アフター3



「ヴィヴィオー」
「何ー?なのはママ」

年齢も二桁に突入して数年。成長し背もかなり伸びた娘の部屋に顔を出したのは二児の母とは思えない、実際若い母親。
母親、なのはさんが娘、ヴィヴィオちゃんの部屋をくるりと見回します。

「やっぱりいないか」
「へ?」
「リボン選んでるうちにいなくなっちゃって、今捜索中。お姉ちゃんのところにいるかなーって思ったんだけど」
「ここには来てないよ」

なのはさんの手には桃色のリボンが二本。
探し人はヴィヴィオちゃんの部屋にはおらず、母娘の声が重なります。

『いつものとこだね』







まだ満足にドアノブに手が届かない家族のためにいつも少しだけあけられた書斎の扉。
その隙間がいつもより開いていました。
そう、丁度幼い子供の体くらいの幅。

『ビンゴ』

室内に入った二人の声が再び重なります。
いつもの革張りの椅子ではなく、数年前に購入したシックなソファに仰向けに横たわるエリート提督。
穏やかな寝息に上下するそのお腹の上で同じく小さな寝息をたてる幼子。
なのはさんの次女。ヴィヴィオちゃんの妹。

「あーもう、風邪ひいちゃうよ」
「やっぱりフェイトママのところにいたね」
「パパの傍が落ち着くのかなー?誰に似たんだろ」
「はやてちゃんがなのはママでしょって即答してたよ」
「・・・・・・」

娘の返事に言葉が詰まる母親。
フェイトさんが無意識に落っこちないように腕で支えている幼子こそ探し人。
明るい栗色の髪。母親によく似た顔立ち。高町家の次女、ステラちゃん。
ヴィヴィオちゃんがやんわりステラちゃんの頭をなでていると。

「ん・・・」
「あ、起きた」

眠りが浅かったのかぼんやりと開かれる丸い瞳。
その色は臙脂。
焦点がまだ合わない視線が、母と姉に向けられます。

「まま、おねぇちゃん・・・?」
「おはよう」「おはよー」
「おは、よぉ、ござい、ます・・・・・・・おやすみ、なさい」
「わ、また寝ちゃダメ」

舌足らずな声で答えてから、また降りようとする瞼にヴィヴィオちゃんが幼子を抱きあげます。
しぱしぱ瞬きを繰り返す妹に苦笑いを向けていると、くぁ、と小さなあくび。

「ぱぱはねてるよ?」
「パパは疲れてるからこのまま寝させてあげよう?」
「うん」

娘たちの視線の先には、ママに毛布を掛けてもらっているパパ。
誰もが認める過保護でハイスペックなパパは熟睡していました。ヴィヴィオちゃんは呟きます。

「私やステラが親離れしたり反抗期になったりしたらフェイトママすっごくオロオロしそう・・・」

仮定ではなくおそらく確定。
色々巻き込んでオロオロしそうです。
よく解っていない顔でこちらを見詰める妹に姉は微笑みます。

「ステラが姉離れしたら私もそうなったりして」
「あねばなれ?」
「うん。もしそうなったらおねーちゃん寂しい」
「さびしいの?」
「うん、寂しくて泣いちゃうかも」
「びびおおねぇちゃんがさびしくなるなら、ならないよ?」
「・・・・・・・・・」

さも当然のようにステラちゃんは言いました。
外見はママに似ているのに何故か感じるのは未だに寝息をたてるパパの雰囲気とオーラ。
なのはさんとヴィヴィオちゃんが顔を見合せて苦笑します。

「・・・・・・・・・、やっぱりフェイトママに似てるね」
「でしょ?」
「うん、似てる・・・。そう育ちそう」

首を傾げるステラちゃんの頭を、なのはさんがくしゃりと撫でました。
フェイトさんの天性スキルは着々とステラちゃんの中で育っているようです。



受け継がれる天タラスキル。怖いわね。

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