いぬふぇいと5



晩夏とはいえまだまだ暑いこの頃。
昼下がり。宿題を終えたなのはさんは士郎さんと遊んでいたフェイトちゃんを煌く笑顔で奪取して、部屋に連れ戻っていました。


「お父さん、凹むんだったら部屋の隅でしてよ。邪魔」
「美由希、それはあまりにもえげつない・・・」
「・・・・・・・。恭也、道場へ来い」
「え!?とばっちり!?」


とかそんな会話がリビングで行われているなんて全く知りません。
ベッドに腰掛けているなのはさんの視線の先には。


「あう、わぅ・・・・ぅー、わぅっ!ぅわうっ!!」


片づけ忘れていたタヌキマペットにむきゃーっとじゃれ付くフェイトちゃん。
最初こそ何で出しっぱなしにしてたかなーとか思っていたなのはさんですが、今は微笑ましい目でその姿を見ています。


(可愛いなぁ・・・。・・・・あのマペット、誰かに似てる気もするんだけど・・・・。・・・可愛いなぁフェイトちゃん)


その思考に、気付いちゃいけません。
しかしその穏やかな時間も10分を過ぎればさすがのなのはさんも構いたくなったのでしょう、ベッドから腰を上げてフェイトちゃんに近づきます。
それに微妙に警戒するフェイトちゃん。


「ステイ」
「ぅ」
「ステイだよ」
「・・・・」


マペットを咥えつつも止まったフェイトちゃんの前にしゃがみ込み、なのはさんは手を差し伸べます。
それはもう、笑顔で。


「ちょうだい?」
「・・・・・ぅ」
「フェイトちゃん?」
「くぅん」


その笑顔の裏に見え隠れするナニかを嫌というほどその身を持って知っているフェイトちゃんは、微妙に耳を伏せつつも目の前の掌にマペットを載せました。
受け取ったマペットをフェイトちゃんの手の届かない場所に戻してから、金色の頭を撫でるなのはさん。


「んー・・・何しよう。この炎天下に外には出たくないなー・・・」
「なのはは暑いの好き?」
「嫌いじゃないけど、大好きって訳でもないかな」


フェイトちゃんに苦笑いを向けると、ノックの音。
返事をすれば、現れたのは美由希さんでした。


「わぉ、いい感じに涼しいわねー」
「だって暑いし」
「フェイトちゃんも居るしね」
「うん」


なのはさんの部屋の冷房機器は現在活動中。
快適な空調を保っていました。
自身が暑いということもさることながら、湿気を含んだこの独特の暑さに弱いフェイトちゃんのためでもありました。
ちなみに暑いところにフェイトちゃんを放っておくと、水分補給をしつつも日陰でぐったりします。
初めてそれを発見したなのはさんが慌てて近づくと。


「なのはぁ、熱い、よぉ・・・」


暑さで潤んだ瞳と高潮した頬で、そんな不可避零距離攻撃を喰らい速攻お部屋に連行したのは過去のことです。
自重という言葉は、なのはさんにあるのでしょうか。


「それでお姉ちゃん、どうしたの?」
「ああ、あたしはお母さんの仕込みの手伝いで翠屋にいくし、お父さんと恭ちゃんは道場に行ってるから・・・夕方くらいまで留守にするね」
「うん、わかった」


お留守番のようですね。
美由希さんが部屋を去り、しばらくするといってきますという言葉と共に人の気配が消えました。


(みんなが帰って来るまで4時間ってとこかな・・・)


ベッドに上がり、壁に背を預けて、何して遊ぼうと考えるなのはさん。
外には出たくない、マペットはさっき遊んでた、ブラッシングはお昼前にした・・・・。
指折り考えていると、再び部屋の扉が開きミネラルウォーターのペットボトルを持ったフェイトちゃんが入ってきました。


「お水持ってきたよ、なのは」
「ん、ありがとう。フェイトちゃん、こっちおいで」


ペットボトルを受け取って、そのままフェイトちゃんを抱き上げると自身と向き合うように膝の上に乗せます。
尻尾をゆっくり振るフェイトちゃんの頭を撫で撫で。


「廊下、暑かった?」
「うん」
「フェイトちゃん、暑いのダメだもんね」
「違うよ?だるくなっちゃうだけで・・・」
「そう言うのをダメっていうんだよ」
「・・・・きゅーん」


へたりと力を失くす尻尾に微笑んでいると、なのはさんの目にあるものが留まります。
黒い半袖のシャツを着ているフェイトちゃんの、その首元。
暑さゆえか少しだけ弛められた首筋に、滴る汗。
思考は、一瞬。


「な、なのは?・・・ひゃぅっ」


なのはさんはフェイトちゃんを抱き寄せると、首元に顔を埋めました。
フェイトちゃんの匂いと、少しだけ汗の匂い。
眼前には、滴る汗。
舌を伸ばして舐めとります。


「ん、ゃ、やだ、なのはっ」
「んー?」
「舐めないでっ」
「塩分補給だよー」
「えんぶん?っ、んぅ」


喉の奥で笑いながら抵抗をいとも簡単に押さえつけて、なのはさんはその行為を続けます。
間違いなくフェイトちゃんの反応を楽しんでいました。
この時点では遊び、戯れだったのです。
が。
ふとなのはさんが視線を下げると、シャツの隙間から覗く白磁の肌に、存在を主張するかのような紅い華。
咲かせたのは自分だからこそ、その時の映像がフラッシュバックするのは当たり前のことで。


「・・・・・・・」
「・・・・・なの、は?」
「・・・・・・・・」
「なのは?」
「・・・・・・」
「なのはー?」


急に動かなくなったなのはさんに安堵しつつも小首を傾げてその名を呼ぶフェイトちゃん。
しかし返答はなし。
しばらくして。


「フェイトちゃん・・・」
「ひゃいっ!」


微妙に低い声。
条件反射で背筋を伸ばすフェイトちゃんの首元から顔を上げたなのはさん。
その表情は。


笑顔。


限りなく、笑顔。
フェイトちゃんの中の警鐘がガンガン鳴り響きます。
逃げろ、と。
躾とはまた違う危機感。
本能に従って膝から降りようとするフェイトちゃんの腰にはがっつりなのはさんの腕がいつの間にか回されていました。
堅牢な檻は完成していたのです。


「この部屋、ちょっと涼しすぎるから・・・」
「から?」
「タノシイコトしよっか」
「ひゃあっ!!」








わんこなのににゃんにゃんとは是如何に








「ただいまー」


夕方。
暑さでダルそうに玄関をくぐった美由希さん。
おかえりーという声の方向に視線を向ければ、そこにはなのはさん・・・と、なのはさんに抱えられているフェイトちゃん。
靴を脱ぎつつも美由希さんはなのはさんに問いかけました。


「あれ?フェイトちゃんどうしたの?」
「冷房切ってお昼寝してたら寝汗かいちゃって、今からお風呂」
「ああ、なるほど。まだ寝惚けてるわけね」


どうやらなのはさんはお風呂に向かう途中だったようです。
苦笑する美由希さん。
なのはさんに身体を完全に預けているフェイトちゃんは、たしかに寝惚けている時と酷似していました。


「夕食まで時間あるし、ゆっくり入ってきなさい」
「うん」


美由希さんに背を向けて、脱衣所に着いたなのはさんは腕の中のぐったりしたフェイトちゃんを覗き込みました。


「まだ自分で立てない?」
「ん・・・」
「・・・・・」


抱っこの理由、なのはさんに有り。
フェイトちゃんをここまでぐったりさせたにもかかわらず、なのはさんのフェイトちゃんを見る目が若干遠くなっていました。
それに気付いたフェイトちゃん。


「・・・・・なのは、やだからね?」
「え?」
「お風呂でも、とか、やだ」
「そ、そんなことしないよ?」
「・・・・この前、された」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


前科犯の背中を、暑さとは関係ない汗が伝いました。






おわれ

補足
噛み噛み事件以来、マペットを返してくれるようになりました、ただしなのはさん限定
知能がめっさ高いフェイトちゃんは最近口が達者
ちなみにはやてさんと、なのはさんのもう一人の親友も獣族保持者


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