直接



私が見つけた彼女はバリアジャケットを身にまとっていた。
訓練だろうか。自立型の局で最高速のスフィアが夥しい数舞っている。
教導隊員でも口元が引きつりそうな数。
彼女の周りに浮かぶプラズマランサーの発射体が前より増えている。
細く走る雷光。とても真剣な彼女の顔。緊張感がここまで伝わる。
私以外のギャラリーもいる。
彼女の訓練だ。ギャラリーくらい簡単に集まるだろう。
他の局員が真似なんてできないそれがためになるかはさておき、人目を引く。


雷神の戦斧が、瞬いた。


一瞬。
爆雷と爆発。
目で追えたのは全方位からのスフィアの攻撃と、発動したプラズマランサー。
どよめくギャラリー。
私は訓練場の入口を目指す。
心配なんて、する必要がない。
入口に辿り着いた時には舞いあがっていた煙も落ち着いていた。
ほら。いた。
白いマントをはためかせて、涼しい顔で佇むフェイトちゃん。
片腕でマントを手繰り寄せて、フェイトちゃんの周りにまとわりついていた煙が完全に晴れる。


What is unsatisfactory ?&ィ足りないですか。
「うん。スフィアの攻撃パターン増やせないか聞いてみようか」


技術部が泣きそうなことを言っている。
前にシグナムさんも同じようなことを言っていた。まったく、そう言うところも似ちゃってる。
昔はシグナムさんとの模擬戦でよく擦り傷とか作ってはシャマル先生に怒られて、クロノ君にも怒られて、リンディさんにめってされてたのに。
そこまで考えて、ふと思う。
昔は傷がすぐに分かった。それは何故かって、フェイトちゃんのバリアジャケットのせい。
けど、ほら、今は。
深い紺色のバリアジャケットのうえ、さらに纏う白いマント。
率直に言えば、昔より大幅に肌色が見えない。
これ、実は私とクロノ君による努力の結果なのだけれどまあそれはいい。
バルディッシュを持っている手も手袋で覆われている。反対の手はさらに籠手まで付いている。
つまりほとんど肌が見えないのだ。我ながらいい仕事したと思ってる。
実は。クロノ君と意気投合した理由の他に。
本当は、とてもとてもわがままな理由がある。


触れてほしくなかった。


我ながら、相当子供っぽい、わがままだったと思う。
フェイトちゃんは優しい。その優しさから、人を心配したり、任務だったり、その過程で、他の人に触れることが多いのだ。何も考えずに。何も思わずに。
それを嫌だと思ったのはかなり前で。それを自覚したのは少し前で。それを気付かないままバリアジャケットの話になって。
色んな理由を付けた。もっともらしい、それこそ実用性のこともあったけど、手袋を提案した。
その時は本当に、バルディッシュを振るうから、なんて理由が一番にあった。
今ならわかる。きっと。私は。
せめて、直接触れないようにしてほしかったんだ。


「なのは?」


思考に潜っていると、いつの間にかフェイトちゃんがこっちを向いていた。
バルディッシュをスタンバイモードにして、こっちに歩いてきている。
見てたんだ、その言葉に苦笑する。これだけのギャラリー。見られ慣れているというか、何というか。気付いていないんだろうけど。


「どうしたの、ぼーっとしてたけど」
「何でもないよ」


近くまで来て、じっと私を見つめていたフェイトちゃんが動く。
右手を包んでいる手袋。
それが見た目より厚手だと知っている。
指先から徐々に緩まるそれ。
それを外した、戦斧を扱っているとは思えない綺麗な手が。


「熱、はないね」


私の頬に触れた。
少し低めの、慣れ親しんだぬくもり。
何だかどうしようもなく、泣きそうになる。
でも泣いてしまうと目の前のことの人はこちらが申し訳なくなるくらい慌ててしまうから、私は笑った。
どうしようもないほど、嬉しいから。


「え?私変なこと言ったかな」
「ううん」


キョトンとしているフェイトちゃん。
私は頬を包む手に、自分の手を重ねる。
そう、このあたたかさを。私は。


「やっぱり、フェイトちゃんだなぁって思っただけ」


独り占めにしたかったのだ。


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