しりとりですまーち





どうも、こう、なんか、こう、それぞれの性格と立ち位置的なそういうのがしっくりきていない感、自分の中で

だから色んな感じの書いていこうと思ったんです

そしたらこうなったんです、不可抗力です、私悪くないよ

えっと

高坂さんと園田さんと南さんと星空さんと西木野さんと小泉さんと矢澤さんと絢瀬さんと東條さんのファンの方に先に謝罪しておきます

でもね、でも、一つだけ言わせて

書いてる時の私、輝いていた

楽しすぎて

















放課後。
部員たちが全員集まる前の部室。

「かよちーん」
「なあにー、凛ちゃん」

パイプ椅子をがこがこ鳴らしながら暇を主張して、うるさい、と真姫さんに怒られた直後の凛さんは長机にほっぺをつけながら隣に言います。
呼びかけに笑顔を以って返した花陽さんが、首を傾げて凛さんを見ました。

「しりとりしよう」
「しりとり? いいよー」

暇つぶしの仕方を提案。
二人の周りだけ何だかお花が舞ってそうなほんわかした空気です。
身体を起こした凛さんがしりとりのはじめとしては無難な単語を思い浮かべて。

「りんご」
「ご飯!!」

輝く笑顔で発された単語にしりとりという遊びが阻まれました。
力んだ言葉は室内を一瞬だけ沈黙で包みましたが、凛さんの笑いにまた音を取り戻します。

「かよちん、開始二秒で終わっちゃったにゃー」
「ご、ごめんね凛ちゃん」

素晴らしい反応速度でした。
すまなそうに微笑んで、今度は私からはじめるね、と花陽さんは同じ単語を舌に乗せます。

「りんご」
「ご飯食べてる時のかわいいかよちん!!」

がたりと椅子を蹴倒さん勢いで立ち上がり発された、もはや単語でもない言葉にまたしても阻まれました。
パイプ椅子の軋みが余韻として残る沈黙が降りました。それを今度は照れ笑いが破ります。

「凛ちゃん、三秒で終わっちゃったよ」
「あはは、ごめんにゃー」

こちらも素晴らしい反応速度です。
うふふ、あはは、と笑いあう二人。もうしりとりしたいんだかどうなんだかわかりません。
その様子を何してんのあの子らという思考がだだ漏れした目で見ていた真姫さん。

「よし、しりとりしようか」
「は?」

そこに、隣から聞こえてきた声。振り向けば、アイドル雑誌を閉じる先輩が一人。
二人に向けていた同じ種類の視線を今度は一人に向けて、真姫さんは眉根を寄せます。

「なぁにー? 真姫ちゃんはぁー、負けるの怖いのー?」

先輩、にこさんは口端を引き上げて、甘ったるい声で言いました。
真姫さんの目が細まりました。
よろしい。ならばしりとりだ。
















五分後。

「ウラル」
「る、……ぅまにあ!」
「あひる」
「るあー!!!」
「アムール」

しりとりの必勝法と呼ばれるものをご存知でしょうか。
よく言われているのが、“る攻め”というものです。
るから始まる言葉というのは、外来語を含めても少ないものです。その中から覚えている単語というのは、さらに少ないものでしょう。
涼しい顔で髪を指に絡ませながら淡々と紡ぐ真姫さんに、汗が滲ませながら応戦しているにこさん。
戦況は火を見るよりも明らか。
しかしここで終わらないのが矢澤にこという人なのです。
睨みつけん勢いで真姫さんを見詰め、発された一言。

「ルール!!」
「ルミノール」

速攻で撃ち返されました。にこさんは崩れ落ちました。
る。る。る。
にこさんが突っ伏したままぶつぶつ呟いて一分ほど。
ようやく起きたかと思えば、いつものように手を頭の上に、煌めく笑顔。

「るんるん気分のにっこにっこにー☆」
「……」

対して、真姫さんは真顔でした。
沈黙が訪れました。先の二人とは違う種類の沈黙でした。
痛々しいくらいの、無音でした。
にこさんの、真顔。

「……何か言いなさいよ」
「“何か”?」
「だあああほんっと腹立つわねあんた!!」

机を叩きながら咆えるにこさん。
はん、と笑い交じりの息を吐きだす真姫さん。
このやりとりも見慣れたものです。
あーあ、なんて一年二人が見ていると、勢いよく開かれる扉。

「今日も練習頑張ろう!!!」

先頭に穂乃果さん。その後方に苦笑した海未さんとことりさん。
二年生組の登場です。
ぎゃんぎゃん言ってるにこさんを目に、周りに説明を求めれば経緯の説明。

「私もしりとりしたい!!」

穂乃果さんがそう言うのは予想に難くありませんでした。
まだ部員全員が集まっていないというのも歯止めがきかなかった原因ともいえましょう。

「ことりちゃんと海未ちゃんもしようよ!」
「うん、いいよー」
「私は遠慮します、ちょっと調べたいことがあるので」

そうして、二年二人+一年三人によるしりとりが始まったのです。
にこ先輩は言い負かされて突っ伏していたので参戦しませんでした。














それから二十分ほどたった頃でしょうか。
部室の扉が開いて、現れたのは残りの三年生二人。
絵里さんと希さんは室内を見て瞬き。扉から近い位置にいた海未さんが、資料から顔を上げてその二人に視線を向けます。

「何しとるん?」
「しりとりをしてるみたいです」
「また遊んでるのね……」

微笑みと苦笑を以ってして、それを許容する三年生。さすがです。
海未さんの対面に、口元を抑える花陽さんと、項垂れる凛さん。

「る、恐ろしい子……!!」
「やられたにゃー……」

真姫さんの静かな猛攻に撃墜された後の様です。

「カモミール」
「ルーブル」

見れば、次の標的にされたことりさんが華麗に攻撃を回避しているところでした。
状況を把握した三年生二人は、空いた席へと向かいます。
おそらくこれがひと段落するまで練習とはいかないでしょう。
希さんは一旦、手にしていた備品のビデオカメラを扉横の棚に戻してから、凛さんと真姫さんの間の席に腰を据えました。

「なぁなぁ」

そして、対面にいる穂乃果さんへと声を掛けます。
るー。と次の単語を練っていた穂乃果さんは首を傾げます。

「会話とか、台詞でしりとりって言うんも楽しいよ?」
「会話?……る……る……?」

にこりと微笑んだ希さんにしばらく俯いて考えていた穂乃果さん。
絵里さんが鞄の中から次のライブの資料を取り出して、穂乃果さんの隣に座ろうとした瞬間でした。

「ルンバ衣装の絵里ちゃんが見たい!!」

挙手をしての発言でした。真剣な顔です。
ガダン。椅子から座り損ねた音が響きます。
一部を除いた部員たちが、ぽかんと発言者を見ていました。

「ちょ、なに、何言ってるの穂乃果」

体勢を持ち直しながら絵里さんが穂乃果さんに問います。
問い、というよりは確認でした。何言っちゃってるのこの子は。

「この前社交ダンスの番組見てたんだけどね、凄いの、衣装凄いの」
「衣装が凄いのはわかるけど何で私なの」
「えっ……?」
「そんなそれ以外ないよねって顔されると凄く困るわ穂乃果」

至極不思議そうな顔をされたので、絵里さんは逆にうろたえました。何考えてるのこの子は。
そこで絵里さんは気付きます。穂乃果さんを挟んだ向こうの席、ことりさんがいっそ清々しい笑みを浮かべていました。衣装作製班の顔でした。誰か止めないと。

「……、イルカ」
「真姫、待って真姫、続けようとしないで」

しかししりとりという情け容赦のない勝負は続くのです。
対面。呆れに移行した感情で、る攻めすらどうでもいいと紡がれた真姫さんの言葉に絵里さんが食い下がります。

「ほらー、えりち、観戦サイドが邪魔したらあかんよー」
「希わかってやったでしょ」
「うちわからんわー」

窘めから、頬に手をあてて首を傾げる希さん。
その様子を見て、絵里さんは反論を喉の奥で潰しました。
何を言っても無駄パターンです。

「肩に凭れて眠ると頑張って動かないようにするところ」

若干混沌としてきた部室内に、一陣の風の如く滑り込んだ言葉。

「えっ」

誰が発したかわからない疑問の声を受けたのは、ことりさんでした。

「ん?」

なぁに。どこもおかしいところないよね。
笑顔がそう語っていました。

「ろ、だよ。穂乃果ちゃん」

しりとりです。
あくまでもしりとりです。
ことりさんの隣に座っている人の動きが止まっていようが、しりとりなのです。

「ろ、ろかー……」
「えっ、続けちゃうの? そこ続けるの?」

とても自然にまた悩み始める穂乃果さんに、さすがににこさんもつっこまざるを得ませんでした。
続けちゃうんです。
またしても何故か挙手をして、穂乃果さんは言い放ちます。

「ロシア民族衣装のちっちゃい絵里ちゃん凄く可愛かった!!」
「待ちなさい穂乃果、何でそれを知ってるの」

絵里さんは真顔でした。
絵里さんの記憶では、穂乃果さんにアルバムを見せたことはおろか、そういう衣装を着たと言ったこともないはずです。
なのに、何故それを知っている。
まさかと思いつつ希さんを見ますが、にこりと微笑まれるだけです。
穂乃果さんは、きょとんと頭を傾けました。

「亜里沙ちゃんが見せてくれたよ?」
「初耳よそれ」

情報漏洩は遺伝子レベルで身近から。
妹の可愛らしい笑顔が絵里さんの脳裏に浮かびます。
すると、穂乃果さんの顔色がやってしまったとばかりに変わりました。

「あっ、内緒って約束だった!!」
「こらー!!」

正直者です。
絵里さんの叱る声をバックに、その姿を先ほどよりも呆れを色濃くして見る真姫さんに、希さんは囁きます。

「真姫ちゃんも会話っていうか、台詞で勝負したらどうなん?」
「何で私もそんなことしなくちゃならないのよ」

髪を指に絡ませながら、溜息と共に吐き出す真姫さん。
その返答は予定調和。

「んー? 真姫ちゃんは正攻法やないと勝てへん?」

対処法も、確立されていました。
眉根を寄せた真姫さんに、畳みかけるように希さんは言います。

「二人とも、可愛いところ言ってるみたいやなぁ」
「……」

穂乃果さんと、ことりさんを見て。
決して、机の角を挟んだ左隣を見ずに、真姫さんは言います。

「高いところのものを取ろうとする時何で脚立使おうとしないのかわかんない」

た、から始まる言葉でした。
本日、今までで流れた沈黙とはまた別の種類の沈黙が流れます。
発言者である真姫さんではなく、それ以外の人に視線が集まっていたことも初めてでした。
意思なく視線を集めた人は、腕を組み口元を引きつらせていました。

「ちょっと待ちなさい、それ誰のことよ」
「べつに誰のことでもいいでしょ。背伸びしたって絶対に届かないのに、無駄な努力よね」

やはりこちらを見ようともしない真姫さんに、見開かれる赤い瞳。

「道具に頼らない信念っていうのがわからないの!?」
「信念ねぇ……」
「今、信念(笑)って言ったでしょ!!」

べしん。机を叩きながらにこさんは声を荒げます。
またしてもぎゃあぎゃあ騒ぎ始めるにこさんを放って、ことりさんは少し中空を見詰めてから笑顔を作ります。

「未だに手を繋ぐと固まるよね」

その隣で、やはり固まった人がいました。
しかし先ほどとは微妙に違うことに、対面の一年生は気付きます。

「ねえ、凛ちゃん、海未ちゃんがなんか……」
「ちょっとぷるぷるしてるね、くしゃみでも我慢してるんじゃない?」
「違うよね、それ違うよね絶対」

花陽さんの真摯な表情に、凛さんは笑顔を向けていました。
面白がっていることは明白です。
順番は回ります。

「寝起きの中でも気が抜けてる時が可愛い」

穂乃果さんに向いていた視線は、一斉に違う人へと向けられました。

「……何で皆こっち見るの。誰って言ってないでしょ」

確かに言っていません。
言っていませんが、集まる視線は雄弁です。

「あっ、ちなみnむぎゅ」
「さあ真姫、い、よ。続けて、早く」

さらに何かを言おうとする穂乃果さんの口は絵里さんの手によって塞がれました。
絵里さんはとてもいい笑顔で真姫さんに促します。
有無を言わせません。

「椅子に座る時に無理矢理隣に座るって何なの」

やはり左隣を見ずに真姫さんは言いました。
その言葉に、にこさんの眉が跳ねます。

「ピアノ椅子? ねぇ、ピアノ椅子のこと言ってんの?」
「別に。何のこととも、誰のこととも言ってないでしょ」

にこさんには何やら心当たりがあるようですが、真姫さんは取り合いません。
尚も追求しようと机に身を乗り出しつつ、にじり寄るにこさん。

「狭いっつってんの? この超絶可愛いにこにーが邪魔だっつってんの?」
「無駄に近いのよ」
「無駄って何よ!」

段々この争いにも慣れてきました。
気にせずに、ことりさんのターン。

「伸びをする時に肋骨がちょっと浮いてるとこ」

想像。

「これどっちのことだろうねー」
「難しいなー、たぶんどっちもありやろなー」
「えっ、何で凛ちゃんと希ちゃんわかってるの? 私わかんないよ?」

納得する人と、疑問符を浮かべる人でわかれました。
やはり隣にいる人は固まったままぶるぶると震えていました。
疑問符を浮かべていた側の穂乃果さんは、考えることを諦めて破顔します。

「この前テレビ見ててCMでゾンビ映画が流れた時に慌ててぎゅってして来た」
「穂乃果」

絵里さんはやはり真顔でした。
穂乃果さんの肩を掴んで自分の方を向かせちゃうくらい真顔でした。

「終わった? って聞いてくるとこがすごい可愛かったです」
「穂乃果、やめなさい」

別の感情を押し殺したかのような顔でした。
ふにゃふにゃと破顔したままの穂乃果さんの両肩を掴んで、言い聞かせるように絵里さんは心なしか低い声を出していました。
周りからの痛いくらいの視線はもうどうしようもないのでなるべく意識の彼方に押しやっています。

「亜里沙ちゃんも、可愛いですよね、って言ってたよ」
「何でそんなに仲良くなってるの」

どうやら弾む会話もあるようです。

「猫娘にビビってたくらいやからゾンビなんてハードル高すぎやろなぁ」
「お化け屋敷から逃げてきたのってそういうことだったんだ……」

皆も色々とわかってます。
こう言うこと言っちゃだめなの。何で。わかって。どうして。わかりなさい。だって。だってじゃない。可愛かった。そうじゃなくて。
そんなやり取りを続ける二人を、うわあ、って顔で見ていたにこさん。

「たまにわけわかんないとこで本気で照れてるからどうしていいか困るんだけど」
「そーゆーこと言うなあああああああ!!」

数秒後に同じことを叫ぶことになるだなんて思ってもいませんでした。
碌に空気を取り込まずに反射で叫んでしまったため、肺が悲鳴をあげましたが構ってなどいられません。
何で叫ばれたかわかってないこの後輩に、教育的指導をしなければなりません。

「な、何よ」
「そう言うことを皆の前で言うな馬鹿! その出来の良すぎる頭は何のために在るの!?」
「何で怒ってんの!?」

やっぱりわかってませんこの後輩。
頬に掌をあてて、希さんが満足気に溜息をつきます。

「あかん、にこっち可愛い」
「にこちゃん顔がカーディガン色通り越して真姫ちゃん色にゃー」

染まっていました。
あっちもこっちも何だか騒がしい中、のほほんと続けている人が一人。
机の上で遊ばせた指先に落とした視線のまま、口を開きます。

「どこ見てるか、わかってるよ」

ことりさんの一言が終わるか終わらないかで、違う音が被さりました。

「今凄い音したよ……!?」
「いい音したなぁ」
「痛そー……」

隣にいる人が、机にしたたかにおでこをぶつけた音でした。
そのまま動きませんが、気にしません。
唯一花陽さんだけが心配しておろおろしてるのが何だか可哀そうになるほどです。
花陽ちゃんマジ天使。
言っても無駄だと悟り、説得を打ちきって机に向かい項垂れた絵里さんを見ながら、穂乃果さんが口を開きます。

「よく真姫ちゃんと予算のやりくりに付いて話してる時はなんとなくもやもやするからやだ」

穂乃果さんにちらりと寄こされた空色の瞳。
唇を躊躇わせて、逸らされた視線。

「……適材適所ってあるでしょう?」
「もやもやする」
「……ぁー……」

ずっとこっちを見てくる穂乃果さんに、絵里さんは項垂れたまま腕だけ伸ばしてその頭を撫でました。
それを見ながら、改めて椅子に背を預けて腕を組む真姫さん。

「だいたい、絵里と希の言うことは割と素直に聞くのが腑に落ちない」

それに反応したのは、絵里さんと同じように机に向かって項垂れていたにこさんでした。
半眼が、真姫さんに向けられます。

「おいこら年下」
「何よ」
「先輩ですけど」
「それが?」
「この後輩……!!」

拳を握りしめてにこさんが唸り声を上げていました。
我関せず。ことりさんは言います。

「今何考えてるかも、わかってるよ」

静かな声でした。
机に突っ伏したままの隣の人の肩がびくりと跳ねました。

「エスパー?」
「わかりやすいんとちゃう?」
「や、やっぱり保健室行った方が……!」

やはり花陽さんだけが心配していました。
なでなでにより機嫌が回復した穂乃果さんは、握り拳で言います。

「よし! 今のところ私が一番可愛いところ言えてるよね!!」
「言わなくていいから!!」

制止の声なんて効きません。
絵里さんはちょっと涙目でした。
きらきらと笑顔を浮かべる穂乃果さんを見て、言葉を反芻し、真姫さんは瞼を下ろします。

「寝る時に絶対擦り寄ってくるのよ」

ここにきてまたしても沈黙が降りました。
誰も破ろうとしないそれを、むしろ破らざるを得ない状況に追い込まれたのは、お誕生日席に座る人。

「……真姫ちゃーん? 何の話かにこわかんないんだけどぉー?」

わざとその口調にしているのでしょう。
笑顔を如何にか作ろうとしていましたが失敗しています。
にこさんの言葉を聞いて、視線を色々と泳がせた真姫さんが行き着いたのは、机の上にあった譜面でした。
どう見たって誤魔化しとしか思えない仕草で譜面を取り、それに視線を落とします。

「……、……、……猫の話よ」
「……」

絞り出されたのは、そんな答えでした。
けれど、それをどうこう言えるにこさんではありません。何かを言った瞬間、どうしたって墓穴です。
だから突き刺さる視線にも我慢していました。

「猫」
「猫」
「そこ、うっさいわよ」
「猫の話やん」
「猫の話だよ」
「ぐあああ……!!」

堪えられませんでした。
顔を覆って俯くしかありません。

「よく見えない所に付けてくるよね」

落ち着いていて、意味も深く語っていないにもかかわらず、一番破壊力がある気がしてならないのは何故なのでしょうか。
周りに伝播していないだけで、全ての被害を隣の人が負っているせいなのでしょうか。
ことりさんの言葉に、何度目か、首を捻る花陽さん。

「何のこと言ってるのかな」
「凛ちゃんに教えてもらいー?」
「にゃ!?」
「凛ちゃん?」

本人からではなく、被害が伝播しました。
希さんは全力で色々と楽しんでいます。
現時点でもひどいものだったけど、振り返るとここから加速していったんだと思う。
希さんは、後にそう語っています。

「眠たい時の癖が言いたいけど私だけの内緒にしたいから言わない!!」
「穂乃果!?」
「いつも切羽詰まるとやる癖があるけど言わない」
「真姫ちゃん!?」
「いやって言うと止めるのは逆に意地悪だと思う」
「あ、二度目」

何故か立ち上がった穂乃果さんの言葉に、絵里さんが声を裏返らせ。
その穂乃果さんを見て即答した真姫さんに、にこさんも声を裏返らせ。
変わらぬトーンで発されたことりさんの声に、海未さんが起き上がりかけていた頭をまた机と熱烈にくっつけました。
目には目を。歯に歯を。斜め上に。切り込んで。直球勝負。変化球。
勝利条件の見えない応酬が、始まったのです。











十分後。

「ぎゅってされるとすんごい気持ちいいしいい匂いだし最高!!」

立ち上がったまま声を張る穂乃果さん。

「腕にすっぽり収まるし背中ぎゅって掴んでくるしこっちの方がいいわよ!!」

いつの間にか同じく立ち上がって張りあう真姫さん。

「要するに、そう言うところ全部可愛いなぁって」

依然座ったまま微笑むことりさん。
しりとりは続いていました。
確認しますがしりとりなのです。
これは、しりとりなのです。
単なる、遊びなのです。
例え。

「やめて、ほんとやめて、お願いだからやめて……!!」

どうにか止めようとしたら逆に腕ごと背後から抱き締められて赤くなった顔を隠すことも出来ずに、耳元で穂乃果さんの発言を聞くことしか出来なくなった絵里さんや。

「思い出して自爆するってわかってんのにどうしてそんな煽りに弱いのよこのちょろ真姫!!!」

こちらもどうにか止めようとしたにもかかわらず悲しいかな体格差で押しのけられて、どうにもできず真姫さんに背後から抱き付きその背中に顔を埋めて抑えようと頑張る赤い耳が丸見えのにこさんや。

「……」

もはや何も言うこともない海未さんがいたとしても。
これは、ただの遊びなのです。

「わー、何か凄いことになってるにゃー」
「う、海未ちゃんがびくんびくんしてる……!!」

残された凛さんと花陽さんがこの惨状を見守る中、もしかしたら一番落ち着いている人が呟きます。

「やー、まさかここまでになるとは思わなかったわー」

希さんは、視線をある場所に向けます。
ここに入ってきた時に、希さんが置いたもの。
一体誰が気付いていたでしょうか。
それの液晶に映る室内。
画面表示は、●REC。



後日絢瀬さんにそれを見せて恥ずかしがるのを見たいがためにこういうことしちゃう東條さんオナシャス。

ごめん

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