いぬふぇいと1



高町なのはさん。
某有名進学女子校の生徒です。
容姿端麗、成績優秀、まさに才色兼備。
人懐っこい天真爛漫、一本気のしっかり者。
そんな彼女ですから、放課後のお誘いは数多にあります。
しかしそれを全て断り、なのはさんは家路にと急ぐのです。
彼女がそうする理由について他生徒の色々な憶測は絶えません。
果たしてその真実は。


ガチャ

「ただいまー」

タタタタタッ

「おかえりなさいっ、なのは」


玄関をくぐったなのはさんを迎えたのは、わんこでした。


――――――


玄関まで駆け寄ってきて靴を脱いでいないなのはさんの前に立っているのは、美少女。
ただ人間ではありませんでした。
漆黒の毛並みの立ち耳と、すっきりとしたブラシ尾。
それはどう見ても狼のそれに酷似した犬オプション。
綺麗な金髪に映える耳をぴくぴく動かし、尻尾が遠慮がちにぱたぱた揺れる様は小さな身体と相まってそれはもう可愛らしいです。


「ただいま、フェイトちゃん」
「うんっ」


微笑んだなのはさんにふにゃりと笑顔を返すフェイトちゃん・・・と呼ばれたわんこ少女。
ひたすらにこにこと彼女を見下ろすなのはさん。
フェイトちゃんも笑顔だったのですが、しばらくしてそわそわし始めました。
言葉をつけるなら、「まだかな、まだかな」でしょうか。
尻尾は揺れたまま、耳が微妙に伏せていきます。
我慢してます、すっご我慢してます、もっそ我慢してます。
大分その姿を堪能したなのはさんが、一言。


「おいで」
「わぅっ」

ぎゅぅ


許しを得たフェイトちゃんがなのはさんにさらに近づいて両手を伸ばしました。
それを抱え上げて、なのはさんはフェイトちゃんを抱き締めます。
例え脳内で。


(ああもう健気に「おいで」って言われるの待ってる姿とか、言った瞬間に嬉しそうに笑って抱っこしてもらう姿とか可愛すぎッ!!)


とか思っている上に顔が若干ニヤけているのは抱きついているフェイトちゃんには見えません。
あまつさえ「うわぁ、凄く尻尾振ってる・・・・・握ったらまた鳴いちゃうかなぁ」とか考えているのも解りません。
そう。
なのはさんがいつも早く帰路に着く理由は、このフェイトちゃん。
何よりも優先してフェイトちゃんを弄r(ry愛でるために、なのはさんは数多の誘いを断るのです。


――――――


フェイトちゃんが高町家に来たのは半年ほど前。
最初の頃はそれはもう警戒して脅えていたのですが、それをなのはさんが篭絡・・・ゲフン、懐かせたのが四ヶ月ほど前。
いまや高町家族の全員に懐いているフェイトちゃんですが、一番はやはりなのはさんのようでなのはさんが居れば傍に居たがるほどです。
もともとしつけもちゃんと行われていて飛びつき等の問題行動もなく、出迎えのように許しを得なければじっと待つのです。
優良犬ですね!


「なのは、お菓子の匂いがする」


玄関で床に下ろされたフェイトちゃんの一言に「リビングで待ってて」と伝えて、付いて行きたそうな視線と垂れた尻尾に打ちのめされながらも部屋に戻ったなのはさんは、着替えを済ませてあるものを手にリビングへ。
リビングに入るなりテテテッと寄ってきたフェイトちゃんの頭をひと撫でし、なのはさんはソファに腰掛けました。


「フェイトちゃん、お座り」
「わぅ」


床にぺたんと座ったフェイトちゃんに苦笑して、こっちだよ、となのはさんは自身の膝をぽんぽん叩きます。
目を丸くした後、満面の笑みでぱたぱた尻尾を振ってフェイトちゃんはなのはさんの膝の上。
落ちないように後ろから抱き寄せた小さな身体、お腹を少し擽る尻尾と小刻みに動く耳、その感覚に。


(ここまで懐かせるのが大変だっただけに感動さえ覚えるよね・・・。にしても可愛いなー)


ほんのり幸せに浸りつつ、なのはさんは持ってきた箱を開けました。


「けーき?」
「そう、ケーキ」
「あ、なのはと同じ甘い匂い」
「この匂いだよ」


調理実習で作った、一口サイズに切られたケーキ。
ふんふん鼻をひくつかせるフェイトちゃんに微笑んで、なのはさんはそれを一つ取り出し、フェイトちゃんの口元に。


「あーん」
「食べていいの?」
「いいよ」


いただきます、とケーキを頬張るフェイトちゃん。
もごもごした後になのはさんを見上げて。


「おいしいっ」
「そっか」
「ありがとう、なのは」
「うん」


笑顔のフェイトちゃんに、コレでこそ作った甲斐があったとばかりに頬を弛ませるなのはさん。
ふと、フェイトちゃんが視線を下ろして、ぁ、と呟きました。
首を傾げるなのはさんがその行動の目的を認識する前に手を取り、フェイトちゃんは。


ぺろ、・・・ぺろ・・・


なのはさんの指に付いていた生クリームを舐め取り始めたのです。
いわば、電流です。
なのはさんに、電流と表現するしかない衝撃というか情動というかが駆け巡りました。


(フェイトちゃんが)

(私の指を)

(舐めてる・・・・ッ!!)


カッと目を開き、打ち震えるのを必死で抑えるなのはさん。
色々タイヘンです。
しかしさらに攻撃がくるとは予想していなかったのでしょう。


「きゅーん・・・?」


舌を離したフェイトちゃんが、なのはさんを見上げたのです。
上目遣い。
電流は、雷に進化しました。


「・・・・フェイトちゃん」
「・・・・?・・・・・・ッ!!ご、ごめんなさいっ」


状況を改めて理解し慌ててなのはさんの手を離し、勝手な行動をしたと、怒られると思ったフェイトちゃんの耳は伏せられ、尻尾はお腹側に巻き込まれていました。
それすらも、状況を悪化させるとは気付くわけがありません。


「ちょっと、私のお部屋に行こうか」
「ご、ごめ、なさ・・・・ッ」
「怒らないから、ね?」


涙目で震えるフェイトちゃんを有無を言わさず抱き上げて、なのはさんはにっこり微笑みました。
足を進める先は、自分の部屋。




おわれ


補足
フェイトさんは外見7〜9歳児、ちっさいこ
髪は下ろしてます
ハラオウン家より高町家に譲られてきました
お気に入りはなのはさんの部屋にあるクッション
恭也さんの膝の上も、好き


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