もしも 2



詳しい設定は【もしも】を読んでね! ひっどい設定だよ!(すがすがしい笑み















「サンダー……」

小さな呟きはその儚さとは裏腹に多大な魔力を孕み。

「レイジ」
〈Thunder Rage.〉

漆黒のデバイスの切っ先が、金色の魔法陣に触れると共に落とされた轟雷。
とある惑星。時空管理局の訓練用とされたその森を包むのは粉塵。その空に佇むのは、幼き魔導師。
モニター越しに煙が晴れたのを、そこに魔導師以外が居ないことを確認したその人は溜息をつきました。

「あのスフィア、あんなに耐久力なかったかしら?」
「フェイトちゃんにはちょぉっと物足りない相手でしょうねぇ」

モニターの光源に照らされたその人たちの顔には苦笑。
次いで現れた魔獣を捉え、紅い瞳が瞬きます。
戦斧に設えられたシリンダーが硬質な音を立てて回り、カートリッジを装填。
無詠唱で形作られた槍状の砲撃スフィアが魔獣へと容赦なく突き刺さり。

「ブレイク」

表情を崩すことない、感情の揺るぎのない、魔導師の一言で魔獣の首が墜ちました。















なのはさんがその知らせを受けてやってきたのは戦艦クラウディアが停泊するドッグでした。
転送ポッドから艦長室へと向かう途中、その色を見つけます。
金色。
誰かの見立てなのか、白いシャツと黒いホットパンツ、そして黒いざっくりとした大きめのニットのフード付きカーディガンを着たその子。
結い上げてはいないのでしょう。フードを被っていても尚、小さなその子の金色は肩口から流れてその輝きを主張していました。
足元にいる小型化した使い魔に視線を落としていたその子が不意に顔を上げて、蒼と、紅が、交差します。

「フェイトちゃん」
「なのは」

ひらりと手を上げたなのはさんの元へ駆けるフェイトさん。
被っていたフードがはらりと外れ、金色を風に遊ばせて辿り着いたなのはさんの元。
屈みこんで、なのはさんがフェイトさんに視線を合わせれば、本当に僅かに緩んだ紅。
だらんと身体の横に揺れている手を取れば、フェイトさんは身を強張らせ、追ってきた使い魔の威圧が膨れ上がりますが、それも一瞬のこと。

「なのは、……なのは」

繰り返される自身の名に、なのはさんは微笑みます。
繋いだ手。ほんの少しだけ力の入った指。なのはさんがちらりと使い魔を見れば、ぱたりと揺れる尻尾。どうやら主の機嫌はとてもいいようです。
なのはさんはフェイトさんに首を傾げます。

「いい子にしてた?」
「いい子にしてたわよねー? フェイトさん」

その問いに答えたのは、違う声でした。
フェイトさんがいた場所。その扉から出てきたのでしょう、そこにはコバルトブルーを弧にした人。
なのはさんは立ち上がり、真剣な顔でその人へと敬礼をします。
フェイトさんと繋いだ手がそのままでいるのは、現れたその人がそれを許してくれるのを知っているから。
敬礼も、ある意味ちょっとしたお茶目だったのでしょう。なのはさんはすぐに破顔します。

「リンディ統括官自らが監督とは、凄い待遇ですね」
「うふふ、クロノに無理言っちゃった」

ね。とフェイトさんに笑顔を向けるリンディさん。
リンディさんに向けて、先ほどと同じようにほんの少しだけ紅が緩むのを、なのはさんは静かな蒼で見詰めていました。
その瞳にどんな感情が込められていたのか、なのはさんをよく知る親友しかわからないことでしょう。
しかし一度下ろされた瞼によって、その色は跡形もなく消え去ってしまいます。

「あーだこーだ言うけれど、クロノだってフェイトさんのこと可愛くてしょうがないくせにねぇ」
「クロノ君、眉間に凄い皺寄せながらこの前ぬいぐるみのカタログ見てたって聞きましたよ」
「あら、昨日持ってきたぬいぐるみってもしかしてそれかしら」

続くのは、他愛もない会話。
そうしてその会話もひと段落し、リンディさんは改めて問います。

「今日はどうしてここに?」
「嘱託に向けて訓練してるって聞いて」
「ええ、この調子なら思ってたより早く試験も受けられるわ」

あの子が嘱託魔導師になるかもしれない。
その知らせを受けての訪問だったのです。
あの病室での一件の後、フェイトさんがむやみに魔法を行使することはありませんでした。
自身のデバイスも手元に置くことを許されてからというもの、リンディさんとクロノさん、そしてエイミィさん、ハラオウン家の庇護と言ってもいいのでしょう、そのクラウディアで保護観察処分を受けていたフェイトさん。
そこへ、何度もなのはさんが訪れているのは言うに及ばず。
任務が忙しく、しばらくここに訪れていなかったなのはさんの耳に届いたのが、先の知らせというわけです。

「凄いね、フェイトちゃん」

なのはさんが笑顔を向ければ、伏し目がちな紅。
小さな、声。

「嘱託になれば、もっと、一緒に居られるって、聞いたから」
「そっか」

誰と。なんて、愚問。
頬が緩みます。
未だきちんと握ってはくれない小さな手を、なのはさんはしっかりと繋いだまま、リンディさんに向き直ります。

「この後は訓練ないんですか?」
「ああ、そうだったわ。なのはさん、お願いできない?」
「どうしたんです?」

小首を傾げるなのはさんに、リンディさんは言います。

「本当は私が行きたかったんだけど、急な会議が入っちゃって」

訓練を頑張ったご褒美。

「フェイトさんを、海鳴に連れて行こうかなーって」




























店内に入ると、慣れ親しんだコーヒーと甘い物の香り。
学校ではなく仕事場から帰ってきた娘の姿を認め、桃子さんが近づけば、そこにはもう一つの影。

「あら、可愛い子を連れてきたのねなのは」
「でしょう?」
「いつも話してる子? なるほど……、言葉に偽りはなかったわけね」
「当たり前だよ」

何故か得意気ななのはさんに、カウンターにいる士郎さんも苦笑しているほどです。
フェイトさんは桃子さんと士郎さんを、なのはさんの家族だと認識したのでしょう。
第97管理外世界、この地域における挨拶として頭を下げます。

「はじめまして、フェイトです」
「はじめまして、なのはの母親です」

可愛いわねぇ。
そう言って桃子さんが手を伸ばします。
それは幼い子供に対してとる行動として、普通のものなのでしょう。
頭を撫でる。
とても簡単で、とてもわかりやすい、行動。
頭上に伸びる手を、幼子が見詰め。

「お母さん、ジャム煮詰まってるみたいだよ」
「あらやだいけない」

それが金色に触れる前になのはさんの一言。
桃子さんは好きなケーキ持っていきなさい、とまたカウンターの中へと戻っていきました。
フェイトさんはそれをぼんやりと見送り、そして、なのはさんを見上げます。

「行こう、フェイトちゃん」

蒼は、笑んでいました。












なのはさんの私室。

「フェイトちゃん、あーん」
「あー、ん?」
「口開けて」

その言葉が意味する行動を知らなかったのか、不思議そうな顔をしたフェイトちゃんに口を開けさせて、ケーキを一口。
小さな唇に付いたクランベリーソースを親指で拭い、それを自身の口に運びながらなのはさんは咀嚼をするフェイトさんを見詰めました。

「おいしい?」

頷きに合わせて金色が揺れて、なのはさんは頬を緩め、親指に付いたそれを舐めとりました。
黙々とケーキを食べ終わり、隣へと腰を落ち着けたフェイトさんになのはさんは問いかけます。

「何かほしいものある?」
「ない」
「どこか行きたいところとかは?」
「ない」

即答は、短い否定。
先ほどとは違い横に振られた首は、そのままなのはさんの方に倒れます。
くたりと、力を抜いた華奢な身体。

「ここがいい」

その指先が、なのはさんの服の裾を握りしめていることを本人は気付いているのでしょうか。
桃子さんが腕を伸ばした瞬間、びくりと硬直した小さな手に、なのはさんは気付いていました。
自身に向けられた手を、恐れていることを、知っていました。
それでも、フェイトさんの手は、今、なのはさんの服の裾を、固く繋いだまま。

「なのは」

触れた腕に頬を摺り寄せて、瞼を下ろし。

「なのは」

それしか言葉を知らないかのように、その名を口にする様子を。

「うん、フェイトちゃん」

蒼は、ただ嬉しそうに見つめていました。
















局の廊下で会った親友に誘われ、カフェラウンジへとやってきたなのはさんに、その親友はとても意外そうに言いました。

「保護観察官になると思ってたんに、ならんかったんやね」
「フェイトちゃんの?」
「他に誰がいるんや」

保護した担当官であり、そしてその資格も、その理由も、果てはそれを欲する思考もある。
そう思っていたはやてさんは、なのはさんがその役目を担わなかったことを疑問に思っていたのです。
けれど保護観察官があの人に決まって、ある種ほっとしたのも、本音。

「うーん、考えたんだけどねー」

なのはさんはカフェオレをかき回しながら目を伏せます。
その考えは、読めません。
ちょっとした好奇心。

「足繁く通ってるらしいなぁ、局でも噂になってんでー」

誰しもを大切に尊重し、【エースオブエース】であるなのはさんが、初めて執着を見せたもの。
それに興味がない、とは言えません。何故、あの子なのか。
だから、少しでも読みやすいように、はやてさんは揺さぶりをかけます。

「そらあんな綺麗な幼女やったらわかる気もするけどな」

自分もあの子に興味があります。
塵にも満たないその意味を込めた言葉に返ってきたのは。

「あげないよ」

一言でした。
それを見て、聞いて、感じ取り。

「間に合ってまぁす」

はやてさんはおどけて言いました。








射抜いた蒼に、その背中を冷や汗で濡らしながら。











やだ……やだなにこれ……書くのくっそ楽しい……。
なのはなのはって完璧にインプリンティングなフェイトちゃんに物凄く独占欲全開ななのはさんって、なに、なんなの、私にご褒美すぎるわ。
静かに壊れてるのって、楽すぃ!!!!!!!!!!!!!!!!

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