うちの子にならない?



その子を見るのは初めてではなかった。
画面越し、という条件付ではあったけど何度も見た顔。
けれど、実物を見るのは初めてで。


「は、初めまして、フェイト・テスタロッサです」


緊張気味に挨拶してきた綺麗な金髪と優しい紅い瞳をした美少女。
少しだけ不安に染まるその顔は、間違いなく娘がビデオレターを交換して、毎回早く会いたいなーとぼやいていた相手で。


「きゃぁッ!」
「お母さん!?」


気がついたら、抱き締めていた。
だって可愛いんですもの。


――――――


フェイトちゃんは少し顔を赤らめてソファに座っている。
先ほど抱き締めたはいいものの、良い匂いねーなんて思う間もなく娘に剥奪されちゃいました、いいじゃない少しくらい。


「お母さん!フェイトちゃん抱き締めるのはそれ相応の権利が要るの!」
「そこに可愛い生き物がいたから。それで十分じゃない?」
「か・え・し・て!!」
「あらあら、もう所持者が決まってるの?」
「ち、違うけど・・・」
「じゃあ良いわよねー☆」
「お母さん!!」


なんて久々に末の娘と言い合いをしちゃったのは内緒。
その会話は混乱したフェイトちゃんは聞いてなかったみたいだけどね。
友達の家に遊びに来ること自体初めてというフェイトちゃんは落ち着かない様子で、自身の腕に抱きついているなのは(牽制?お母さんに牽制してるの?なのは)と私を交互に見ている。
ああ、可愛いわねぇ・・・。


「それで、フェイトちゃんは今度こっちに引っ越してくるの?」
「まだ、わからないです・・・」
「そう・・・。ご家族は?」


この一言にフェイトちゃんの周りの空気が変わった。
なのはも気遣うような視線で顔を覗きこんでいる。
聞いちゃ、いけない話題だったかしら、ね。
話を逸らそうと口を開きかけると、フェイトちゃんが微笑む。


「今は、遠い所に、居ます。・・・・・・、それにお母さんのように接してくれる人が、いますから・・・」
「フェイトちゃん、・・・」
「大丈夫だよ、なのは」


何となく。何となくだけれど、フェイトちゃんの本当のご家族がもう居ないことを感じ取った。
それに、そのお母さんのように接してくれる人≠ェフェイトちゃんを引き取る意思があるらしいことも。
・・・・・・・・・。
待って。
つまり、今フェイトちゃんは受け入れ先待ちの子ってこと?
・・・・・・・・・・。


「ねぇ、フェイトちゃん」
「はい?」




「この際、うちの子にならない?」




「え?」「ふぇ!?」


満面の笑みだったと自信を持って言える。
一瞬後、末娘に怒鳴られました。


――――――


「お母さん何考えてるの!!」
「だってだって、フェイトちゃん可愛いんだもの!」
「確かに可愛いけど!」
「あ、あの、なのは、恥ずかしいよ・・・」
「何言ってるの!フェイトちゃんは可愛いんだよ!?」
「そうよ!可愛いのよ!?」
「・・・・ぁぅ」


何だか論点がずれてるような気がしないでもないけど恥ずかしがって俯く姿も尚良し。
我侭を言わなかったなのはが初めて自分の意思で近づきたいと願った少女だということも頷ける。
なのは、見る目を持ったわね。お母さん嬉しいわ。


「うーん、フェイト・テスタロッサ・高町かぁ・・・長い名前だねー」
「お姉ちゃん!お姉ちゃんもお母さんに何か言ってよ!」


騒ぎを聞きつけたのかやってきたのは長女、美由希。
そしてなのはは美由希に援護を求める。
あら、お母さんが悪いみたいじゃない。


「初めましてフェイトちゃん、なのはの姉の美由希です」
「あ、初めましてっ」
「・・・・・・・・、お姉ちゃん、何か目が遠い」
「・・・・・・・。いやいや、実物は予想を上回ってかわいーなー、なんて」
「お姉ちゃん・・・?」
「やだなー、なのは。そんなに姉を睨まないでよ、取らないから、たぶん」


あははーと笑う長女の性格は誰に似たのかしら、とか思ったのはまあいいとして。
美由希はフェイトちゃんの頭を撫でながら言う。


「あたしはフェイトちゃんみたいな妹だったら、一人増えても全然構わないけどなー♪」
「お姉ちゃん!」
「えと・・・」
「年はなのはと一緒だっけ?誕生日は?それによって次女か三女か変わるよ?双子が良い?恭ちゃんがシスコンになっちゃいそうだねー、今もそうかもだけど」
「おねーちゃんッ!!」
「あーはいはい、そんなに怒鳴るとフェイトちゃんが恐がるよー?」
「っ」
「な、なのは、落ち着いて?ね?」
「ぅ〜・・・・」


なのはを宥めている姿も甲斐甲斐しくて可愛いわねぇ・・・。
本当にどうにかしてうちの子に出来ないものかしら。


――――――


あれから数日後。
アリサちゃんとすずかちゃん、そしてフェイトちゃんと一緒になのはがお店にやってきた。
店外席で何やら雑談中の模様。


「・・・・・・・・桃子、手が止まってるぞ」
「士郎さん、見てあの笑顔、可愛いわぁ」
「桃子、聞いてるか?」
「うちは経済的にもそこそこ余裕あるし、家族構成的にも大丈夫だろうし、教育的にも(ある種弱肉強食)大丈夫だと思うのに、何でフェイトちゃんは首を縦に振ってくれないんだと思う?」
「桃子さーん・・・?」
「やっぱりなのはが渋ってるから?まずはなのはを篭絡しないとってこと?」
「あのー・・・」
「うちの子になってくれたらとりあえずなのはと一緒に娘です☆って自慢しまくるのに・・・」
「・・・・・・・、あ、ブレンドコーヒーですね。少しお待ちを」


士郎さんが色々言っていたような気がするけど接客戻って行った。
あら、生クリームが溶けちゃう、いけないいけない。
そしてそれから十数分後。


「こんにちは」


私はフェイトちゃんにとってお母さんみたいに接してくれる人≠ニ会うことになる。
優しそうな人・・・リンディさん。
聞くところによると旦那さんと死別して、息子一人とお嫁さん候補一人と、そしてフェイトちゃんと近くに引っ越してきたので、今後のことも含めて挨拶との事。
そこで私は気付く。
さり気ないサプライズ制服プレゼントとか。
フェイトちゃんが大切にしている橙色の毛並みのわんちゃんにも気に入られているとか。
明らかに、外堀はばっちり埋められている。
これはまさに養子へのカウントダウン!!
やるわね、リンディさん。


――――――


それから。
なのはが、フェイトちゃんが、魔導師だという事実や、今起こっている事件になのはが協力していることだとか、様々なありえない・・・それでも真実を聞かされた。
それと共にこっそりとリンディさんから聞いたのはフェイトちゃんの出生。
だから、あの子は普通の一般家庭に入ることが難しかった・・・・、それ以前に家族を持つことにも消極的かもしれない。


「でも私はフェイトさんをハラオウン家の長女として迎え入れるつもりです」


凛とした表情のリンディさんの瞳は、決意に満ちていて。
これは、敵わないわね・・・。
一度瞼を伏せたリンディさんは次の瞬間、満面の笑みでこう言い放った。


「だって、フェイトさんみたいな可愛い娘が欲しかったんですもの!」
「・・・・、リンディさん・・・」
「はい?」


ガシッとその手を握る。


「わかります!わかりますよ!!その気持ち!!」
「ですよね!フェイトさん可愛いんですもの!」


物凄く、共感。
それから数分、如何にフェイトさんを娘にしたら可愛いかについて語り合った。
実に充実した時間だったといえる。


「・・・・・でもそんな事情がある以上リンディさんに託すしかないですけど・・・お願いしますね」
「もちろんです。それに、桃子さん」
「はい?」


私にニッコリ微笑んだリンディさん。


「何も義娘というのは養子だけじゃありません」
「!?」


そんな裏技、あったかしら。
リンディさんはニコリからニマリと笑顔を変えた


「子供の奥さんも、義娘ですよ?」


・・・・・・・。
失念してたわ、そう、それがあった。


「私は可愛いくて可愛くt(ryしょうがない愛娘をどこぞの馬の骨に渡すなんて許せませんから」
「・・・・・・なるほど」


利害の一致。
私もニマリと笑い返す。


「お嫁さんも、義娘ですものねぇ・・・」
「まあ、本人たちの意思もありますが・・・・、そちらの方は大丈夫だと信じて良いですよね?」
「ええ、それはもう。・・・・でもそちらは・・・」
「こっちはちょっと鈍いところがありますから、そこは相手に頑張っていただくしか・・・」


うふふふふとリンディさんと微笑み会う。
通りかかった恭也がビクついていたけど、どうしたのかしら。


――――――


翌日。
朝食の席にて。
いつもの微笑みで、いつもの穏やかな朝の時間の雰囲気を壊さず、私はトーストを齧る末娘に言った。


「なのは」
「なぁに?お母さん」


それはもう、そこのジャム取って、くらいのナチュラルさで。


「お母さんはフェイトちゃん以外のお嫁さん、認めませんからね」
『ブッ!!』


噴き出す面々。
あらやだ、皆お行儀悪いわね。
士郎さんがなのははお嫁にやらん!とか叫んでたけど無視した。
なのはがお嫁に行くんじゃなくて、なのはがお嫁をもらうのよ。
これは、私の中で決定事項。


「なのは、危険な芽は早く摘むのよ?わかった?」
「お、おかあs」
「もうこの際最初の友達=恋人くらいの刷り込みしなさい!!大丈夫、フェイトちゃんになら通じるわ!!」
「だかr」
「絶対モノにしなさい!!」
「放っておいてよぉっ!!」


後方支援は任せてなのは!
お母さんはいつでも受け入れ可能だから!!
それからというもの。
なのはは私から微妙にフェイトちゃんを遠ざけるようになった。
お母さん寂しいわ・・・。
でも。


「あの、なのは?桃子さんがこっちチラチラ見てるけど・・・」
「いいの。それより部屋に行こう、リビングだとお母さんが構ってくるから」
「う、うん。・・・・・・あれ?何か凄く笑顔で親指立ててるよ?」
(部屋に行くって聞こえたんだ・・・)


その調子よ、なのは!


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