もしも 4


詳しい設定は【もしも】を読んでね! ひっどい設定だよ!(すがすがしい笑み









鼓膜への暴力。
音と認識できるとしたら、それは咆哮。
ぬめる光沢を纏う鱗。巨躯に相応しい両翼をはためかせ、劈くのは轟風。
並みの魔導師なら足が竦み、吹き飛ばされそうな中に佇むのは、金色。

〈Get set.〉

駆動音を奏でて山猫の瞳が瞬きます。
浮かびあがるのは幾つもの槍を模したスフィア。

「ファイア」

その微かな呟きに反して凄まじい勢いで雷弾が射出されます。
鋼のような鱗を易々と貫き、刺さった傍から爆ぜるそれは肉片を撒き散らしました。
しかしそれも数分も経たずに肉芽が盛り上がり、自らの赤を光沢にした濃緑の鱗が生え揃います。
先ほどと寸分変わりない、化け物。ドラゴンが飛翔を続けていました。
幼い魔導師と対峙すればその大きさ歴然。その爪が掠っただけでも命を奪われるでしょう。怒り狂うドラゴンの体当たりというにはあまりに甚大な被害をもたらすそれを、魔導師は黒いマントを靡かせ易々と回避します。最小限の動き。すれ違いざまに鱗を切り裂き、真紅を迸らせるのは三日月。
大仰に飛び回らせ、執拗に血を噴出させ、じわじわと、確実に、ドラゴンの体力と魔力を消費させていました。
ドラゴンが宙に制止します。空気を震わせる唸りと、ぼたぼたと牙を濡らし溢れだす唾液。
このほぼ一方的な蹂躙が始まってから変わることのなく、凪いだ紅はそれを見詰めていました。

〈Stand by.〉

瞬き。
魔導師の周りに新たに形成される二対一組のスフィアが数体。その尾終を互いに結ぶのは、金色の鎖。浮かびあがるスフィアに合わせて伸縮自在に長さを変えるそれが、金属とは違う澄んだ音を立てます。
細く走る雷糸を発しながら、漂うそれをつき従え、魔導師が黒いデバイスをドラゴンに向けます。あとは、発射の言霊を紡ぐだけ。
その時、ドラゴンが金色から視線を外しました。緋色のそれが捉えたのは。
白き、魔導師。
この対峙が始まってから一定の距離を保ち、傍観していたその人物。
ドラゴンが尾を翻します。続いて響く爆風。飛翔する先には、白。
獲物を、金色から白へと変えたのです
互いの距離は決して近くはありません。すぐにドラゴンの間合いに収めることなど不可能なのです。だから、白き魔導師には未だ何も攻撃を受けてはいないのです。ただ、標的を、白に定めた。


それだけで、十分。


一瞬後。ドラゴンは失速しました。
慣性に従って下降する巨躯。何が起こったのかすら、わからないでしょう。その身体の異変さえも。
連なる鱗の断面。
硬質な緻密骨。ざらりとした海綿。濃い赤を抱く髄腔。
筋肉の束がもう届くことのない先を動かそうと階層ごとにうねり。
あまりにも滑らかな、切断面。
ごぷり。
遅れて断面から命の源が溢れ出します。
山岳に轟くは今までにない叫咆。
蒼い瞳は、墜ちるドラゴンに微笑みを浮かべていました。
切り離されたその両翼は、飛来したスフィアに八つ裂きになり、爆雷により炭へと果てます。
赤を振り撒きながら落下するその途中で絡め取られ、ドラゴンを中空に留めたのは雷光に煌めく何本もの鎖。その先にある楔が、鱗と肉を穿ちます。

〈Discharge.〉

どこからか聞こえた機械音声。
連続する破裂音。辺りを白く焼く雷と、焦げたにおい。重なる様に響くのは苦痛に苛まれた号哭。
放電の音が止み、白く煙を巻き上げるその場を切り裂く一陣。
紅い双眸が。

〈Haken.〉

さらなる赤を生み出すための、刈る刃を。
死神の鎌が、その名に相応しいものを刈り取るべく、振り下ろされ。



「フェイトちゃん」



それを止めたのは、呼び名。
煙が晴れ、括られたドラゴンの傍には、鎌を駆る金色。
ドラゴンの首に触れるか触れないか、そのぎりぎりで魔力刃は止められていました。
両翼と同じように切り落とすためだけに、振り上げたそれをそのままに、紅が声の方を見ます。
そこには、白い魔導師。

「捕獲任務だよ」

蒼は、笑んだまま言いました。
瞬きを一つ。紅はまたドラゴンへと向けられました。
すぐ傍で、血飛沫が混ざる咆哮が、魔導師の白い肌を赤い色で彩りました。
ぼこぼこと再生を始める翼。さきほどの傷を癒されるのは時間の問題でしょう。
魔導師が離れると共に、浮かびあがるスフィアが六つ。

〈Restraint.〉

各スフィアによって作られた面により形成された檻に、ドラゴンはその身を捕らわれました。
それを確認し、白い魔導師がモニターを呼び出します。
映るのは、厳格な雰囲気を纏う男性。

「こちら01、幻獣捕獲任務完了しました」
“本部了解。幻獣はこちらで再度拘束保護魔法をかけた後輸送となる。そのまま捕獲を維持せよ”
「了解」

ある程度遠くで転送魔法が発動したことを感じ取りながら、白き魔導師はさらなる指示を待ちます。
尚も不機嫌かと思われそうな表情のまま、男性は続けます。

“諸君らはその後、待機へと移行”
「報告は如何いたしましょうか」
“午後で構わない”

男性の視線が白き魔導師の背後へと一瞬ずれ。

“本任務についていた嘱託魔導師は今回が初任務だ。休ませてやってくれ”

その言葉に蒼が丸くなり、すぐさま上がる口角。
男性周辺にいる他の局員へ聞こえないような、小さな呟き。

「甘々だー」
“っごほん……通信を終了する”

わざとらしい咳の後、モニターは消えました。
一つ息をつき、やってきた局員たちが数人がかりで結界捕獲魔法を展開しているのを尻目に、なのはさんは空を駆ります。

「フェイトちゃん」
「なのは」

辿り着いた、フェイトさんの隣。
なのはさんを見上げて緩んだ目元は、しかしすぐに檻の中へ。

「あれ。捕獲しなきゃだめなのかな」
「うん」

ばちりと、余剰魔力が稲妻となり跳ねます。
フェイトさんの視線の先には、なのはさんに危害を及ぼそうとしたもの。そんなものが、息をしている光景。
感触を得て、見上げた先には、微笑んだ蒼。

「よくできました」

金糸を梳きながら、なのはさんは言いました。
そのまま指を滑らせて、頬へ。そこに付着する赤に、瞳を細めます。

「戻ろうか」

前より少し力の入る様になった手を繋ぎ、なのはさんは展開された魔法陣へと向かいました。




















充てもなく、というにはあまりに確固とした足取り。
見つけたのは、設えられた長椅子に腰掛ける幼い影。

「フェイトちゃんやんかー」

緩慢に上げられた視線を受け、まさに偶然と言った装いではやてさんはフェイトさんへと近づきました。
その近くにあの人がいないことを確かめながら、フェイトさんの前に屈みます。

「わたしのこと、覚えとる?」

じっと見詰めてくる紅を見詰め返すこと数秒。
小さく口が開かれます。

「……、はやて、捜査官」
「あったりぃ。はやてでええよ」

その思考の長さにちょっとだけ寂しくなりながらはやてさんが笑えば、やはりじっと見詰めてくる紅。
はやてさんの脳裏を巡る、珍しく少し興奮したように語る己の騎士。

「たまにうちのシグナムの相手してくれてるんやろ? ありがとなぁ」

横に振られる首に苦笑して、また相手したってや、と続け、指差す先はフェイトさんの腕の中。
そこには、抱えるほどの大きさをした虎のぬいぐるみ。

「それ、どうしたん?」
「クロノ……提督が、くれた」
「これが例のカタログの……っていうか虎て、他にチョイス出来んかったんか」
「ふかふか、だよ」
「ほうかー」

気に入っているのか、ぬいぐるみの後頭部に頬を摺り寄せるフェイトさん。
その姿は、とても可愛らしいものです。
だからこそ、はやてさんの手は自然に動いたのでしょう。
その、頭を、撫でるべく。
フェイトさんに、触れるべく。
伸ばした、手。



「何してるの?」



声にこれほどまでの制止力があることに、はやてさんは頭の片隅で場違いにも感心していました。
動揺を悟られないように、冷えた背中を意識の外に、ゆっくりと声の方を見て笑顔を顔に乗せます。

「なでなでくらいええやんー」
「うーん、……しかたないなぁもう」

わざと軽く言った言葉。
なのはさんは、視線を少し泳がせた後にため息交じりに返しました。

「おおきに」

許可を得た以上、何も阻むものはありません。
フェイトさんもまた、はやてさんが何をしたがっているのかわかっているのでしょう。ただじっとはやてさんを見ていました。
はやてさんが掌を触れさせた金色。予想通りの、とても良い触り心地。
結っていないそれを軽く梳けば、さらさらと指から擦り抜けていきます。

「お風呂上り?」

頷くフェイトさんに笑顔を向けて、ぽんぽんと軽く掌を置いてから手を離したはやてさん。
それを黙って見ていたなのはさんに向き直ります。

「報告でも行ってたん?」
「うん。クロノ君の所。私だけ残らされて、色々聞かれちゃった」
「何?」
「嘱託魔導師のフォローに付けられる、信用のおける武装隊員は誰だって」
「初任務でエースオブエースをフォローに置いた上でそれて……ほんまろりこんちゃうんか、あの朴念仁」
「リンディさんとエイミィさんも中々だよ」
「わぁ……」

瞼の裏に映る、名門一族。
はやてさんは頬を引くつかせました。
なのはさんもそれを解っているのか苦笑を浮かべますが、何かを思い出したのか首を傾げます。

「あ、そうだはやてちゃん。シャマル先生の予定ってわかる?」
「シャマル?」
「うん、フェイトちゃんのことでね」

なのはさんが腕を伸ばし、触れた金色。
表情を微かに緩ませてそれを受け入れたフェイトさんに微笑んでから、その指を髪に絡ませてゆっくりと梳いていきます。

「もう少し処置してもらおうかなって思って」

どのような処置なのか、はやてさんはもう知っていました。
あの保護直後に、目の当たりにしているのですから。
なのはさんの指が、滑ります。もう綺麗に流れ落とされた、赤が付いていたところ。
はやてさんは何も言わず、フェイトさんを見るなのはさんは見ていました。

「体温が上がるとね、浮かびあがっちゃうみたいだから」

その蒼が。

「消えたと思ったのに」

見たことのない温度を得ているのを、見ていました。
触れたそれに掌を重ねて、フェイトさんがなのはさんを見上げます。
はやてさんの見る紅には、変わった温度はありません。いつもの紅です。
紅が、この蒼を見慣れているというこれ以上ない証拠。

「なのは……」
「ごめんね、フェイトちゃんが悪いんじゃないよ」

もう一度頬をひと撫でし、はやてさんに向き直ったなのはさんは言います。

「ね、はやてちゃん、シャマルさんにまたお願いできないかな」
「言うとくわー」

はやてさんの言葉に笑顔を向けるなのはさん。

「ありがとう」

蒼は、もういつもの蒼に戻っていました。






どの蒼が、いつものものかわからない。





気持ち悪いくらいにニヤニヤしながらこれを書いてます。
清いです。まだ清いです。だってフェイトちゃんがよくわかってないから。ウフフ。
これからまだまだ育成が必要ねウフフ。ウフフフフフフフフ。
たのしーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい☆

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