幸せの言葉4



〈sir.〉
「うん?」


タイピングの音が止まり、首をかしげた執務官の視線の先には雷光。


〈Recommend taking a rest.〉休息を推奨します。
「大丈夫だよ」


その声にふんわり微笑んだ執務官。


〈sir….〉
「食事も睡眠も、とってるから」


その理由は雷光が案じたこととは別物でしたが、執務官は言います。


「私は、大丈夫だよ。バルディッシュ」


まるで、自分に言い聞かせるように。
鎖と鍵を、閉めるように。























「ハラオウンのお嬢似に熱燗三本」
「なのはちゃん似にギンガを一ヶ月あたしの部下」


陸士108部隊。
その部隊長室で何やら面を突き合わせているのは師弟。弟子の言葉に師匠が顔をしかめました。


「・・・・俺の掛け物と規模が違ぇだろが。一ヶ月の飲み代に変更だ」
「ええですよ?」
「ほう・・・何だその強気な態度は・・・」
「勘です。親友の勘」


何故か自信満々な弟子に師匠はため息。


「あー、でも性格はフェイトちゃん似になってほしい」


弟子は様々な記憶が蘇っているのか口端を引きつらせ、そして師匠に勝る大きなため息。


「あの全力全開!不屈の心!!は二人で十分やー。フェイトちゃんの気苦労がまた増えてまう」


心配症で過保護な親友があたふたする姿を想像したのか苦笑した弟子。それにああ、と師匠は納得します。


「不屈の心ってーのは、あの高町のお嬢とちぃせぇお嬢か」
「長女はほんまもう教導官ママに似て。執務官ママに似たら恥ずかしがり屋の子になる思うんやけどどう思います?」
「知るか」


師匠は笑い半分呆れ半分にバッサリ言い切りました。
















「ティアー」
「何よ?」


自室に上がり込んできて、まるであたしの部屋とばかりにソファでだらける救助隊員に執務官は視線を向けずに口を開きました。


「美人さんの子供は可愛い子になるよね」
「遺伝的にそうなる可能性は高いわね」
「両親ともそうなら余計にだよね」
「将来を約束されたようなもんね」


内心、また変なこと言い始めたとか考えながらも返事をしないとウザいほどじゃれついてくると知っている、経験している執務官は雑誌に視線を落としながらも律儀に返答。


「性格は?」
「さあ?育った環境とかじゃない?」
「両親の遺伝的な性格は?」
「多少はあるだろうけど」


クッションをもにゅもにゅ抱きしめながら救助隊員はうーんと唸ります。


「片方がいつでも全力で、片方が過保護だったら?」
「極端ね・・・。どっちかを受け継ぐか、どっちも受け継ぐか、全然受け継がないか」


手にした執務官の桜色のペンと黄色のペンを見つめてしばし沈黙。救助隊員は寝そべっていた身体の向きを執務官の方に向けます。


「えーっと・・・」
「な、何よ?」


じぃっとこちらを見つめる救助隊員。その真っ直ぐな新緑の瞳に少し身を引きつつも頬を軽く染めた執務官。


「じゃあ、こっちはツンデレの可能性があるのかー。まあ可愛いからいいけど」
「・・・・・・。スバル、あんた何言ってんの?」


執務官は、ふにゃりと笑う救助隊員に眉を顰めることとなりました。






















「騎士カリム、どうしました?浮かない顔をしていますが・・・」
「ああ、シスターシャッハ。いえ、その・・・」


聖王教会の一室。
紅茶を運んできたシスターに騎士は曖昧な笑みを向けます。先ほどまで誰かと通信していたらしい騎士は視線をさまよわせてからぽつりと呟きました。


「私、はやてに何かしたかしら?」
「え?騎士はやてにですか?」
「ええ・・・」


シスターの脳裏に浮かぶ騎士の妹分である二佐が騎士に抱きついたりして困らせている時の楽しそうな笑み。
その彼女がどうかしたのかと考えていると騎士は告げます。


「よくわからないけど、私をしばらく直視してくれなかったの」
「はあ・・・」
「クロノ提督が変なこと言うから・・・とか何とか言ってたけど。私何かしたかしら・・・」


眉を下げる騎士は少し寂しそうでした。どうやら二佐がちょっと余所余所しかったのが気になるようです。それに苦笑いを浮かべてシスターは言います。


「しかし何かしたといっても、クロノ提督とは先の会議で、そして騎士はやてにこの前会ったのはあの許可証の件だと聞き及んでいますが・・・」
「そうよね、会議は特にプライベートな会話はなかったし、許可証はあの二人の件だから私とはあまり関係ないし・・・」


瞳を伏せていた騎士が顔をあげます。


「はやてに直接聞いてみようかしら」
「はぐらかされると思います」


二佐の十八番。


「・・・・・やっぱり?」
「はい」


騎士のこてっと首を傾げる幼い仕草にシスターは苦笑を深くしました。


















ピピッ

「はーい、シャリオ・フィニーノです。って、なのはさん?」
こんにちは、シャーリー
「こんにちはー」


モニターに映る教導官に執務官補佐は無意識に背筋を伸ばしました。しかしそののんびりした雰囲気は変わらず、微笑みます。
いきなりの連絡に軽く詫び、教導官は本題へと入ります。


フェイトちゃん、いるかな?
「あ、えと、大変申し訳ないんですが、今私休暇中でして」
え?休み?
「はい、ですから今フェイトさんは一人でお仕事中かと」
・・・・・・・・・・・


見れば確かに補佐は制服ではなく私服。こちらから視線をはずして黙考する教導官に首をかしげながらも補佐は提案します。


「えーっと、連絡取ってみましょうか?」
あ、ううん、いいよ。私から取ってみるから
「左様ですかー」


どうやら用事は直接伝えたいことらしく、教導官は慌てて首を横に振ります。


あ、ちなみにフェイトちゃんがどこで仕事してるかはわかる?
「本局だって聞いてます。問い合わせればどこの執務室使ってるかもすぐわかると思います」
そっか、ありがとシャーリー。ごめんね休暇中に
「いえいえー」


謝罪と微笑みで通信を終えた教導官の姿は消え、補佐はあごに手を当て数秒。ぴこん、と擬音が聞こえそうないい笑顔で顔をあげました。


「仕事中のフェイトさんに連絡・・・・。これはもしや八神二佐が言っていた例のアレか・・・!!」


波紋は、止まるところを知りません。
















二等陸佐執務室。
そこに、先日と同じ顔がやってきていました。
はやてさんの対面に座った彼女はだんまりで俯き表情をうかがうことができません。やんわりと促してやっと顔をあげてくれた彼女は、口を開きます。


「はやてちゃん・・・」
「お?え、何?そんな深刻な顔して・・・まさか・・・」
「あのね・・・」


ゆっくりと自身の心の中で噛み砕くように言葉を続けようとしたなのはさん。しかしそれは止められます。いつの間にか隣に座りがっつりなのはさんの右手を握っているはやてさんによって。はやてさんはうんうん頷き、言い放ちます。


「いや皆まで言うな!!なのはちゃん、シャマルんとこ行こ、検査や検査!!ミッドの医術とクラールヴィントなめたらあかん、すぐ解るわ!!」
「ちがッ!違うよはやてちゃん!!」


あまりに違うその推測に、ある意味合っていた考えから顔を赤くして反論するなのはさん。しかしはやてさんは止まりません。


「実感湧かんのはわかる!けど早目にわかった方がええやろ!?仕事とか準備とか親御さんへの報告とか色々と!!いやぁお義父さんへご挨拶むっちゃ楽しみ!!報告あわよくば記録よろしくな☆」
「だから違うの!!」
「そして、昨夜もしくはこの前の夜はお楽しみでしたね!!」
「レイジングハート」
〈All right, my master.〉

ガシュッガシュッガシュッ!

〈Starlight breaker. Standby ready count 9 8 7……〉
「すんません、頭冷えました。やからなのはちゃんもクールダウンしてください」


息巻くはやてさんは鎮火されました。
双方落ち着いた頃、なのはさんはたどたどしくも今何が起こっているかを伝えます。自分でもきっとどうしていいか解らず、どうしてこうなったのかも解らないのでしょう。蒼は不安に揺れていました。


「で。フェイトちゃんが帰ってきぃひん、と」
「うん・・・」


もう三日目、ということ。
後ろ頭を軽く掻いてはやてさんはばらばらな話をまとめた結果を言いました。膝の上に置いた握りしめた手を見つめ、なのはさんは頷きます。


「あっちからは、ごめん今日も仕事で帰れない・・・ってメールだけか。連絡は?」
「した。でも特秘事項案件について執務中だからって繋がらなくて・・・補佐に誰も付けてないみたいだし」
「なるほどなぁ」


宙に視線をさまよわせ、はやてさんはなのはさんに視線を留めます。


「・・・・・・・居なくなった日、何ぞあったん?」
「・・・・・・」
「もしくは昨夜とか?夜だけに言えないこと?」
「夜って言うか、それから離れてください」


ニヤ、と笑うはやてさんに頬を染めてそっぽを向くなのはさん。それにはやてさんははっと目を開きます。


「え!?まさかヴィヴィオがいない昼間!?」
「・・・・・・・・・・・」
「あ、はい、ごめんなさい」


ゴゴゴゴゴゴゴ・・・と背後で音がしそうなオーラを発し始めたエースオブエースに即謝る最後の夜天の主。さすがにからかいすぎたと苦笑交じりの息を吐き、はやてさんは落ち込む亜麻色をぽむぽむ撫でます。


「フェイトちゃんに、申請書とか許可証とか・・・・、それ以前にあのこと言った?」
「ううん、言ってない」
「その類の話は?」
「全然・・・」
「そか」


それが関係しているかなどわかりません。しかしまったく無関係というわけではないのでしょう。紅が自ら蒼から離れることなど、今まであり得なかったことなのですから。


「あたしにはもちろんフェイトちゃんの考えなんてわからん。二人に何があったのかも知らん」
「うん・・・」
「ただ、二人が言いたいことを言えないまま離れてくなんて嫌やなぁ」


あくまで、のほほんとはやてさんは告げます。


「いつもみたいに二人で一つ。そうなっててもらわんと、こっちの調子狂うわ」


苦笑から、静かな笑み。


「・・・・・・、どこにいるかわかるんやろ?」
「うん・・・」
「フェイトちゃんが何で帰ってきぃひんのかも、いなくなった日の行動の意味もわからんのやろ?」
「うん・・・」
「でも、なのはちゃんは言いたいこと・・・言わなあかんことあんねんやろ?」
「・・・・・・」


言葉もなく、ただ頷くその姿に清々しいまでに言い切ります。


「それ言うて何が変わるかわからん。でも、ぶちまけてきたらええやん。とりあえずスッキリはすると思うで?」


視線をあげた表情はぽかんとしていて、はやてさんはにぱっといつものように笑います。


「不屈の心で全力全開!!」


きょとんとした瞳に問いかけ。


「・・・・・そうやろ?なのはちゃん」
「・・・・。うんっ!」


やっと笑みを浮かべたなのはさんが力強く頷きました。


「あ、なのはちゃん」
「え?」
「頑張るなのはちゃんに、あたしから支援物資をフォーユー」
「・・・・・・え、これ・・・」


耳打ち。


「ちょーっと裏ワザ使てん」


渡されたのは、小さな、それでも厳重なプロテクトが掛けられた箱。なのはさんの顔の前に親指と人差指で作ったほんの僅かな隙間。手が下ろされたその先に、笑うはやてさん。


「頑張り」
「ありがと、はやてちゃん」


蒼にもう迷いはありませんでした。



















「・・・・・・・・・・えーっと約九ヵ月やから・・・。ほいで海鳴の高町家に転送ポート。あとは・・・あ、アリサちゃんたちにも報告に行かせて・・・、・・・、局のファンファーレとかならしたろか」


なのはさんを見送った後、何やらぶつぶつ呟きながら本局の廊下を進んでいたはやてさん。後半にいくに従って口角が上がっていくのは仕方のないことなのでしょう。楽しくて仕方がないって顔です。


「はやて?」
「ぅあッ!!カリム!?」


そんなはやてさんを物凄く驚かせたのは背後から声をかけたカリムさんでした。まさか仰け反るまで反応があるとは思わなかったのでしょう、目をぱちくりしていました。
本局に来ることがあまりないカリムさん。ここで会うとは思ってなかったはやてさんは誤魔化すかのようにあははーと愛想笑い。


「珍しいなぁ、カリムがここに居るなんて」
「教会のことで少しね」


それから他愛もない会話をしていたのですが、はやてさんが何かを思いついたらしく切り出します。


「あ、カリム」
「何?」
「可愛い妹分からお願いがあんねんけど」
「どうしたの?」


らしい言い方に苦笑しつつも内緒話のように小声で言われたのは、少し変わったお願い。


「まあ、出来ないことはないけど・・・何故?」
「ママたちのため」


ママ。
それがそのお願いとどう関係があるのかは何となく察してしまうもので、カリムさんがはやてさんを改めて見つめれば。


「アフターフォローまでしちゃうのがあたしの凄いところ。惚れてもええよ?」


悪戯っぽい、挑戦的な、それでも誇った笑顔。
彼女がどれだけ周りを心配し、支えているかを知っているカリムさんは微笑みます。


「そうね、惚れちゃったらどうしましょう」


その微笑はほんとうに穏やかで綺麗なものでした。


ぽっ

「ほぁ」


それを直視したはやてさんが間の抜けた顔で頬を染めて機能停止。それにカリムさんは首をかしげます。


「はやて?」
「あ、ちゃうねん、色んな耐性がついたあたしに、ちょっと予想外の破壊力が・・・、クロノ君のあほぉ、朴念仁、恐妻家、シスコン・・・!!」
「はやて・・・、クロノ提督に何か恨みでもあるの・・・?」


二等陸佐が艦隊提督に何かやらかすんじゃないかとほんのり心配する少将でした。





















夕方。
もろもろを調べ終えて自宅の玄関についたなのはさんの端末に、メールを告げる音。その送信者の名前を見て自然と暗くなる表情。
ごめん、今日も帰れない。
それに目を通し、端末を閉じようとすると再び着信。午前中、それも早い時間に会っていた親友からのメールでした。
あとは上手くやり。
その一言だけ。意味がよくわからずも玄関をくぐります。


「なのはママっ、お帰りなさい!」
「ただいま、ヴィヴィオ」


迎えてくれたのは帰宅していたヴィヴィオちゃん。


「フェイトママは?」
「まだお仕事終わらないんだって、でもちゃんと帰ってくるから」
「明日?明後日?明々後日?」
「解らないけど、なるべく早く」
「ぅー」


ぶー、と膨れるヴィヴィオちゃんに苦笑いを浮かべたなのはさんがリビングに入ると、ローテーブルの上にプリントが一枚。首をかしげてヴィヴィオちゃんにそれを指し示せば、あ、とプリントに駆け寄っていってそれを持ってきます。


「学院からママにお便りです!」


びっと差し出されたのは保護者への連絡文。
それに目を通し、さきほどのはやてさんのメールの意味を理解します。


明後日から二泊三日の、お泊まり会のお知らせ。


急な連絡。急な行事。
お子さんの自立。いつもとは違う長い時間の交流。新たな友人関係の形成。様々な目的が羅列してありましたが、なのはさんは察しています。それが全て本音であり、建前であることを。
無論、希望制なのですがヴィヴィオちゃんの期待に満ちた瞳を見ればその答えは一つ。


「ヴィヴィオ、行きたい?」
「うんっ!!あ、でもヴィヴィオがお泊まり行ってる間にフェイトママ、また出張行ったりしない・・・?」
「大丈夫、ヴィヴィオがお泊まりから帰ってきたら、お出迎えしてくれるよ」


何となく後ろめたい気から内心ごめんねと呟き、なのはさんは微笑みます。


「じゃあ、お泊まりの準備しようか」
「はーいっ!」


今は、色々な人が作ってくれた機会を、有り難く使わせてもらうしかないのです。




















「フェイトの有給休暇申請?」
うん、出来るかな?
「いつからだ?」
明日から三日間
「また急だな・・・・・・、大丈夫だ」
それじゃ、頼める?
「ああ、やっておこう」
ありがとう、クロノ君


通信を切ったクロノさんは何とか表に出すことがなかった動揺に、自分を褒めていました。


「なのはからフェイトの有給休暇申請があるなんて何度もあったことだろう・・・しっかりしろ、俺」


なんてマインドコントロール中のクロノさんに補佐官から通信の連絡が入ります。総務統括官からです、と。何となく嫌な予感をこらえて繋げば、そこには母親の姿。


「どのような御用件でしょうか、リンディ総務統括官」
お忙しいところを申し訳ありませんクロノ提督。先日の事件の詳細資料について少しお聞きしたことがありまして


どちらも形式的な口調。形式的な態度。クロノさんは内心ほっとします。よかった、仕事のことだと。過去の経験が告げた嫌な予感は杞憂に・・・。


そうですか、ありがとうございます
「いえ、こちらも不明瞭な点があったことをお詫び申し上げます。追って訂正したものをお送りします」
承知しました。・・・・・・それとね、クロノ


杞憂に・・・?


ちょっとした疑問があるんだけど
「はい?」
やっぱり、フェイトの籍は高町になるのかしら?
「切りますよ」
かなり重要なことだと思うのよ
「話を聞いてください」


杞憂に終わりませんでした。
クロノさんは襲い来る頭痛に眉間を押さえたのです。





















「あん?教導変わってほしい?」
「うん」


赤毛の教導隊員。
なのはさんが訪れたのはヴィータさんの元でした。行き成りオフィスにやってきて迷うことなく自身へと向かってきたなのはさんに訝しむヴィータさんが見上げれば。


「どうしたんだよいきなり」
「どうしてもお休み取りたいんだ」


蒼に秘めた決意。
それをヴィータさんは無言で見つめ返します。しばらく無言の空気が続き、はあ、とわざとらしくヴィータさんがため息をつきます。


「・・・・・教導内容は?」
「実戦経験の多い魔導師の模擬戦見学」
「相手は?」
「本来なら、私ともう一人の武装隊員」


その気になれば数秒で終わっちまうだろそれ・・・と思いつつ胸元に下がる待機フォームのグラーフアイゼンを弄り、ヴィータさんはさらに問います。


「誰でもいいのか?武装隊とか関係なく、その実践経験の多い魔導師ってのは」
「うん」
「じゃあお前からあっちにアポ取れ。あたしはシグナムに連絡する。それくらいはしてもいいだろ」
「へ?」


ギッと椅子に背中を預け、なのはさんを見上げたのは、彼女の主に似た悪戯っぽい笑み。


「久し振りにあいつらの成長ぶりが見たくなった」


挙げたのは、新たなストライカーズたち。



















ピピッ

「あ、通信。誰かな・・・ぁ・・・あああぁあぁあぁッ!!」


送信者の名前を見るや否やばばばっと身嗜みと姿勢を正したスバルさんは震える指で回線を繋ぎます。モニターに映ったのは。


こんにちは、スバル
「お、お久しぶりですなのはさん!!」


元上司。師匠。憧れ。
エースオブエース、なのはさんでした。久しぶりの会話に弾む心、スバルさんはこれでもかってほど笑顔でした。それに微笑み返すなのはさん。


スバル、明日明後日、空いてるかな?
「へ?あ、はい!!空いてます!たとえ空いてなくても空けます!!なんだったらティアとセットで!!」
「ちょっと何!?って、なのはさん!?」


スバルさんが画面外から引き寄せたのはティアナさん。不意のことに反応できなかったティアナさんはスバルさんに抱きとめられた格好のまま、モニターに映るなのはさんを見て目を丸くします。
そんな愛弟子二人を見て、苦笑いを浮かべる師匠。


あ、ティアナもいたんだ・・・・。ごめん、お邪魔だったかな?
「変な気遣いしないでください!」
「ぐえ」


変な声を上げるスバルさんを押しのけ、ティアナさんも佇まいを正しました。顔が少し赤いのは言わないであげましょう。
そして二人の視線の先、なのはさんの隣にもう一人元上司が現れます。


おう、二人揃ってたか、丁度いい
えっと、ほんとに?ヴィータちゃん・・・
マジだ。シグナムには二つ返事でOKもらった


そっちの連絡が終わったのか、ヴィータさんは不敵な笑み。対してなのはさんは、少しすまなそうな笑み。


二人とも、明日と明後日のヴィータちゃんの教導に協力してくれないかな?
『え?』


片や救助隊員。片や執務官。


「え、でもあたしたち、ちゃんとした教導なんてしたことないんですけど・・・」
大丈夫だ。教導内容は至極簡単


正規の教導経験なんてない二人が困惑していると、ヴィータさんが言い放ちました。


あたしとシグナムと、模擬戦だ。六課を思い出すだろ?


内容は把握。そして気になるのは。


「えっと、リミッターは・・・?」


やはり、それ。愛弟子の顔が少し引きつるのを目にして、ヴィータさんはなのはさんに視線を向けずにいました。


解除。いいよな、なのは
えーっと・・・
いいよな?
申請しておきます・・・
聞いたか?リミッター解除、全力のあたしたちと模擬戦だ


ちょっぴり項垂れるなのはさんと、笑ったままのヴィータさん。


どんくらい成長したか、見てやる。それとも怖気ついたか?


それは六課以来の模擬戦。
明らかな挑発に、無論二人は。


『やります』
そうこなくっちゃな


真っ直ぐな瞳の愛弟子たちにヴィータさんは笑みを深くしました。


「ま、あとはあたしが何とかしとくからゆっくり休めよ」


通信を切ったなのはさんに、ヴィータさんは言います。


「よくわかんねぇけど、頑張れよな」


彼女の主と、同じ言葉を。
それに返すのは、力強い頷き。










だから、全てを伝えるために、伝えてもらうために。


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