こっちみんな



本日の教導メニューは多人数対一人。
強大な戦闘能力を持つ対象を多人数で捕獲。
いつもなら私が相手になるんだけどそれだとワンパターンなりそうだったから今日は違う人を呼んだ。
というのが。


「やっぱりもうちょっと相手考えるべきだったかなー」


膝をついている教導隊員。
その上空で無表情の金色の閃光。
でも私にはわかる。内心とっても困っているんだろう。何だかとっても微妙な心境なんだろう。
ああ、うん、ごめんね。そんなつもりはなかったんだけど。
誰がいいかなーって考えている時にたまたま会って、その日がたまたまオフで、文句のない戦闘能力持ちで。
あ、フェイトちゃんぴったり。
なんて思ってしまったのが悪かったのか、一緒にお仕事したいなーなんてちょっとした下心があったのがいけなかったのか。
まあ、良い経験だよね。
一人頷いて自己弁護。


「あ、またフェイント見破られてる」


実はちょっとだけショックだったりする。
確かにフェイトちゃんの能力だったらこの人数を相手にするのは造作もないんだろうけど、そこは私の生徒たち。
少しは本気を見せてくれるかなーなんて思ったらそんなことはなかった。
これは教導内容を見直さなければならない。


「あと五分ね!」


刻まれていくタイムを見ながらそう声をかければ立ち上がる隊員たち。
うんうん、そう、その意気。
様々な属性魔法が飛び交う。もう魔力もぎりぎりだろうに、頑張っている。
コンビネーション。魔力分配。魔法発動精度。
各隊員の動きを記録しながらそれを見守る。
うん。でも成長してる。


「あと一分!」


各自が最後の力を振り絞る。
それをさばいているフェイトちゃんも、真剣だ。
ちょっと、仕事を忘れてそれに見惚れてしまった。
それが、原因。
逸れた水属性の魔法が私に向かっていた。


「ぁ」
Protection.


まずい、と思った瞬間には目の前で魔法陣が展開。
ああ、ありがとうレイジングハート。
目の前で弾ける水。ただ、水量が水量だけに局地的な雨のように私に降り注いだ。
今日は暑いくらいの日差しだったから制服の上着を脱いでいた、インナーも着ていない。
Yシャツが肌に張り付くのがちょっと気持ち悪いなーなんてことを思って、隊員たちにどう言い訳しようかなんて考えているうちに雨が上がる。
直後。


安心する匂い。


ふわりと、白いもので包まれていた。
それは私の上着ではなく、バリアジャケット。もちろん、私のものではない。
視線をあげる。


「フェイトちゃ」
「高町教導官、これを着ててください」


私の目の前に、フェイトちゃん。
私を包むのは、フェイトちゃんの白いマント。
どこか、怒っているような真剣な顔だった。
あれ。


「現場に人質なり、居合わせたなり、民間人がいる場合。対象への攻撃と共にその民間人の保護が必要になります」


私からは見えない、フェイトちゃんの背後にいるであろう隊員たちへの言葉であろう。
淡々と続くフェイトちゃんの声。


「それが対象による攻撃にしろ、二次災害にしろ、今みたいな誤射にしろ。民間人への配慮。防御結界等が必要になることも忘れないでください」


二重音声で、なのはも気を付けて、って聞こえる気がする。怒られている気がする。
苦笑いを浮かべると、私の肩に添えられていた手に少しだけ力が入る。
ごめんなさい。


「今回はそれを高町教導官が自ら示してくれました」


ああうん、とてもいい言い訳をありがとう。


「解りましたか?」
『はいッ!!』


揃った返事。
少しだけ、妙に遠いような響きに違和感を覚えたけれど、これでいい締めになった。
どの道、フェイトちゃんの圧勝だっただろうし。


「と、いうわけで」


フェイトちゃんのマントに包まって、フェイトちゃんの影から出る。


「今日の教導はこれで終わり」


最後の挨拶をしようと思って、改めて隊員たちを見た。
目が丸くなる。


「何で皆後ろ向いてるの?」


隊員たちは、直立不動。敬礼をした状態で綺麗にこちらに背を向けていた。
問いかけてもこっちを向いてくれない。返事もない。
さらに口を開こうとして、フェイトちゃんに遮られる。


「高町教導官、早くシャワーでも浴びてきてください。マントはお貸しします」
「あ、うん」


背を向けた隊員たちにお疲れ様と声をかけて、教導は終わった。
結局、あの行動の意味は解らなかった。


「次の相手誰がいい?」
『ハラオウン執務官以外でお願いします!』
「・・・・・え?」


後日、何気なく隊員たちに聞いた質問に返ってきたのは異口同音。
やっぱりフェイトちゃん相手はまだ早かったかー。




















あの時のとある教導隊員



高町教導官が弾いた水属性の魔法による雨。
それを被ったのはそこにいた高町教導官のみだった。
水煙が治まったと同時。僕ら隊員は慌てて駆け寄ろうとしたんだ。
けど、それは出来なかった。
高町教導官の前には、黒がいた。
先ほどまで僕らの翻弄していた白いマントがない。
視線だけ、僕らに向けていた。


紅。


射抜くような、なんて生易しいものじゃない。
もっと明確な何か。本能が恐れる、そんな視線だ。


紅。


僕らに出来ることと言ったら、逃げ出すことも出来ず、竦む足で背を向け、その場に留まること。
背後から淡々と響く言葉を脳に刻みつけて、声の限り返事をする。


「何で皆後ろ向いてるの?」


教導官のその問いに、何故だか泣きそうになったのは僕だけじゃないと信じたい。
教導官。
貴女の前にいる人のせいです!!


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