なんでやねん



「おかえり」
「ただいまー。・・・・・・・・・・・・・・・・何で居るん」


思わず返した言葉を理解して数秒。
かったるい会議を終えてちょっと眉間にしわを寄せて自室兼執務室に戻ったはやてさんはより眉間のしわを深くしました。
漂うコーヒーの香りと、ソファにモデルの如く美しく座っている執務官服の人。


「何でって、会いに来たから」
「いやいや、それもあるけど、違くて」


優雅にコーヒーを飲んでいた人、フェイトさんは視線をこっちに向けて微笑んでいました。
背後で扉のしまる音を聞きながら立ち止まり、混乱する思考で必死に言葉を探すはやてさん。渦巻く感情は後回しに。


「ここ鍵かかってたやろ」
「うん」
「何で入れてるん」
「鍵開けたから」
「いやいやいやいや」


痛みすら感じ始めたような頭を軽く振り、はやてさんは一度大きく深呼吸します。
視線をあげればにこにここちらをみるフェイトさん。状況的にちょっとだけイラッとするかもしれません。はやてさんは大分イラッとしました。


「何で鍵開けられるん!」
「カードキーの使い方を知ってるから」
「くああああ!!ちゃんと会話を成り立たせぇ!!」
「質問にちゃんと答えてるよ?」


投げつけられた鞄を事もなく受け止めながらフェイトさんは笑います。
細められた瞳に何を思ったのかは誰にもわからず、ただはやてさんを見て微笑んでいました。


「あたしが持ってる鍵と、あとはスペアキーとマスターキーくらいしかないんやけど」
「そうらしいね」
「スペアキーは補佐官。マスターキーは艦長が持ってるんやけど」
「そうだろうね」


当たり前のことに当たり前だと頷くフェイトさん。はやてさんの言っていることは正しいのです。
だから、補佐官でも艦長でもないフェイトさんがここを開けられるはずがありません。そう、言っているのです。


「さっきも言ったけど、手段があるなら開けられるよ」


そう言って、フェイトさんの手には弄ぶように翻るカードキー。
それは間違いなくここの鍵。


「え。え?」


近寄ったはやてさんがそれを奪い取ってよくよく見ても、それはここの鍵。
疑問視を向ければ、フェイトさんは何でもない表情で言いました。


「補佐官、いい子だね」
「このタラシ!!!!!!!!!!!!!!」


防音だったのが、幸いといえましょう。


−−−−−−


「失礼しちゃうな。ちょっと話しただけだよ」
「うっさい寄るなこの女の敵!!」


耳を抑えて苦笑したフェイトさんが立ち上がれば、慌てて距離をとるはやてさん。
にこにこと笑顔に戻ったフェイトさんが一歩近づけば、小動物のような警戒で一歩下がるはやてさん。
一進一退。距離は縮まりません。


「別に補佐官をどうこうしたわけじゃないよ」
「信じられへん!!」


事実はどうあれフェイトさんが本気を出せばそれこそ色んな人の籠絡は容易いでしょう。
そしてそんなことをしたつもりはない、というのと、あれはどう見てもそうだ、っていうのは別ものであって。
はやてさんはかなり疑いを持っていました。渦巻く感情に、やきもちという名の新たなものを加えて。
そんなはやてさんに仕方ないというような溜息を一つ。フェイトさんは口を開きます。


「八神捜査官、よく通信一覧の名前見て溜息ついてるんです=v
「は?」
「たぶん、いっつも同じ名前見てます=v
「え?」
「最近、疲れてるみたいで・・・=v
「うぇ?」
「会いに行ってあげてください=v
「・・・・・・・・・」


フェイトさんの言葉ではない言葉。けれどはやてさんが誰のものか予想出来てしまう言葉。
にこにこ。フェイトさんの笑顔は変わりません。


「寂しかった?」


点火。


「うううううううううううううううっさいわボケ!!!!」


爆発。


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