きみは私を暴く。









体裁。
と言えば、そうなんだろう。


ある程度大きくなってから、私たちが互いの家に泊まりに行く際、自室にはもうひと組布団が敷かれるようになった。
私たちの関係を隠しているわけじゃないけれど、公言しているわけでもない。
気付かれているだろうとは思う。
けれどそれを私たちから言ったこともないし。言われてこともない。


だから、奇妙な体裁。


その体裁は、例え家族がいない夜でも変わらなかった。


まだ清い中というわけでもない。

互いの熱を知ったのは、もうかなり前のこと。
あの時のことを忘れたわけもないし、その記憶は今も色濃い。

熱の記憶は数多にある。
互いにそういう気分になる時がある。
そんな日はただひたすらにきみを求めてしまうのだけれど、そういう夜だけというわけでもない。


おやすみの言葉を交わして、入ったのは違う寝具。


互いの熱を求めなくても満たされる日と言うものはもちろんある。

なによりきみは任務明けだった。
無理をさせたくなかった。

それこそ、きみを求める欲なんて、限りなくあるけれど。
きみを大切に想うことの方が、何よりも大きい。




明かりを落としていくらか経った時だろう。
違和感を感じた。

下ろした瞼を上げると同時に、布団中、暖められた空気が逃げていく。
それに蓋をしたのは、もっともっとあたたかいもの。


するりと身をすべり込ませたきみは、瞬く間に私の腕の中に居た。


名を呼べば、返事ともつかない声が返ってきた。
どうしたの
要領を得ない返答。
宵闇。暗さに慣れない視界。
きみの顔が見れないことが寂しくて、ヘッドボードのライトをつけようと頭上を見上げた。



背中が泡立つ。


逸らした首に、熱い感触。


名前を呼ぼうとして、固まった空気が抜けた。


んー

口を付けたまま、這う舌、楽しそうなきみの声。

小さな音を立てて離れた一瞬後、顔を下げる。

暗さに慣れた目が捉えるのは、弧を描く蒼。



言葉が出てこない。

どうしたの。
たったそれだけを紡ぐことが出来ない。

楽しそうに笑んだきみが、ん、と首を傾げる。

遊ばれてる。頭の片隅で思うけれど、だからってどうしてやろうなんてことは身体が付いていかない。
私は君に捕らわれたまま。


空気を漏らすことしか出来ない唇を塞いだのは、きみだった。
覆いかぶさる君の影が、私の周りの黒を濃くする。


啄ばむ口付けを半ば放心状態で受け入れていると、湿った何かに舐められた。暗闇でも艶めく、粘膜。


着火剤。
目の奥で、火が燻ぶる。


きみが笑みを深くした。


フェイトちゃん


名前を呼ばれるだけでこんなにも揺さぶられるなんて、きみ以外には不可能。
きみ以外になんて、私の心は揺るがせない。
きみだから、こんなにも簡単にぐずぐずに崩れてしまう。


息が抜ける。
服の裾から入り込んだ手が、お腹に触れて、指が少し押し込まれる。


どきどきしてるね


身体の臓に響く心音が、君の指先には伝わってしまったらしい。


しないわけ、ないよ


だってきみが、こんなことしてくるんだから。
私の心が壊れても、きっと君には反応するだろう。


ふぅん


猫のように細まる目に、何だかうまく息が出来なくて、触れてくる指を外そうとその手に触れた。
手を外すということには成功したのに、逆に手を捕らわれしまう。

そのまま触れたのは、酷く熱く感じるきみの肌。
私がさっき触られていた場所と同じ所。きめ細やかな肌。
押し付けられたそこから感じるのは。


私もね、どきどきしてるよ


きみの鼓動。


なのは、疲れてる、でしょ


からからに乾いた口内。
何とか紡げた言葉は制止と問い。
こういうことをするともっと疲れるよ。どうしてこんなことするの。
その言葉は私にも同様。
疲れさせてしまうから。そう思ってるのに燻ぶる熱は何。

揺らめく炎。
細まる蒼。




フェイトちゃん



ほしくない?




そんな聞き方、ずるいよ。
反転。
組み敷いたきみ。
見上げてくる眸。
首に回る腕。
近づく貌。
弧を描く、薄紅。
蒼。


召し上がれ


脳裏が白むくらいの炎が、猛った。


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