いぬふぇいと3



昼下がりのことでした。
ソファに座るなのはさん。
その左手には可愛らしくディフォルトされたトラのマペットが装備されていました。
そしてそれを隣に向けてピコピコ動かしつつ、なのはさんは笑顔で言います。


「がおーっ」
「ぅー、ぅわぅー・・・・ッ」


そこにはトラに唸るわんこ。
ソファにぺたんと座り込み耳と尻尾の毛を若干逆立てるフェイトちゃんがいました。
明らかに戦闘モードです。
尚もなのはさんはマペットを近づけて、さらに刺激。


「がおーぅっ」
「わぅっ!」


次の瞬間にはフェイトちゃんはトラに向かって攻撃。
わしっと掴んでそのままあぐあぐ咬んでいました、マペットの頸部を。
所謂急所。闘争本能ってヤツですね。
ぅーとか唸りつつあぎあぎ咬んでいるフェイトちゃんを見つつ。


(動く萌え要素だよね。何この可愛い生物)


幸せそうな顔で、じゃれつく・・・本人にとっては仕留めようとしているフェイトちゃんを構っていました。
ハラオウン家よりもらったマペットは特注で、厚手に出来ているためなのはさんは全く痛くないのです。
そして大分堪能した後、なのはさんはやんわりとマペットをフェイトちゃんから取り上げます。


「はい、終わり」
「ぅー・・・・」
「フェイトちゃん、終わり。唸らないの」
「ぅー・・・」


一度点いたフェイトちゃんの闘争本能と言う名の興奮は中々冷めてはくれないご様子。
未だに尻尾がぶんぶん動いていました。戦闘モードは継続中。
それに苦笑いしたなのはさん。


「もうトラさんいないよー。なのはの手だよー」
「ぅー・・・・っ」
「ほら」


なのはさんが手をフェイトちゃんに伸ばした瞬間でした。


「わぅ!」
「きゃっ」


一瞬ではあるものの、フェイトちゃんがその指を反射的に咬んでしまったのです。
元々甘噛み癖があったのでこうやってそんなに痛くない程度に咬まれるのが初めてではないなのはさんですが、咬まれたということを自覚するとすぅっと蒼い瞳を細めました。


「フェイトちゃん?」
「ッ!!」


名前を呼ばれる声色にフェイトちゃんがビクリと固まりました。
なのはさんは微笑んだまま、フェイトちゃんを見ています。


「フェイトちゃん、今、咬んだよね?」
「あ、あぅ・・・」
「おかしいなぁ、私、人は咬んじゃだめって教えたよね?」
「ご、ごめんなさ、い、なのは」


微笑みを湛えるなのはさんを紅い瞳で見上げて、フェイトちゃんは震える声で謝ります。
耳は伏せられ、尻尾はお腹側に巻き込まれ、明らかに脅えていました。
そんなフェイトちゃんに、咬まれた方の手を伸ばし、その頬に触れるなのはさん。
ぎゅうっと瞑られて隠された紅。


「もう一回、教えないとだめかなぁ」
「ぅ、ぁ・・・・」
「ね、フェイトちゃん」


瞼が恐る恐る開けられ、覗く紅に映るのは、近づいたなのはさんの微笑み。
フェイトちゃんの口から微かに洩れる声。


「・・・み、耳、やだ、よ・・・・」
「フェイトちゃんが咬むから、お返ししただけだよ?」


ふふっと笑ったなのはさんは伏せられた耳に触れて、フェイトちゃんに言います。


「だめって・・・耳だけ?他は良かったんだ?」
「や、やだ・・・っ」
「やなの?そうは見えなかったけどなぁ」


あの時、と呟いたなのはさんの雰囲気がふんわりしたものに戻ります。
よしよしと金色と伏せた漆黒を優しく撫でて。


「もう咬んじゃだめだよ?」
「・・・・怒らない、の?」
「まあ、今のは私も不注意だったし・・・、もうしない?」
「うんっ」
「じゃあ怒らない。おいで」
「なのはっ」


腕を広げれば抱きついてくるフェイトちゃんを抱き締め返すなのはさん。
ぎゅーっとしつつも。




(・・・・・・・・・・・・・・・・、あ、躾って言う口実逃した・・・)




とかフェイトちゃんにとったらヒドイことを考えているなんて、尻尾をパタパタ振る本人は知りません。
なのはさんが、お風呂・・・いや、お風呂上りに・・・・、とか妙なことを呟いていると足音。
リビングに顔を覗かせたのは、高町家の頂点に君臨する人でした。


「フェイトちゃん・・・・って、あら、またなのはが独占中?」
「わぅ?」
「フェイトちゃんが一番懐いてるのはなのはだからいいの」


フェイトちゃんを膝に乗っけているなのはさんを羨ましげに見る桃子さん。
それを小首を傾げて見ているフェイトちゃん。自分のことを言われているとはよく解っていません。


「フェイトちゃん、こっちにいらっしゃい」
「何ですか?桃子さん」
「・・・・・・はい、抱っこー☆」
「きゃぅっ」「お母さん!?」


てとてとやってきたフェイトちゃんをしゃがんで向かえた桃子さんは、自分の射程内にフェイトちゃんが入るや否や抱き上げました。


「うーん、やっぱり抱き心地いいわねぇ」
「わぅぅ・・・・」


恥ずかしげにしながらも尻尾が控えめに左右に揺れているフェイトちゃんに頬擦りする桃子さん。
桃子さんもフェイトちゃんを溺愛しているのです。
どれくらいかというと、フェイトちゃんが士郎さんの膝に座っているのを発見した瞬間に。


「士郎さん、お話があります」


って言うくらい溺愛しています。
間違いなくなのはさんは母親似です。


「お母さんっ!頬擦り禁止!」
「えー?」
「えー、じゃなくてッ!」
「フェイトちゃんが嫌がってないんだからいいでしょ?」
「嫌だよねフェイトちゃん!」
「あの、えと、・・・きゅーん・・・・」
「なのは、フェイトちゃんが困るようなこと言わないの。嫌われちゃうわよ?」
「ッ!!フェイトちゃんがなのはを嫌うなんてことないもん!!」
「あら、どうかしらー」


この後数分間、母娘の不毛すぎる口論は続きました。
一応決着がついた時、フェイトちゃんはなのはさんに抱えられていました。どうやら辛くも勝った模様です。


「な、なのは?大丈夫?」
「な、なんとか、ね」


白熱した戦いだった模様で、なのはさんの息は上がっています。
ソファに座り込んだなのはさんの前に立って、フェイトちゃんはなのはさんを覗き込みました。


「あのね、なのは」
「なぁに?」


少しだけ照れたようにはにかんで、フェイトちゃんは言います。


「私、なのはのこと大好きだよ?ほんとだよ?」


なのはさんの意識が飛びかけました。
どうやら先ほどの口論の件、嫌われちゃうわよ、のことについて言っているのでしょう。
しかしこの一言は疲れて色々思考がタイヘンになっているなのはさんにはタブーでした。


「ああもう可愛いなぁッ!!」
「むぐ」


驚きの瞬発力で目標を捕獲、かいぐりかいぐりと先ほどの誰かを彷彿とさせるように頬擦りを開始。
それに真っ赤になりつつも尻尾が嬉しさを主張しているフェイトちゃん。
現在進行形で色んなことが巡るなのはさんの脳内はともかく、とてもほのぼのした光景です。


「なのは!お母さんと交代!!」
「いや!!」


例え、本日舌戦二回戦目が控えていたとしても。



おわれ

補足
くどいですがフェイトちゃんの甘噛み癖をしつけたのはなのはさんです
マペットは他にタヌキとかネコとかがあります
フェイトちゃんは闘争本能が強いらしいです
そして懐いている人の服とかを寝床に運んだりもします、匂い的な意味で


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