もしも 3



詳しい設定は【もしも】を読んでね! ひっどい設定だよ!(すがすがしい笑み









幾重にも張られた結界。防護壁。弾け霧散するのは様々な魔力光。
管理局の、訓練場の一画。
小さな影は、そこにありました。
設えられた武骨な椅子に腰かけた小柄で華奢な身体。隣に丸まる小型の使い魔の背をゆっくりと撫でる姿はどう見ても、剣戟や砲撃音が不協和音を奏でるこの場には不釣り合い。
居合わせた局員たちもこの不出来な合成映像のように浮いた存在に気付かざるを得ないのでしょう。そして、その内数人が気付きます。この少女が、例の、少女であると。誰かが漏らした呟きは、瞬く間に広がります。局員たちが周囲を見回すも少女を、例の、と言わしめた存在は居らず、金色の少女が小さな狼に身を寄せるのみ。
名立たる血族の庇護の下、保護観察という密室で過ごす少女のことを目の当たりにすることは局員たちにとって初めてのこと。それと同時に生まれるのは、好奇心。
新しいおもちゃを見つけた猫。そろりと近づく局員がいるのも仕方のないことだったのでしょう。
しかしそれも、少女に向かおうという意思を持った一歩を踏み出すのみに終わります。
刺し留めるは水色。猛る橙の毛皮は大狼の意思を表し、少女の前へと立ちはだかっていました。獣特有の濡れた牙を少しだけ覗かせれば、それだけで十分。一歩を踏み出した全てが、それ以上の後退を示しました。
眼光を巡らせ、それから大狼は主へと身を翻し、伸ばされた小さな手に額を押しつけます。緋色の鉱石を指でなぞり触れた主に腕を沿って、胸元までその鼻梁で辿り、甘えるように小さな懐へと頭を押しつけていました。
それだけ見るのならば、とても穏やかな光景なのでしょう。
その実、瞼を下ろして使い魔に頬を寄せる主の代わりに、水色は周囲をねめつけていました。誰しもが手も、それこそ声さえも届かない距離を、大狼は保っているのです。
使い魔持ちというのはそれだけでその主の魔力保有量と技量を表します。この訓練場を利用する、少なからず戦闘というものを理解した者ならば、大狼が高位の使い魔であるのは先の威圧から解り得ること。人形のように整った、それこそ人形のように表情を浮かべない小さな主の力量は計り知れません。ただわかるのは、恐らく自身が潰されるという言いようもない確信。だからこそ、局員たちは誰しも少女に近づくことは出来なかったのです。
軍人然とした歩きをした、長身の女性以外には。

「そう唸るな」

獣の地を這う響きと、びりびりとした威圧を苦笑で受け止めた女性は、大狼が許さない領域を心得ているのでしょう。その一歩手前で足を止め、少女へと視線を向けます。使い魔の唸りで瞼をようやく上げた少女は、じっとその女性の瞳を見ていました。

「お前がテスタロッサか」

局の制服とは少し違う、それでも制服の様な装いをした女性の胸元には、剣を模したチャーム。
少女は、フェイトさんは女性が口にした固有名詞に、瞬きを一つ。頷きます。

「シグナムだ。主、八神はやての守護騎士と言えばわかるか?」

シグナムと名乗った女性は、フェイトさんとは初対面。しかしフェイトさんが知っているであろう人を引き合いに出します。
フェイトさんの頭を巡る、ぼんやりとした光景。はやて、という単語に引っかかる鳶色の人。

「なのはの、傍に、よくいる人」

口をついて出たのは、そんな答え。
答えに苦笑を深め、シグナムさんは首肯します。
確かにはやてさんはフェイトさんと会う機会はそう多くありません。
シグナムさんは、フェイトさんのこの表現に、何の疑問も抱かなかったのです。
その真意にも、気付くことはありません。

「お前の戦闘映像を見せてもらった。中々に良い太刀筋だ」

記録に残るフェイトさんのクロスレンジ技術は、本局でもとても高いレベルです。
直接対峙したことはなくとも、同じくクロスレンジを得意とするものにとってとても興味深いものでした。
シグナムさんは隠してはいても楽しそうに頬を緩めます。

「聞けば、嘱託試験の訓練中らしいな。どうだ、訓練がてら模擬戦でも」

フェイトさんの手元には、雷光。
普段はクラウディアより直接転送され、局が所有している訓練用の惑星で行われているフェイトさんの実技訓練。
フェイトさんと同等に戦うことが出来る人材はそれこそ艦長くらいのもので、対人訓練というものをフェイトさんがあまりしていないのも事実。

「もちろん、ハラオウン統括官からの許可も得ている」

シグナムさんはさらに口端を緩めて、その目に闘志を灯しかねない視線でフェイトさんを見ていました。
大狼が喉を鳴らし、主へと擦り寄ります。その喉元に触れ、フェイトさんはシグナムさんを変わらず見ていました。
ただ、瞳に映すという行動を、していました。
反応が芳しくないと思ったのか、シグナムさんがさらに言葉を重ねようとすると。


「今日はそのくらいにしてあげてください」


背後から、制止。
聞こえたのは、聞き慣れた声。
シグナムさんが振り向けば、そこには青と白を纏う、空に愛された人。

「少し人見知りなんです」

朗らかな微笑みを湛えた、その人。

「高町教導官、か」

なのはさんがいました。
背後からの声に知らず張っていた肩の力を抜いたシグナムさん。
なのはさんはシグナムさんから視線は外し、その背後へと蒼を向けました。

「おいで、フェイトちゃん」

軽く手を差し出して言えば、シグナムさんのすぐ傍を過ぎ往く金糸。
通り過ぎるのを目で追えば、付き従う空色だけが、シグナムさんを見上げていました。
手に触れて、なのはさんを見上げるその表情を、シグナムさんは見ることはできません。
繋がる手。なのはさんの笑み。ランクは高いと言えど、母を失くしたばかりの幼い少女。
シグナムさんは小さく息を吐きます。

「うむ……そうだな、少し急かした」
「私の方からも聞いておきますから」
「そうしてくれ。刃を交えるとなると、私も相手が居なくてな」
「シグナムさんクラスだとそうでしょうね」

互いに苦笑を以ってして、その場を別々の行き先へ去ることになります。
紅が、蒼が現れてから一度も他を見ることがなかったことに、シグナムさんが気付くことはありませんでした。

























「迎え、よろしくね」

多忙を極める戦技教導官に与えられた仮眠室。
その部屋の前で、なのはさんは使い魔を見送りました。
主がなのはさんと過ごす際、使い魔は傍にいることはありません。それが誰が望んだことなのかなんて、今更どうでもいいこと。
保護観察官の仕事が終わるまでの数時間。そしてなのはさんの短い自由時間。その重なった時間を、ここ最近、フェイトさんはなのはさんと過ごしていました。
部屋に招き入れたフェイトさんの頭を撫でて、なのはさんはフェイトさんと視線を合せました。

「ごめんね、待たせて」

淡い表情の変化と共に緩慢に横に振られる首。揺れる金色に指を絡め、梳いて、なのはさんは頬を緩めました。
いつものように設えられたソファに座り、フェイトさんを導きます。
向かい合うように座らせた膝の上。それでもまだ少し見上げてくる紅。
なのはさんは先ほどのことを思い出しながら、問います。

「シグナムさんとの模擬戦やってみる?」
「それで強くなれるのならする」

自身と、デバイスが希望し、手に入れたカートリッジシステム。
BJも改良を加えられています。
全ては、力を手にしたいから。
フェイトさんが望むことを、果たすために。

「けど、なのはがいやなら、しない」

その望むことを上回るのはたった一つのことだけ。
やはりあまり力の入っていない手を握りこみながら、なのはさんは問いを続けます。

「訓練だけじゃなくても、一緒にお話とかすると楽しいと思うよ? 訓練所にもたくさん局員が居たでしょう?」

フェイトさんの交友は、今現在、広いものではありません。
保護観察処分期間ということもありますが、それにしたとしても限られた人以外とは会話したことすらないのです。
それがハラオウン家の加護の下なのか、それとも籠の中なのか。
もしくは、誰かの意図なのか。
なのはさんが見詰める中、フェイトさんは浅く息を吸い込みます。


「あの人たち、なのはじゃないもの」


至極当たり前のことのように、その言葉は紡ぎだされました。
なのはさんは、微笑みを浮かべていました。
口端がつり上がりそうになるのを、堪えて、微笑みを浮かべさせていました。
フェイトさんの中に構築されつつある分類。それを察して、笑みを浮かべないなんて出来なかったのです。
その内心を表に出すことはなく、なのはさんはフェイトさんの考えを否定するなんてことはなく、そう、と短く返しました。
小さな手の甲をひと撫でし、離れる手。
今まで繋がれていたそれは、フェイトさんの服の裾にかかります。

「フェイトちゃん、ばんざーい」
「ん……」

抵抗なんてあるわけがないのです。
するりと抜き取られた上着。流れおちる金髪がまばらに隠す華奢な体躯。
髪を軽く整え、なのはさんは残ったキャミソールの裾から手を差し込みました。
くすぐったいのか少し震えた肩に小さく笑いながら、更に捲り上げられて、見えるのは薄い腹。

「わからなくなってきたね」

光量の落とされた室内で白く抜けるような肌を、なのはさんは指先でなぞります。
指先に感じるのは、もうほとんどわからない傷跡。

「白衣の人が、もう少しかかるって」
「シャマル先生?」

頷くフェイトさん。
あの事件の後。保護ではなく、監禁という形で管理ポッドに保管されていたフェイトさんに治療なんてものが施されているわけがありませんでした。
それが誰によるものかなんて、言うまでもなく。
なのはさんがその傷跡に気付いたのは、あの救出の時。後に担当医師から聞かされた、無数の傷跡。
なのはさんが癒しの担い手に連絡を入れたのは、そのことを知った直後でした。
以来、定期的に魔法による処置を重ね、今ではもうほとんどそれがわかりません。
なのはさんは、あの人がフェイトさんに残した跡を指で辿りながら、微かに音を紡ぎました。


「早く消えないかな」


その音が、酷く、冷淡なものだったと気付く人はいません。
フェイトさんもまた、その声の色よりも、内容が気になったのでしょう。小首を傾げます。

「なのはは、その方がいい?」
「フェイトちゃんの肌に、傷が残ってるのは悲しいから」
「それなら、がんばる」
「うん」

頬に掌を添えれば、摺り寄るフェイトさんに、なのはさんは目を細めてから、その視線をソファに落としました。
そこには、先ほどまでフェイトさんが着ていた黒いパーカー。その袖が、フェイトさんの指先まで隠していたことを見ています。

「これ、おっきいよね、どうしたの?」

示せば、フェイトさんは答えます。

「クロノの、昔の」

名前を以ってして、答えました。
蒼が細まるのを、フェイトさんはただじっと見詰めたまま。
なのはさんの脳裏には、フェイトさんの、別の意味で形成されつつある分類のこと。
しかしそれは、自身が描いていた通りのこと。この感情の乱れも、しかたのないこと。
一度瞼を下ろして、なのはさんは深く息を吐きだします。
再び蒼が現れた時には、もう、なのはさんは微笑んでいました。

「ここにいる間は、こっち着ててね」

手にしたのは、ソファに掛けたままだった、私服のカットソー。
それを着せて、フェイトさんが余った袖を手繰っているのを見ながら、なのはさんはモニターを一つ展開しました。
映るのは、自身のシフト。

「今度、お買いもの行こうか」
「うん」

自身の服を着たフェイトさんに、満面の笑みを向けていました。











だから他の人の、着ないでね。









楽しいでーす☆ 私凄く楽しいでーす☆
ドン引きする音が聞こえますけど、私、凄く、楽しい、でーーーーーーーーーーーーーーす☆
歪んでるけどこの二人まだ清いから。まだ。清いから。これ重要だから。マジ。マジ重要。
アハハハハハハハやっべすっげ誰得だーーーーーーーーーーーーーー!!!

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