アフター2

 


「ニンジン?」
「うん、有機栽培朝取りを瞬間冷凍保存したから鮮度と甘みは保証するよ」
「わー、これおじいちゃんたちのとこからだよね?」
「・・・・・・・、わざわざ地球のニンジンを?」
「うん」

それがどうかした、と首を傾げるフェイトさんになのはさんは苦笑。
ヴィヴィオちゃんが手に取る鮮やかな橙色はなのはさんの実家から手に入れたものでした。

「さすがフェイトちゃんって言うか、やっぱりフェイトちゃんって言うか・・・」
「え?ご、ごめん、ダメだった?」
「ううん、嬉しい」

なのはさんの微笑みにほっと息を付くフェイトさん。
それにヴィヴィオちゃんと顔を見合せて、二人はなのはさんの腕の中に視線を向けます。

「パパは優しいねー?ステラ」
「ステラも嬉しいよねー?」

見詰められて笑う顔、紅葉の手。
なのはさんの腕の中。
そこに抱かれるのは赤ちゃん。
髪色と顔立ちはママ似、髪質と瞳はパパ似。
なのはさんの娘。ヴィヴィオちゃんの妹。フェイトさんの娘。

「ニンジン、すりおろしてくるね」
「あ、私がやるー!」
「じゃあ一緒にやろうか」

本日。
高町家の次女、離乳食デビューです。
数分後。
すりおろしたペースト状のニンジンが入った器とスプーンを手に、フェイトさんはなのはさんのもとに戻ります。

「じゃあ、なのは、お願いします」
「え?フェイトちゃんがあげればいいのに」
「いや、あの、うん、・・・私は見守ってる」
「・・・・・、あのね?最初の抱っこの時も言ったけど、そこまで慎重じゃなくてもいいと思うよ?」

何故か正座で微妙に畏まるフェイトさんになのはさんは困ったような笑み。
思い出されるフェイトさんによるステラちゃん初抱っこ。
母親の横で眠るステラちゃんに軽く触れるだけだったフェイトさんになのはさんが問えば返ってきた声。

「だ、だって、何か、壊しちゃいそうで・・・」
「甥っ子と姪っ子の世話もしてたよね?ステラはフェイトちゃんの子供だよ?」
「そ、そうだけど・・・、やっぱり自分の・・・、なのはの子供って思うと、何ていうか・・・」

初抱っこはこの会話から一時間後だったといいます。
今でこそ抱っこもできるようになりましたが、独り身にして子育てマスターとも言われたフェイトさんにあるまじき、腰の引けた対応です。
疑問符を浮かべて両親を見るヴィヴィオちゃん。パパが諭されてるんです。

「仕方ないなぁ、もう」
「ごめんなさい・・・」

ある意味幸せに満ちた溜息を洩らしてなのはさんはニンジンペーストを少しだけ掬い、ステラちゃんの口元に。
身を乗り出してきらきらと瞳を輝かせるヴィヴィオちゃん、固唾をのんで見守るフェイトさん。

「ほら、ステラ、パパとお姉ちゃんが持ってきてくれたよ?」
「ぁ、ぅ?・・・・・・・ぇ」
「あ、出しちゃった」

一瞬口に入れたかと思えば、べ、と出されたペースト。
フェイトさんの顔に下手すれば絶望の二文字が滲み出ます。どこまで思いつめるのでしょうか。それに微笑みを向けるなのはさん。幾分か表情が和らぎました。
ヴィヴィオちゃんがステラちゃん口元をぬぐってあげ、再チャレンジ。

「ステラー、ごっくんしよ?」
「ぇ、ぅー、?・・・・・ん、む」
「そう、いい子」
「食べた!ステラ、美味しい!?」
「ぁぅー」
「なのはママ、ステラ笑ってるよ!」
「うん、美味しいって言ってるのかもね」

こくっと喉を上下させ、ステラちゃんはペーストをごっくん。
離乳食テビュー、完了です。
なのはさんが微笑み、ヴィヴィオちゃんがはしゃぐ後ろで。

「フェイトちゃん、もしかして感極まってる?」
「・・・・・。うん」

フェイトさんはじっとステラちゃんを見ていました。超嬉しいみたいです。
離乳食でこんなですから、ハイハイとかも大変そうです。
そんなパパにため息交じりの微笑みを浮かべて、ママはパパの傍に寄って行きます。無論、赤ちゃんを腕に。

「ほら、今度はパパが食べさせてあげて」
「え?あ、でも、あの、心の準備というものが」
「ぇ、ぅーっ」
「早くって言ってるよ?」
「フェイトママ、ファイト!」
「〜〜〜〜〜ッ!!」

妻と娘に応援され、パパは気合を入れてスプーンを手にしました。

「ステラ、・・・・・えっと、できれば、べってしないでね?」
『パパ、しっかり!』

いただきますとごちそうさま。
ステラちゃんがそれを覚えるのはまだまだ先のことです。





後日。
某喫茶店を営むお家では離乳食を食べる孫の映像を緩み過ぎた顔で見るおじーちゃんがいたとかいないとか。


 

へたれ!

 
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