洗濯物を畳んでいたフェイトさんが少し遠い位置にある服を取ろうとして、腕を中途半端に上げて停止、少し視線を落としてから再び腕を伸ばして服を掴みます。
全てを畳み終わり、一息。
「やっぱり、前より時間かかっちゃうなぁ」
動き辛くなった理由である大きくなったお腹をなでて、フェイトさんは苦笑しました。
それでもその微笑みは喜びがにじんでいます。
「フェイトママー」
そこに現れたのはヴィヴィオちゃん。
宿題を終えたヴィヴィオちゃんは何やら急いでフェイトさんのところに駆けてきたようです。
「ヴィヴィオ、どうしたの?」
「あ、あのね、あの・・・」
首をかしげるフェイトさんに、もじもじと視線を泳がせて言い辛そうなヴィヴィオちゃん。その頬が少し朱に染まっているのは照れているのでしょうか。
視線がちらちらと自分のお腹に注がれていることに気付いたフェイトさんの頬が緩みます。
お腹をひと撫で。
「触る?」
問いかけに返ってきたのは全力の頷きと満面の笑顔でした。
フェイトさんのお腹に、ヴィヴィオちゃんは耳とほっぺをくっつけて、さらに両手をあてて、真剣な顔。しばらくすると。
「わ、今、とんっていった!」
「うん、動いたね」
静かに響いた新しい命が奏でる音に瞳を輝かせるヴィヴィオちゃんと、愛おしそうに眺めるフェイトさん。
「わ、わ、とんとんって!!」
「お姉ちゃんにこんにちは、って言ってるのかも」
フェイトさんの言葉にヴィヴィオちゃんは嬉しそうに笑い、瞳を閉じます。
「私がおねーちゃんだよー」
会いたくてたまらない、弟妹に告げるような声。
フェイトさんはヴィヴィオちゃんの髪をすくように頭を撫でます。
「もうすぐ、会えるね」
「うんっ」
数分後。
ヴィヴィオちゃんが入れてくれた、むしろ自分で入れさせてもらえなかったココアにフェイトさんは口をつけます。
その隣でキャラメルミルクを手にしたヴィヴィオちゃんは聞きました。
「名前、決めたの?」
「んー、なのはママはどう言ってる?」
思い出しているのでしょう、虚空を彷徨ったオッドアイがフェイトさんに向きます。
「はやてさんからあーでもないこーでもないって悩んでるって聞いたよ」
「・・・・・仕事中に?」
親友と伴侶が会うのはほとんどが職場。
となればそれを目撃した場所もまた職場の可能性が高いのです。
「うん。しかも凄く真剣だから誰も何も言えないんだって。注意したらお話やであれは、ってはやてさんが笑ってた、でも何か疲れてた」
「・・・・・・。今度はやてのおうちにいこっか。お土産いっぱいもって」
「うんっ」
親友の好物を思い浮かべながらフェイトさんは近日の予定にそれを組み込みました。
謝ろう、謝らなきゃいけない気がする。そんな気持ちでした。
そんな考えの原因はというと。
「またとんってした!」
夕刻。
帰ってくるなりフェイトさんのお腹にぺたっと貼りついていました。
幸せそうな笑顔のなのはさん。
ここ最近いつものことなのでフェイトさんは何も言いません。諦めているとも言います。
「私が、パパだよー」
なのはさんのその笑顔と言葉に苦笑したフェイトさん。
数時間前に見た光景と重なって見える姿。
「ヴィヴィオと同じことしてる」
「だって親子だもん」
当然のように返され、微笑むしかありませんでした。
夕食と入浴も済ませ、ヴィヴィオちゃんともおやすみのあいさつを交わした後。
なのはさんは飽くことなくフェイトさんのお腹に手を当てていました。
フェイトさんは口を開きます。
「名前、決めた?」
「・・・・・・、まだ」
苦笑したなのはさんはフェイトさんを見つめます。
「なんか、色々考えすぎてわからなくなってきちゃった」
「頑張ってくださいパパ」
「わ、解ってるよ、悩みに悩んでるんだから」
「知ってる」
それに目を丸くするなのはさん。
「え?何で知ってるの?」
「高町教導官。仕事中に私事に没頭するのは職務怠慢ですよ」
「ぁ」
困ったように微笑まれてばつの悪そうな表情のなのはさんは視線を逸らします。
「嬉しいけど、駄目だよ、仕事に支障だしちゃ」
「ぅ」
さらにくぎを刺されて凹むパパ。
そんなパパに苦笑していたママですが。
「じゃあフェイトちゃんも考えて」
パパに託されていた重要任務に加わることになってしまって慌てるのは五分先の話。