いぬふぇいと12



「ふんふーん、今日は何して遊ぼかなー」


休日の昼下がり。
ティータイムを親友と、あわよくば親友の獣族と一緒に過ごそうとはやてさんは高町家に歩を進めていました。
お供のザフィーラさんは諦めたように子獣型で主につき従っていました。
ちなみに今日は手ぶら。先日の八神印のタヌキマペットはフェイトちゃんのいちのお気に入りになっていました。ぼろぼろにされないかが心配です。


「お?」
「ッ!!はやてっ!!」


そんなはやてさんの視界が捉えたのは、こちらに全速力で駆けてくる漆黒の毛並み。
目を凝らすまでもなく、自身の名前を呼ぶ声と、俊足が近づいてきたので特定は安易でした。


「はやてぇっ!!」
「おわっ!?」

ばすっ


はやてさんにダイビング抱きつきをしてきたのは、今まさに進んでいた目的地の獣族。
抱きついてきた小さな身体は震えていました。良く解らずに頭を撫でれば、見上げてくる涙目。クリティカルヒットです。でもそれを表に出すはやてさんではありません。


「んー?どないしたんフェイトちゃん」
「はやてぇ・・・・ひっく、ぅー・・・」
「誰かにいじわるされたん?それともヘンタイさんがでたん?言うてみ?ザフィーに頼んで滅したるから」
「やだって・・・・や、って言ったのに・・・言ったのに・・・」
「・・・・・・ほんまにどないしたん?」
「ひっく、・・・・逃げたのに、ぅ、追いかけて、きて・・・」


正直なところ、突然のことに混乱していたはやてさん。
しかしあまりに怖がるフェイトちゃんの様子から、すっと冷静になります。
フェイトちゃんを抱き上げて、大丈夫と優しく語りかけながら、視線はフェイトちゃんが駆けてきた先、道路の角へ。
もし、もしも先ほど言ったようなことが事実になってしまうなら。はやてさんの視線を感じ取ったザフィーラさんが身構えていました。


「主・・・」
「ザフィーラ、とりあえず半殺しまでなら許可する」


大人の獣族が人型になる時に発する独特な雰囲気がザフィーラさんから感じ取られました。
何かが、こちらに、フェイトちゃんに迫ってきていました。


「顔は最後やで。面ぁ確認してからにせんとな」
「承知」


果たして、角から現れたのは。


「フェイトちゃん!!!」
「は?なのはちゃん?」


飼い主でした。


――――――


高町家。


「いやー、フェイトちゃんが泣きついてくるから何事かと」
「家飛び出していくんだもん。焦ったよ、私の脚じゃフェイトちゃんに追いつけないから。よかったぁ、はやてちゃんが捕まえてくれて」
「捕まえた言うより、飛びついてきたんやけどな」


招き入れられたはやてさんの対面には苦笑するなのはさん。


「で。何があったん?」


はやてさんが自分の背中を一瞬見て、言います。
そこにははやてさんの服を握って張り付いたまま動かないフェイトちゃん。連れ戻されました。
涙目。そして巻き込み尻尾と伏せ耳。その隣でザフィーラさんが心配気に見上げていました。


「いや、それが・・・」
「・・・・・・・飼い主が野獣になったとか?」
「今日は違うよ!!」
「今日は?」
「ぅ、まあ、それは、うん、・・・」


逃げられたことはないとは言え、前例がないこともないなのはさんは語尾を濁しました。
蒼がぴちぴち泳いでいました。青は冷たくなっていました。


「ほんまは?」
「はやてちゃんちも行かなかった?」
「へ?」
「注射」


その単語にびくり、背中でフェイトちゃんが身体を震わせました。
ははぁ、なるほど。
はやてさんは苦笑い。
ザフィーラさんが狼型になり、フェイトちゃんを囲むように伏せをしていました。気遣ったようです。


「予防接種、か」
「そう」
「・・・・・・ダメなん?」
「病院関係苦手みたい」


どうやらなのはさんはフェイトちゃんに予防接種を受けさせようと病院に連れて行こうとした模様。
しかし注射が嫌いなフェイトちゃんが逃げ出してしまった。というわけでしょうか。


「出かけようって言っただけなのに・・・」
「そらそうやろ。雰囲気に敏感やでー」
「ザフィーラさんは大丈夫なの?」
「怖がったら逆にキモいやろ」
「・・・・・・・」
「ウォン・・・」
「あ、他意はないよ?ザフィー」
「・・・・・・ォン」


ちょっとした抗議にはやてさんは笑顔を返しました。
ザフィーラさんはあげていた頭を下します。結局、言っても効果はありません。
なのはさんは立ち上がり、はやてさんの隣に、少し距離をとったところに腰をおろします。
視線の先ははやてさんの背中にくっつく黒。


「フェーイトちゃん?」
「やだ」
「いかなきゃダメなんだよ?」
「や」
「もう、はやてちゃんだって困っちゃうよ?」
「はやて・・・困る・・・?」
「いや全然困らんyちょ、なのはちゃん、目笑ってへん」
「ソンナコトナイヨ」


構わん、もっとくっついていなさい。
むしろそんな感じのはやてさんを形容しがたいオーラのなのはさんが見ていました。獣族溺愛飼い主です。
こちらを涙目で窺うフェイトちゃんに、さきほどからコンボを叩きこまれているなのはさんは、ぎゅーってしたいぎゅーってぎぅーって、とかそんな考えをまったく悟らされずに少し困ったように微笑みます。


「病気にならないためにしなきゃなんだよ?」
「ぅー・・・」
「フェイトちゃんが病気になったら私悲しいな」
「ぅ・・・・・」
「あたしも悲しいわー」
「・・・・・・」


二人に説得され、フェイトちゃんの視線はザフィーラさんに向きます。
青い狼は黒い狼に低く告げました。


「ウォン」
「わぅ・・・」
「ウオン」
「きゅーん、わぅ、わぅっ」
「オン」
「きゅーん、きゅーん・・・」
「・・・・・ォン・・」
「・・・わぅ・・・・」
「ウォン」


獣語はさっぱりですがなにやら話は終わったようです。
ゆっくりと立ち上がり、フェイトちゃんはなのはさんの元へ向かいます。


「病気にならない、注射、だけ?」
「うん、それだけ」
「他、は、ない?」
「うん」
「・・・・・・ぅ」
「注射我慢できなら、御夕飯はフェイトちゃんが好きなもの作ってあげる。お母さんに頼んでケーキも用意しようかな。読みたがってた天文学の本も大学からお兄ちゃんに借りてきてもらうよ?」
「・・・・・・」
「ね?」
「・・・・・・行く」
「偉い。いい子だね、フェイトちゃん」


フェイトちゃんの頭をなでるなのはさん。
そんな主獣を見ていたはやてさんもにっこり笑顔。


「あたしも何かご褒美あげよかなー」
「っ!?」


その言葉にぴくりとフェイトちゃんの尻尾と耳が動きます。
どこか期待に満ちた紅に近づき、はやてさんも金色をなでました。


「せやねぇ、ザフィーにいつでも抱きついていい権利とかあげよか」
「注射我慢する!」
「ぇー、フェイトちゃん、そこで意気込んじゃうの・・・・」


なのはさんは微妙な気分でした。
こうしてやっぱり涙目で飼い主に抱きつきながら予防接種を無事終えたフェイトちゃん。
一番とばっちりを受けたのはきっとなのはさんから敵対の視線を時折向けられるようになった狼種でしょう。


「私は何もしていない・・・」
「わぅっ、わぅっ」
「・・・・む、抱きつくのか」
「わぅ♪」


まあ、フェイトちゃんが嬉しそうなのでよしとするザフィーラさんでした。









「はやてちゃん」
「お、出来た?」
「はい、なのはちゃんちの獣族の写真」
「さっすがシャマル!!おお、完璧なアングルでベストショット!!・・・・怯える顔が可愛ぇ・・・」
「ちなみに動画もあるわよ」
「グッジョブ!!しかし完璧に職権乱用やな」
「はやてちゃんが言ったんでしょ?」
「ま、そやけど」


この事実を、飼い主は知りません。









終わり


補足
フェイトちゃんの注射嫌いには過去が絡んでたりそうじゃなかったり
はやてさんちの家族の一人はお医者さんです
ザフィーラさんのもふもふ感はアルフさんのもふもふ感に次いでいい、とはフェイトちゃん談
実はそこいらの変質者なら撃退できるくらいフェイトちゃんは戦闘能力は高いです
でも飼い主にはまだ敵わない


inserted by FC2 system