さむさ



夜空が好きだ。
冬の澄んだ空気は星空が綺麗に見える。
夜中にふと起きて、眠れる気もしなかったから、そのまま屋上へとやってきた。
吐く息の白さと一緒に体温まで溶けていきそう。
冷えた空気だった。
見上げたのは満天の星空。
綺麗な、星々の輝き。
頬が、緩む。
きみを描くのは蒼空だけじゃ、ない。
薄い雷光を指先に灯して、星を辿る。
オリオン。こいぬ。ふたご。やまねこ。カシオペア。アンドロメダ。ペガサス。
局の転送ポイントでもあるから、このマンションの屋上はハラオウン家のプライベートエリア。
寝巻のままでも、魔法に満たない魔力を使っても、誰に何を言われるわけでもない。

「あー!」

そうでもなかった。
屋上の入口から聞こえた静かな夜に小さく響いた声。
半身だけ振り返れば、ほら。

「フェイトちゃんまたそんな薄着!」

何だか怒ったきみ。
私がベッドから出てきた時はよく眠っていたのに、起きてしまったんだろうか。

「あんまり寒くないよ?」
「見てる方が! 寒い!」

真っ白な息を吐き出して、きみがこちらに向かってくる。
羽織っていた黒いコートが開いて、そのまま、背中から私を包むみたいに、抱き着いてきた。
でも、私の方が背が高いから、なんだかちょっと、変な感じ。
それに。

「なのは、これ」
「フェイトちゃんのコートです」
「あ、うん、それはわかる」

私にとっても少し大きな、なのはにとったら大きめのコートだ。
二人分を包むのは、できるだろうけど。でも何で、自分のじゃなくて。

「なんとなく」

なのはがそういうなら、そうなんだろう。
あったかいなって、思う。
そう思うと同時に、寒いな、とも、少し思った。
比べるのもおかしいけれど、今までの空気が、急に、冷たく感じた。
背中に触れる、コートを掴んでお腹に回された腕からも伝わるぬくもりが、それを助長させた。

「なぁに、してたのー?」
「ん。眠れなかったから」

背中の、肩口辺りでもごもご言っているなのはに、苦笑が漏れた。

「なのはこそ、どうしたの?」
「フェイトちゃんが居ないと、お布団冷たい」

首を傾げる。
出てくる時、ちゃんと毛布も掛け布団も、なのはに掛けてきた。
何より。

「なのはの方が体温高いよ」
「そうじゃなくってー……」

額をぐりぐりと押しつけられる。
よくわからない。私はなのはより、引いては他の人たちより、基礎体温が高くはない。
だから、暖を取るという点において、私はあまり勧められないだろう。指先とか、余計に冷たいし。

「うーん」

しばらく唸っていたなのはが顔を上げる。
前髪に変な癖がついて、額が少し赤くなっていた。
それが何だかとても可愛くて、頬が緩む。
なのはは、ぱっと私から離れた。冷たい空気が、体温を、私に残っていたなのはの体温を奪っていくのが、何だかひどく、辛かった。
それを表情に出したつもりはないけれど、なのははきっとわかってたんだろう。笑顔を、向けてくれたから。

「フェイトちゃん、コート着て」
「なのは寒いでしょ? 着てていいよ」
「違うの、着て」
「う、うん」

見るからに寒そうななのはからコートを受け取って、なのはの体温がじんわりと残るコートに袖を通す。
着たよ。と首を傾げて、すぐ。
コートの中に、腕の中に、なのはが、いた。
首元で、息をつかれて、くすぐったい。コートの中で、背中に腕を回されて、くすぐったい。猫みたいに擦り寄ってくる頬が、くすぐったい。
でも。

「こっちの方があったかい」
「そ、う、です、か」

とても、とても、あったかかった。
外の空気が、酷く冷たく感じるほど、あたたかかった。
さっきのなのはみたいに、けどなのはよりしっかりとコートごと包み込んで、抱きしめる。

「早く戻ろう?」
「うん……」
「フェイトちゃん?」

動かない私に、不思議そうな声。栗色の髪に、頬を、寄せた。

「なのはは、あったかいね」

なによりも、だれよりも。
私に温度を思い出させてくれる。
なのはが、笑う。

「フェイトちゃんもあったかいよ」

だって。
それは。
きみがいるから。



暑さにめっちゃ弱くて、寒さにめっちゃ強いフェイトさん推奨派ですキリィ

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