アフター8

 


それは、フェイトさんが一カ月の航行任務を終えて帰ってきた二日目のことでした。
今日も今日とて妻に、お休みなんだからちゃんと休みなさい!と怒られたフェイトさんがステラちゃんを膝に乗せて天文学の本を読んでいると、来客の知らせ。

「ちわー、久し振りやなぁフェイトちゃん」
「はやて」
「はやてさん!」

現れた親友に驚き、さらにその親友に駆け寄る次女を見て驚愕するフェイトさん。
はやてさんに抱っこされてご機嫌なステラちゃんに、フェイトさんはあわあわしながらなのはさんのもとへ。

「な、なのは、い、いつからステラ、あんなにはやてに懐いてるの?」
「フェイトちゃん、うろたえ過ぎ」
「だ、だって、どうしよう、おっきくなったらはやてちゃんのお嫁さんになる!とか言い出したら私どうしよう」
「ないから。大丈夫、それはないから」
「おとーさんはどうしたらいいの!?」
「フェイトちゃん・・・」

妻と娘たちのことになるとヘタレるかかっこよくなるか、両極端なフェイトさん。
なのはさんはそんな姿に苦笑します。慣れてますからね。
しかしなのはさんが言った通り、それはないでしょう。というよりも、大きな壁があるのです。

「あー!はやてさん!ステラとっちゃだめ!!」
「あー、おねーちゃんきたでーステラ」
「ヴィヴィオお姉ちゃん!」

やって来るや否やはやてさんの腕からステラちゃんを奪取したのはヴィヴィオさん。

「ステラ大丈夫?変なこと言われてない?変なことされてない?変なとこ触られてない?」
「ちょ、あたしの認識どうなってんねん」
「だってはやてさんだし」
「両親!どないな教育しとんねん!」
『間違ったことは言ってないよ』
「裏切られた!!」

両親とその親友、そしてお姉ちゃんのいつものやり取りに、よくわからないけど楽しそうという認識を持っているステラちゃんはお姉ちゃんに抱きつきながらご満悦です。

「ほいで?フェイトちゃんいつ戻ってきたん?」
「一昨日の夜だよ。あ、八神家にお土産あるから持って帰ってくれる?」
「ほんま?すまんなぁ、ありがと」

ちょっとした騒ぎもひと段落して、雑談をしている時。
ほのぼのに戻った空気をクラッシャーしてくれたのは、やはりこの人なわけで。

「あ、そやフェイトちゃん。ヴィヴィオとステラお手製のクッキー食べた?」
「!?」
「あ、食べてないわけないかぁ・・・・・・、あれ?」




ちーん。




事の次第はこうです。
フェイトさんの今回の帰宅は帰ってくる前日に、高町家に知らされました。
フェイトさんが帰ってくる二日前。ヴィヴィオちゃんとステラちゃんがお菓子作りをしていて、さらに遊びに来ていたはやてさんがそれを御馳走になった。
そしてそのクッキーの存在を、フェイトさんは知りません。
つまり、こういうことです。

「はやてちゃん、皆黙ってたのに」
「はやてさん、KY」
「いや、その、悪かった」

非難する親子の前に、冷や汗を流すはやてさん。
そしてその視線の先に、めちゃめちゃ凹んだパパの姿。
どうにかしろ、という視線を受けてはやてさんがフェイトさんに近づきます。

「あの、フェイトちゃん?」
「ねぇ、はやて」
「な、なんや?」
「クッキー、美味しかった?」
「それは」
「美味しいに決まってるよね。なのはが教えて、ヴィヴィオが作って、ステラが手伝ったんだもん。美味しくないわけがないよね。絶対美味しいよね」
「あの」
「何で私、その時居なかったんだろう・・・」
(うわぁ)

フェイトさんのネガティブは健在です。
何でもう少し仕事早く終わらせなかったんだろう、とか自責に苛まれているフェイトさん。テラネガティブ。
引き攣る頬をそのままに、慰めにかかるはやてさんですがそれはあまり効果を示さないことは明白でした。
突き刺さるような視線と、一向にネガティブな親友を前に、困り果てるはやてさんに、服の裾を引くような感触。見れば、そこにはステラちゃん。

「はやてさん・・・」
「どうしたん?」
「パパのこと、いじめちゃだめ」
「いや、いじめてなんk」
「だめ」
「・・・・、はい」

はやてさんは思います。
この家はなのはさん中心に回っているのではなく、その実、フェイトさん中心に回っているのではないかと。
この後。
姉妹がパパにクッキーを作ってあげる、という約束を取り付けるまでフェイトさんの凹みっぷりは止まりませんでした。

「て言うかクッキーでこれなんやから、お弁当作ってくれたりなんかしたら咽び泣きそうやなフェイトちゃん」
「だめ」
「はい?」
「フェイトちゃんのお弁当は私が作るって決まってるの」
「愛妻弁当オンリーですかー・・・・」


 

高町家は、頂点はママ。中心はパパ。

 
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