いぬふぇいと7



白いシーツに埋もれていた黒い立ち耳がピクリと動きます。
それと同時にその耳の持ち主の紅い瞳が薄っすらと開かれていきました。


「くぁ、ぅ」


小さな鳴き声と共に欠伸をし、首だけ回してベッドサイドの時計を見やる前に目を引いたのはカーテン越しの太陽の光。
キラキラと布地を透かすその陽気は、間違いなく晴れ。
晴天です。


「はれ」


そう、晴れです。
本日の天気、晴れ。
その事実を脳がばっちり理解した瞬間、寝起きの頭は覚醒を完了しました。
お尻辺りのシーツがもぞもぞ動いているのは、きっと尻尾のせいでしょう。
嬉しいんですね。
カーテンを開けて天気を目視で確認したい寝起きの少女、フェイトちゃんはベッドを出ようとしましたがそれは不可能でした。
がっつり自身を抱き締めている2本の腕。


「にゅ、ぅ」


その拘束主はふがふがと寝言を言いつつもさらにフェイトちゃんを抱き寄せます。
それによって胸元に埋まる顔を上げて、拘束している飼い主、なのはさんを見上げるフェイトちゃん。


「なのは、なのはっ」
「んー」
「朝だよ、お天気だよ」
「んー」
「起きて、なのはっ」


起こそうと努力するものの反応は芳しくありません。
実は、フェイトちゃんがなのはさんより早く起きることは珍しく、こうやって起こすこと事態稀なのです。
しかし今回は偶然が重なりました。
連日の雨。それ故に散歩も十分に出来ず、お家でお昼寝していることが多かったフェイトちゃん。
例え、恭也さんのお膝でお昼寝していて起きたらなのはさんの部屋にいたとか、寝転ぶ士郎さんの背中に遊びで乗っていたら眠ってしまって起きたら桃子さんの膝枕だったとか、ソファの端っこで丸まって転寝していて起きたら美由希さんがビデオカメラ構えていたとか、そんなことは関係ありません。
そう、例え、フェイトちゃんが昨夜眠ったのはベッド横にある専用のお布団(ふかふか、うさぎのぬいぐるみ付き)だったのに起きたらなのはさんのベッドだったとか、そんなことは関係ありません。
要するに睡眠をばっちりとっていたフェイトちゃんの方が早く起きてしまったのです。さらには外が快晴と言うことで眠気も吹っ飛んだと言うわけです。


「なのはっ」
「んー、ふぇいとちゃん?」
「朝だよ、おはようなのは」
「おはよー、・・・・」
「なのは、二度寝しないでっ」


重そうに持ち上がった瞼から覗く蒼は未だ睡魔に捕らわれているようで、すぐに閉じかけてしまいます。


「まだはやいよー、きょーはにちよーだよ」
「お外、晴れだよ」
「そっかー」


起きてと主張するフェイトちゃんに構わず、天然抱き枕の頭に頬擦りするなのはさん。
きゅぅ、とか鳴き声が聞こえてきてかわいーなこのだきまくらーとか考えているなのはさんの脳は今日も絶好調です。
しかし諦めないフェイトちゃんは実力行使に出ようとしていました。
そう、ハラオウン家で狼種の彼女がよく自身にしてくれていた起こし方。
必殺、ほっぺぺろぺろ。
・・・・・・・。
必起、ほっぺぺろぺろ!!
必殺だと間違えtあ、そうでもないですね、特定の人物には。
ともかく、経験からビックリしておきるだろうと踏んだフェイトちゃんはなんとか顔をなのはさんの顔に近づけ、今まさに実行しようと。


「はーい、フェイトちゃんおっきしたら朝ご飯食べましょうね☆」
「きゃんっ!」


して、いつの間にか伸びてきた腕によって拘束から抜け出し、別のものに拘束されました。
驚いて抱っこしてくれている人物を見れば、高町家の頂点。


「も、桃子さん?」
「はい、おはようフェイトちゃん」
「お、おはようございます」


何となく思考がついていかないフェイトちゃんにニッコリ微笑みつつ、桃子さんは踵を返します。


「寝坊助さんは放って置いて、私とご飯食べましょう?」
「は、はい」


わけもわからずとりあえず返事をするフェイトちゃんを連れて桃子さんは部屋を出て行こうとして。


「お母さんッ!!私の許可なく勝手にフェイトちゃん連れてかないでッ!!」
「あら、おはようなのは」


抗議する起き抜けの末娘とびっきりの笑顔で振り向きました。
今日も、平和です。


――――――


第※回母娘口論とかなんやかんやあって、食後休憩の後。
キラキラした瞳で外を見詰めるフェイトちゃんを遊びに連れてってあげようとなのはさんは紅い首輪をフェイトちゃんの首に装着していました。


「きつくない?」
「うん」
「よし、近くの公園だと誰かに見つかりそうだし・・・、ちょっと遠出しようか」
「どこ行くの?」
「いつもより少し大きい公園」


誰か、具体的に言うと某親友2人とかに見つかりそうな近場な公園ではなく、少し離れた公園に行くことにしたようです。
嬉しそうなフェイトちゃんと共に玄関で靴を履き、扉に手を掛けて、なにやらぱたぱたと駆けて来た母親を見て怪訝な顔をします。


「待って忘れ物!」
「忘れ物?財布とか携帯持ったよ?」
「違うわ、なのはじゃなくて」


桃子さんはフェイトちゃんに微笑みました。


「フェイトちゃんっ、私にいってきますのちゅーは?」
「えと、桃子さん屈んd「いってきますッ!!」
「ああっ、なのは酷い!!」「い、いってきます桃子さんー」


なのはさんはフェイトちゃんを抱えて出かけていきました。


――――――


ちょっとした林もある緑豊かな公園。
そこを物珍しげに観察しながら自由に動き回るフェイトちゃん。
どうやらこの場所はお気に召した模様です。


「あんまり遠くに行っちゃだめだよー」
「うんっ」


なのはさんはそんなフェイトちゃんを脳内メモリーにしっかり収めつつも微笑ましく見守っていました。
時折りフェイトちゃんに声を掛けようとする人物を形容しがたい視線で撃退しつつ、見守っていました。


「可愛いなー、もう」


本音が洩れつつも、見守っていました。
しばらくして、気が済んだのかフェイトちゃんがなのはさんの元に駆け戻ってきます。


「なのはっ、ここ楽しいっ」
「そっか、よかったね」
「うんっ」


ぽむぽむ頭をなでてくれるなのはさんを見上げて、フェイトちゃんは問いかけます。


「ここ、よくくるの?」
「んー、よくってほどじゃないよ、ほら」


なのはさんが指し示す先には大きな図書館。
この公園に隣接した、この地域一の本の品揃えを誇る図書館です。


「あの図書館、学校の用事で資料がいる時に使っててね。それで帰りにたまにここに寄ってたりしてたの」
「そうなんだ」


と、何気ない会話を繰り広げていた2人。
ふいにぴくり、とフェイトちゃんの耳が立ち上がります。
一瞬遅れて何かに集中しだすフェイトちゃん。


「フェイトちゃん?どうしたの?」
「・・・・・・・・・・・・」


なのはさんが声を掛けても反応なし。
ピコピコ動く耳とすんすん匂いを嗅いでいた鼻がある方向でしばらく止まり、数秒後。


「なのは、なのは、あっち!」
「あっち?」
「うんっ」


くいくい引っ張られて公園でも緑が豊かな場所へと進んで行きました。


――――――


昨日までの雨など微塵も感じさせない爽やかな風が通る林。
そこを迷いなく進んでいくフェイトちゃんについて行き、しばらくしてその足が止まります。


「いた」「っ」


フェイトちゃんの視線の先、なのはさんが見つけたのは、木漏れ日の中、身を伏せる青い毛並みの大型のいぬ科。
首周りと尻尾の先の白い毛がアクセントの狼でした。
その身体はなのはさんが初めて見るほど大きさ、威圧すら放っているように感じるほどです。
しかし所謂“本当の狼”がこんなところにいるわけがありません。
つまりはこの狼が獣族だということ。しかも獣型をとれる大人だということです。


「フェイトちゃん、あの狼さん探してたの?」
「うん」


狼との距離は10メートルほどでしょうか。
相手は狼、おそらくこちらに気付いてる相手から逃げるには不可能な距離です。
そんなことはないだろうと思いつつも、なのはさんは注意を払い飼い主を探しますがどこにも姿が見当たりません。


(まさか、野良?こんな大型が?)


長い毛並みに覆われて首輪の存在は確認できませんでした。
じわじわと緊張を高めるなのはさんの目の前で、のそり、と頭を擡げた狼がじっとこちらを見詰めてきます。
その体躯ゆえに恐ろしさすら感じてしまいますが、フェイトちゃんは全く脅える様子はなく、鳴き声を発します。


「きゅーぅ」
「・・・・・」


再びぼすりと頭を下ろす狼。
それを見て、なのはさんが止める間もなくフェイトちゃんは嬉しそうに寄っていきました。
どうやらお許しが出たようです。


「わぅ」
「・・・・・・・」

ぼふっ


その大きな体に埋もれてもふもふするフェイトちゃん。
後姿しか見えませんが、尻尾がぱたぱた動いている辺り物凄くご機嫌のようです。


「きゅーん・・・」
「・・・・・・」
「くぅ」
「・・・・・・・・・、ゥオン」
「わぅっ」


低く重厚な返答が微かに聞こえ、それにさらに尻尾を振るフェイトちゃん。
その遣り取りをあっけにとられて見ていたなのはさんですが、安堵の溜め息をつき、苦笑しながら2人(?)に近づいていきました。


「狼さん、邪魔してごめんね。うちの子の相手してくれてありがとう」
「ォン」


人語を解さなくても構わない、と言いたげな鳴き声。
どうやらこの狼、寡黙でこのなりですがかなり優しいみたいですね。


「えー、っと、飼い主さん待ち、かな?」


さり気なく所有確認をすれば、狼が頷きました。
野良ではなかったようです。
視線を動かすとご機嫌でもふもふしているフェイトちゃん。
その嬉しそうな姿に独占欲が燻らないといえば嘘になりますが、フェイトちゃんがこうする理由もなのはさんは解っていました。


(最近ハラオウン家行ってないもんなぁ)


かつてはいつも一緒に居た狼種。
彼女の存在がフェイトちゃんがこんな行動をする理由なのです。
今度連れて行ってあげよう、と考えなのはさんはこの獣族2人の、少々一方的なじゃれあいを眺めることにしました。
20分ほど経った頃でしょうか。
遠くから声が聞こえ始めます。


「ザフィーラ?ザフィー?」


呼びかけるように発するのは、おそらく固有名詞。
つまりは。


「あ、飼い主さんきたみたいだね」


狼が身体を起こすと共に、少し離れていたところに腰をかけていたなのはさんが、名残惜しそうなフェイトちゃんをやんわり抱き上げます。
この狼の飼い主さんにお詫びとお礼を言わなければなりません。
ややあって。


「あ、居った居った・・・・・って、なのはちゃん?」
「はやてちゃん!?」


青い狼の飼い主さん、ご登場です。
ピシリと固まる飼い主たち。
そして小首を傾げる獣族たち。
相手の獣族を見て、目を見開き、黙し、状況を先に把握したのは。


「初めまして、そこの狼種の飼い主、八神はやてです☆」
「解ってるよっ!」


煌く笑顔で自己紹介する狼種の飼い主、はやてさんでした。


――――――


「で、ぶっちゃけてもらおうやないの。まず何であんなとこにいたん?」
「・・・・・・あの公園で遊んでたら、この子がはやてちゃんちの子に懐いちゃって」
「ほーぅ」


所変わってここは翠屋。
あれからこんなとこじゃなんだし、ということで移動してきたのです。
道中も質問を矢継ぎ早にしてくるはやてさんをスルーしていたなのはさんですが、フェイトちゃんを見られた以上、話さないわけにはいかなくなりました。


「ほぅほぅ、これか噂のなのはちゃんちの子かー」
「初対面なのに迫らないでッ!」


ずずいっと隣の席のフェイトちゃんに顔を近づけるはやてさんから引き離すように、フェイトちゃんを抱き上げて膝に乗せるなのはさん。
そしてフェイトちゃんはというと、なにやら浮かない顔をしていました。
初対面、なのはさんが言ったその単語にぴくりと耳が反応します。
フェイトちゃんの思考を埋めるのは唯一つ。
ばれたら、どうしよう。


「まぁええやないの、ちゅーとかせぇへんから」
「信用ならないって言ったらどうする?」
「え、よよよよって悲しむ演技?」
「・・・・・もういいよ」


そんなフェイトちゃんに構わず、はやてさんは席を立ち、屈んで膝に乗っけられているフェイトちゃんと視線を合わせました。
渦巻く感情からぎゅっと目を瞑るフェイトちゃんにかけられたのは、優しい声。


「初めまして」
「ぇ?」
「“私ははやて言うんや。お名前は?”」


驚いて目を開ければ、にっこり笑顔。
その瞳には、安心させる色。


「フェイ、ト」
「“フェイトちゃんかー、ええ名前やね”」


リフレインする言葉。
その笑顔が意味するのは、大丈夫だよ、という温かさ。


「はや、て」
「そ。はやてて呼んでなー?」
「はやて」
「ん?何?フェイトちゃん」


微かに呼べば、返って来る微笑みと声。
先ほどとは逆の意味合いの色んな感情が混じったフェイトちゃんの目が、ほんのり潤みます。


「はやてっ」
「ぅあっ!・・・・何?どないしたん?」


どうしていいのか解らなくなったのでしょう。
なのはさんの膝から飛び出すようにはやてさんに抱きつくフェイトちゃん。
ソレに驚愕するなのはさんと、受け止めつつも嬉しそうに頬を弛めるはやてさん。
質問には答えずに抱きついてくるフェイトちゃんを抱き締め返しつつ、握り拳ではやてさんは高らかに宣言しました。


「っしゃあッ!フェイトちゃんの愛ゲットーッ!!」
「ダメッ!!私のだもんッ!!」


そして本来の持ち主にフェイトちゃんを奪還されました。


――――――


忘れていましたがここは翠屋のテラス席。
どう考えても迷惑極まりません、ソレに気付いた二人は訝しむ周囲に愛想笑いを浮かべ、再び席に腰をすえました。
今度は静かに会話を開始。


「・・・・・・、まあフェイトちゃんの人見知りが良くなって来ているということで」
「えー?あたしだからちゃうんー?」
「認めません」


膝に乗るフェイトちゃんを殊更に抱き締めつつ、はやてさんに却下を下すなのはさん。
疑問符を浮かべつつ、腰に回っている腕に手を置き、なのはさんを嬉しそうに見上げるフェイトちゃん。解ってません、この獣族。


「せやかてうちのザフィーラにも懐いたんやろ?」
「それは狼種だったからだよ、きっと」


あの姿ではある種営業妨害になると考え、はやてさんちの獣族、ザフィーラさんは小獣型になっていました。子犬ルックです。
話題を向けられたザフィーラさんの尻尾がぱたりと揺れます。


「狼種に懐くん?」
「狼種を見慣れてる、って言った方がいいのかな」
「ああ、一緒に住んでたんやっけ?」
「そう。ねー、フェイトちゃん」
「うんっ」


かの狼種を思い出しているのか尻尾がパタパタ揺れるフェイトちゃん。
ハラオウン家の女性は総じてフェイトちゃんを溺愛していましたが、狼種の彼女も例に洩れなかったようです。


「狼種に限らんでもフェイトちゃん、人懐っこい感じするけどなー」
「元々人懐っこい子だけど最初はすっごく大変だったんだよ」
「へー」
「元の家でも最初は凄かったって聞いてるし・・・」


今の姿からは想像できないですが、物凄く警戒心の強いフェイトちゃん。
尻尾をぱたりと揺らす姿を見ながら、はやてさんの頭に浮かぶ疑問。


「・・・・・・・、どうやって懐かせたん?」
「元の家では、山猫種がどうにかしたって聞いてる」
「いや、なのはちゃんがって話なんやけど」


問うはやてさんに、なのはさんの返答は。


「いやいやいや、そんな満面の笑顔向けられても・・・」


輝かしい笑顔でした。
それはもう学校で周囲をトキめかすキラースマイルだったのですが、如何せんこの場合胡散臭くて仕方ありません。


「安心だよ、って教えただけ」
「ほー。・・・・・・ほんま?フェイトちゃん」
「くぅん?」
「・・・・・・・・・・・解ってへんね」


真実は、なのはさんが知るのみです。
早々に究明を諦めるはやてさんは、何だかんだでなのはさんの親友です、話してくれないことを解り切ってます。


「ほんで、なのはちゃんに懐いたら、今度は家族にも懐いたと」
「そうだよ」


頬杖を付いていたはやてさんが一瞬だけ視線をなのはさんから外し、再び口を開きました。
それはもう若干ニヤニヤと。


「・・・・・・・・特に桃子さんとか溺愛してるんとちゃう?」
「当たり。よく解ったね」
「そらなのはちゃんはおかーさんにやしな。それに・・・」
「それに?」
「・・・・・、フェイトちゃん、甘さ控えめが好きやろ?」
「へ?」


それにに続く言葉としては適当でない問いがはやてさんから発せられます。
疑問符を浮かべまくるなのはさん。
ちょいちょい、とはやてさんが指し示す方を見れば。


「・・・・・・・・・・・・・・、おかーさん」
「さすがパティシエやな」


そこにはなにやらチョコプレートに名前を書き上げていい笑顔を浮かべている桃子さんの姿。
その隣には丁寧に骨型に形作られたケーキ。
生クリーム等の甘いものをあまり使っていない作りでした。
士郎さんがもう諦めた表情でそれを見詰めていました。
プレートに書かれた名前など、見なくても確信が持てます。


「あ、あれこの前桃子さんが同じの作ってくれたよ」
「・・・・そっか。美味しかった?」
「うんっ」


無邪気に答えるフェイトちゃんの頭をなでなでしてからそっと膝から下ろし、静かに席を立つなのはさん。


「お客さんも居るから穏便になー」
「わかってるよ」


向かう先は、母親。


――――――


カウンターにて。


「お母さん、仕事は?」
「してるわよ?」
「それ、フェイトちゃんにあげるケーキじゃないの?」
「あら、よく解ったわね」
「何か凄く凝ってる様に見えるのは私の気のせいかな」
「構成に十日掛かったわ」
「・・・・・・・・・」


そんな会話が行われているとはお客さんは全く知らず。
なのはさんが居なくなり、席に残るははやてさんとフェイトちゃん、そしてザフィーラさんのみ。
つまりは話した内容が口外する恐れのない状況下。
となればフェイトちゃんがこう聞いてしまうのは仕方のないこと。


「はやて」
「んー?」
「あの、どうして?」
「ああ、この前のこと?」
「うん」


隠していてくれたことに感謝してはいるものの、理由がわからないのです。
それを予想していたのか、のほほんとはやてさんは答えます。


「フェイトちゃんと秘密持ちたかったからかなぁ」
「秘密?」
「そ。フェイトちゃんとあたしだけが知ってる秘密」


悪戯っ子のような笑みを浮かべ、フェイトちゃんの顔を覗きこむはやてさん。


「なんや、楽しいやろ?」


それにフェイトちゃんが笑顔で頷いたのは言わずもがな。


――――――


翌日。


「へぇ、じゃあなのはちゃんちの子凄く可愛かったんだね」
「そーなんよー、何か悔しいことに」
「だからずっと可愛いよって言ってたでしょ?」


お昼休みの某有名進学女子校の教室。
いつもの如く雑談に勤しむ親友3人。


「それではやてちゃんには懐いてくれたの?」
「そりゃもうちょー懐いてくれたで。帰る時なんかきゅって裾握ってくれて思わずお持ちkあ、ごめん、嘘、嘘やってなのはちゃん」
「・・・・・・・・」


なにやら尋常じゃないオーラを感じたはやてさんが冷や汗を流しつつも前言を撤回しました。
その遣り取りを見て、すずかさんがフェイトちゃんのことでなのはちゃんを刺激しちゃいけないんだとかほんのり学習している辺りさすがです。


「ま、まあフェイトちゃんはめっちゃかわえかったよ」
「会えてよかったねはやてちゃん」


ここで話が綺麗にひと段落したかと思えば。


「で」


キュピンとはやてさんの瞳が光ります。
それはもう獲物を狙い定める時の目です。


「すずかちゃんちの獣z「ダ・メ♪」


即答でした。
却下です、却下。
しかしそこはちょっぴり凹みつつもへこたれないはやてさん。


「・・・・・・・・ええやん」
「うちの子、強がってるけど意外と人見知りするから」
「尚のこと会いたいんやけど」


はやてさんらしいですね。
それを苦笑いで見ていたなのはさんにはやてさんが首を回し、言います。


「なのはちゃんやって見たいやろ?」
「え?あー、・・・・・・見たい、かも」
「ほら!二対一や!!」


その後。
休み時間が終わるまではやてさんの会わせろコールは止まることはなかったのですがすずかさんが首を縦に振ることはありませんでした。
どうやら獣族本人があまり他人と会いたくないというのが最大の関門らしいですね。


「・・・・諦めんで」
「どうするの?私んちみたいに散歩で偶然、ってのは無理だと思うよ?すずかちゃんちだし」


はやてさんの呟きに苦笑するなのはさん。
確かに月村邸の敷地内で散歩は済んでしまうでしょう。


「せやねぇ・・・、ほんならあっちから会ってやるって言わせよか」
「へ?」


ニヤリと口元を歪ませるはやてさん。


「その性格を・・・・ツンデレを利用させてもらうで!!」
「はやてちゃん、それ、大声で言うことじゃないよ・・・」


はやてさんの宣言が実行させるのは、いつのことか。
とりあえず属性自重してください、はやてさん。





おわれ

補足
翠屋から家に帰ってフェイトちゃんは何故かなのはさんに長い時間抱き締められていました
理由はわかっていません
今度遊びに行くとハラオウン家になのはさんが連絡した際、電話を取ったのは唯一の男性でしたが速攻で母親に電話を強奪された模様です
その時何かを張り倒すような音が聞こえたのは、きっと、気のせい


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