アフター1

 


いつも少しだけ開いた書斎の扉。
その隙間、かなり低い位置から明るい栗色の頭が覗きました。
室内を窺うのは臙脂色の丸い瞳。
革張りの椅子からそれに気付いたフェイトさんが優しく笑みを浮かべて手招きすれば、おずおずと扉を身体分だけ押し開いて駆け寄る幼女。
肩を越えるまでに伸びた髪が揺れます。

「ぱぱ」
「うん?」

まだ舌足らずな声。
ぎゅっと握った自分の服の裾、フェイトさんの顔、机の端から見える書類と臙脂が辿って、再び微笑みに戻ります。

「おしごと、は・・・・?」
「ん、ちょっと休憩」

ふんわり微笑んで、フェイトさんはドアノブにまだちゃんと届かない小さな身体を膝の上に乗せます。
それに嬉しそうに足をぷらぷらさせながら、幼女はフェイトさんを見上げました。

「ままがね、しろがいいって」
「え?」
「びびおおねぇちゃんはね、あおがいいって」
「ええ?」

疑問符を浮かべまくるパパに、ママによく似た顔立ちでこてっと首を傾げる幼女。
幼い子供独特の、文章の成り立たない言葉にフェイトさんは困惑します。

「しろ!あお!って、いってるの。どうして?」
「えっと、パパもわからない」
「ぱぱも?」
「うん、わからない」
「いっしょだぁ」
「うん、一緒」

苦笑したフェイトさんに、幼女は大好きなパパと同じだということにふにゃりと笑います。
その笑顔に何だか話の観点がめちゃくちゃずれていることもまあいっかとか思っていたフェイトさんでしたが、リビングからエキサイティングした声が聞こえ始めてそうも言ってられなくなりました。

「じゃあ、ママたちに聞いてこよっか」
「うんっ」

幼子を抱きあげてやってきたリビング、そこには。

「今日は白!ママと一緒にするの!!」
「違うもん!青!姉妹でお揃いにするの!!」

幼女が示していた、口論する二人。
白いリボンをしたママと、青いリボンをしたお姉ちゃん。

「昨日はお互いに譲歩してピンクだったけど、今日は白!」
「この前白だったもん!たまには青!!」
「白!」
「青!」

一歩も譲らぬ不屈の心の持ち主、なのはさんとヴィヴィオちゃん。
それを入口に佇んだままぽかんと見詰めたパパを見上げて幼女は言います。

「ね?しろと、あお」
「ぁー・・・・・・うん、そうだね」

原因が自分だとはまったく思っていない顔。
口論の理由がもう解ってしまったフェイトさんがどう説明しようか悩んでいるうちに、お姉ちゃんが二人の存在に気付いてしまいます。

「フェイトママいいところに!!」

このままではらちが明かないと判断したのでしょう。
民主主義の基本、多数決へと判決を委ねるべくなのはさんとヴィヴィオちゃんはフェイトさんに詰め寄りました。

「ねぇフェイトママ、今日のリボンは青がいいよね!?」
「フェイトちゃん、白がいいよね!?」
「え、えっと・・・」

愛する伴侶と愛する娘の迫力に微妙に引け腰になったフェイトさんが選んだ最良の選択肢。腕の中の幼子に問いかけます。

「・・・・、何色のリボンがいい?」

本人に決めてもらう、です。
それに幼女はきょとんとした後に花がほころぶような笑顔で言いました。

「ぱぱとおなじがいい」

間違いなく、予想の斜め上でした。
それにさらにエキサイティングする母娘。

「あー!!ずるいフェイトママ!!」
「そうだよ!ずるいフェイトちゃん!!」

矛先はまるで罪のないパパへ。
しばらくして。

「ぱぱ?」
「うん、そうだよね、とりあえず私が悪かったんだよね・・・」
「ぱぱ、いーこいーこ、だよ?」
「ありがと・・・」

ずるいずるいと文句を言われてソファで若干凹んだパパを、黒いリボンで幼き日のパパと同じように左右の髪の一部を結い終えた幼女は心配そうにのぞき込んでいました。

「あーぁ、またパパに敵わなかった・・・。まあ可愛いからいいけど」
「お姉ちゃん大好きって言ってくれてるに・・・」

そんな会話が聞こえたかと思えば、幼女はママとお姉ちゃんの足元に駆け寄り二人の手をきゅ、と握ってどこか焦ったように見上げます。

「ままも、びびおおねぇちゃんも、だいすきだよ?ほんとだよ?」

それはママの記憶の中、在りし日のパパの姿を瓜二つでした。
一瞬言葉に詰まったなのはさんとヴィヴィオちゃんはため息をつきます。

「やっぱりパパ似だよね・・・」
「そうだよね・・・」
「ぱぱに?」
「えと、ママ似だと思うけど」
『パパ似です』

パパの言葉はばっさり切り捨てられました。
その理由が己の天性スキルのせいだとは思ってもいません。
明らかにパパのスキルを受け継いでいる次女に軽い危機感を覚えているのは、パパの兄であるおじさんだけだったとかそうじゃないとか。


 

ふぁざこん

 
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