いぬふぇいと6



それは学校での何気ない会話でした。
有名進学女子校のとある教室。
この学校内で一の人気を誇るやも知れない3人組。
すなわち、なのはさん、はやてさん、そしてもう1人の親友。
その3人が雑談していたのです。


「ええやんか」
「いや」
「どんだけ独占欲強いねん」


溜め息を吐くはやてさんの対面には、雑誌に目を通すなのはさん。
その会話の内容はというと。


「なのはちゃんちの獣族みたいー」
「だめ」
「なんだったらうちの狼種連れてくからー」
「脅えちゃうからだめ」
「あ、うちのは厳ついけど寡黙でジェントルやで!人型やなんやったら獣型で連れてこか?」
「それでもだめ」
「他の獣族見るのもええと思うけど」
「うちの子、狼族と山猫種見たことあるから、むしろ一緒に住んでたから」
「山猫!?レア種やんか!!」
「あ、そうなんだ」
「・・・・・・・・・・・、興味ないなー、相変わらず」


うちの子が1番精神のなのはさんにとったら他の獣族など興味ナッスィンなのです。
あまつさえ雑誌に載ってる首輪の一つを見て、あ、これ外し難そう・・・とか考えている始末です。逃げて、ハラオウン家に逃げて、フェイトちゃん。
取り付く島のないなのはさんに、ほんのり芝居がかって泣き濡れるはやてさんは、隣に居るもう1人の親友にしな垂れかかります。


「あかんわすずかちゃんー、このうちの子バカどうにかせんとー」
「あ、あはは・・・、それだけ大事に育ててるってことなんだよ」


もう1人の親友。
この有名進学女子校の生徒にして、あの名家のご令嬢。
容姿端麗、成績優秀、まさに才色兼備。
穏やかな中立者。完璧なフォロー役。
月村すずかさんです。
すずかさんは困ったように笑って、はやてさんの頭をなでます。


「・・・・・ん?あれ?そういやすずかちゃんも獣族飼うてたよね?」
「うん、居るよ」


のほほんと答えるすずかさんにはやてさんは瞳を輝かせました。
目標変更です。


「いぬ種か狼種やっけ?」
「うん。白い毛並みの子、可愛いよ」


さり気に惚気ているすずかさん、さすがです。
色々眼が肥えているであろう月村家のご令嬢が飼っている獣族。
否応なくはやてさんの好奇心に火がつきます。


「いくつ位の子?」
「人間だと、8、9歳ってとこかな」


まだ幼いということですね。
その言葉に反応したのはなのはさんでした。


「あ、うちの子と一緒くらいだね」
「そうなん?」
「うん、まだちっちゃいよ」
「でも、うちの子は見た目より大人っぽいかな、考え方とか」
「気ぃ強いんやっけ?」
「優しい子なんだけどね」


苦笑するすずかさんを見つつ、脳内で構成される月村家獣族に思いを馳せるはやてさん。
どんな想像図かはあえて伏せます。


「写真とかあらへんの?」
「あるけど・・・」
「見・せ・て☆」


写真好きのすずかさんが撮っていない訳がなく。
やはりと言うべきか、煌く笑顔ではやてさんは言いました。
それにしばらく黙考したすずかさん。
負けないくらいの輝く笑顔で言い放ちます。


「・・・・・・・・・・・・・・、ダ・メ♪」
「何でやぁああぁあッ!!」


崩れ落ちるはやてさん。
少なからずすずかさんにも独占欲というものが存在しているようです。
表に見える部分では、少しだけ、ですが。


「ええやんかー、ええやんかーっ」
「それに、勝手に見せるとあの子怒るから・・・」
「黙ってればええやんかーっ」


駄々を捏ねる親友に苦笑するしかない2人。
うちの子にどんな希望を抱いているのかほんのり心配すらしてしまいます。
八神はやて、予想の斜め上の行動に定評がある人物です。
突っ伏していたはやてさんは徐に顔を上げ、笑顔で呟きます。


「・・・・・・・・・・・・・・・・。ま、今回はこれくらいにしとくわ」
((今回・・・))
「で、外見はどんなんなん?」


お宅訪問は次に回したようです。
今度は視覚的ではなく言語的な外見追求ですね。


「なのはちゃんちは?」
「・・・・・・黒い毛並みで、明るい金髪、紅い瞳、美少女」
「へぇ・・・・、なんやこの前会うた子と似とるなぁ」
「もっと可愛いもん」
「あー、はいはい」


なのはさんの惚気には慣れているはやてさんは華麗にスルーを決め込みます。
続いてすずかさん。


「白い毛並み、落ち着いた金髪で、翠の瞳、可愛い子だよ」
「あ、すずかちゃんちも金髪なんか」
「うん、手入れに抜かりはないよ」
「あー、はいはい」


要するに超大事に育てちゃってます、ってことですね。
まったくこのうちの子バカは、とか思いつつ口には出さないはやてさんは慣れすぎています。


「・・・・・・あ、せや」
『?』
「首輪は?何色?」


獣族のオプションと言えばこれ!的なアイテムを提示するはやてさんは爽やかな笑顔でした。
何を期待しているのでしょうか。


「なのはちゃんちは?」
「黒か紅かな・・・、あ、蒼もあった」


吟味に吟味を重ねた品揃えです。
お出かけ時には20分くらい悩んで装着に至ります、どんだけですか。


「すずかちゃんちは・・・、って、ああ、嫌がるんやっけ?」
「うん・・・、でも首輪、あることにはあるよ。翠と、赤、あと紫紺」
「特注?」
「一応、ね」


さすが月村家です。
実は首輪制作の際、何故かすずかさんの姉まで参加していました。
どうやらお姉さんも月村家獣族をお気に入りのようです。


「外されるんよね?」
「最初の頃は着ける時は我慢するんだけど着け終わったらすぐに外しちゃって・・・、今は着けようとすると怒るか逃げちゃうから」
「よっぽど嫌やねんなー」
「でも今は罰として使ってるんだよね?」


なのはさんの問いに頷くすずかさん。
それにはやてさんがふと気がつきます。


「着けても外されるんやったら、罰として使えへんやろ?」


最もな意見でした。
しかしそこは月村家のお嬢様、素敵な笑顔でこうのたまいました。


「外せない首輪も、あるよ?」
『・・・・・・・・・・』


眩しすぎる笑顔でした。


――――――


帰宅後、自室にて。
なのはさんは親友たちと今日行われた会話を思い出し、桃子さんから貰ったプリンを食べ終えてご馳走様ですとお行儀良く合掌しているフェイトちゃんを呼び寄せました。
手には、黒い首輪。


「なのは、どうしたの?・・・・・お散歩?」
「ううん、ただ着けたいだけなんだけど」
「・・・?うん」


フェイトちゃんを膝に対面で座らせてその細い首に首輪を装着していくなのはさん。
それにされるがままのフェイトちゃん。
抵抗、なんて言葉は全く見えません、されるがままです。


「よし、でーきた」
「でーきた」


にぱっと笑うフェイトちゃんに疑問が浮かんだなのはさんは、ぽむぽむ頭をなでながら問います。


「・・・・・・フェイトちゃん、首輪嫌じゃないの?」
「何で?」
「だって、こう、締め付けられるっていうか」
「ちょっと緩いよ?」
「・・・・何かこう、気分的に嫌とか」
「嫌じゃないよ?」


首を傾げるフェイトちゃんに苦笑するしかないなのはさん。
さすが私のフェイトちゃん、とか思っていました。
元々の性格っていうか、教育の賜物っていうか、何というか。


「自分で外せる?」
「うん」
「あ、外せるんだ」
「でも、なのはが着けてくれたから外さないよ」
「・・・・・・・・・あー、もう、何この可愛さ」
「なのは?」


何度目か解らない撃墜を喰らうなのはさん。
フェイトちゃんの撃墜率は恐ろしいものです。


「なのはは、首輪嫌いじゃないの?」
「ううん、させるのはむしろ好k・・・・・・・コホン、何で?」


フェイトちゃんの問いに、うっかり本音がだだ洩れになりそうになったなのはさんは、すぐさま爽やかな笑顔で問い返します。


「だって、この前美由希さんが私に着けようとしてた時、凄く怒ってたから」
「あー、あれはねー・・・」


フェイトちゃんに首輪着けていいのはなのはだけなの!!とはなのはさんのお言葉です。
続けてフェイトちゃんは言います。


「桃子さんも首輪嫌いなのかな?」
「え?お母さんが?」
「うん。士郎さんとお散歩に行く時、士郎さんが私に首輪着けようとしてるの見て・・・・“士郎さん、何しているの?”って、凄く、・・・・凄く、怒って・・・」
「・・・・・おかーさん・・・」


記憶が蘇ったのかちょっぴり脅えるフェイトちゃんをよしよししつつも、自分は母の血を色濃く継いだと感慨深くなるなのはさん。
ちなみにそれ以降、フェイトちゃんのお散歩権利は士郎さんにはありません。
父親がさめざめと泣いているのを長女に邪魔と言われて凹んでいるのを長男は哀れみの視線で見ていました。
そこで、あ、とフェイトちゃんが何かを思い出したようです。


「でもこの前、桃子さんが“絶対外れない首輪”、見せてくれたよ?コレで迷子になっても大丈夫ね、って」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


次の瞬間、なのはさんの怒号が高町家に響き渡ったのは言うまでもないでしょう。
今日も、高町家はある意味平和です。








「あれ?なのは何持ってるの?」
「あ、うん、没収品、かなぁー」


戦いを終えたなのはさんが戦利品を机の奥にしまっていたのだけ、追記しておきます。





おわれ

補足
すずかさんちの獣族はツンデレ属性です、言わずもがな
フェイトちゃんは基本的に従順ですが、嫌がるときは嫌がります、それで止めてもらえるかは別問題として
最近のフェイトちゃんのブームは尻尾を自分でブラッシングすることです


inserted by FC2 system