くんかくんか
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絢瀬姉が好きすぎた
久し振りのどストライクです
呼び方とか他いろいろマガジンとアニメで混じってるカオス
どこかでこんな発言を見た気がしたんです
南さんが割とこういう立ち位置なのは私が調べた情報とかあれやこれが偏っているせいだと思うと共に高坂さんと星空さんが凄いきょうだいっぽくてハァハァしますっていうかほんと絢瀬姉が好きすぎてつらいですね絢瀬姉はちょういい匂いだと思うんですけどそこんとこどう何ですかね高坂さん
っていう、話
話?
※
廊下は走ってはいけません。
そんな張り紙なんて知らないとばかりに、連なる足音。
「っと、ことり、危ない」
過ぎ往く生徒数人にぶつかりそうになる南さんの身体を引き寄せたのは白い手。
引き寄せられるままに、身を寄せた先。映るのは金色とYシャツに、白い肌。翠色のリボン。
「こらー、気を付けなさーい!」
耳のすぐ傍でそんな声を聞いて、遠くにすみませーんなんて異口同音。
南さんが急なことに忘れていた息を吸い込んで、鼻腔を満たす香。
「大丈夫?」
そして、窺うように覗きこんできた薄い空色。
全てが合致して。
「……」
「ことり?」
南さんの思考回路がほぼ止まったことは、仕方ないと言えるでしょう。
(・8・)
「ことりちゃん?」
「どうしたの?」
部室に着いて、椅子に腰を下ろしても反応が芳しくない南さんを囲うのは高坂さんと星空さんでした。
ぽへっと中空を見詰める南さんから、同じく部室へやってきたその人へと視線を向ければ左右に振られる首。
理由は解りません。
ならば本人に聞けばいいと、改めて二人が南さんを見て。
「絵里ちゃん、すごい、いい匂いする」
「「えっ」」
漏れた言葉に目を瞬かせます。
未だ気の抜けたような南さん。顔を見合わせる高坂さんと星空さん。
そして、視線が集まるのは、その人。
「な、なに?」
絢瀬さんがそこにはいました。
ちょっと口元が引きつっていました。
どう言うことだという視線を受けて、ただ単に南さんがぶつかりそうになったから抱き寄せただけだ、と困惑気に説明をした絢瀬さんを待ちうけていたのはにじり寄る後輩二人。
右前に高坂さん、左前に星空さん、そして後ろは壁。そんなフォーメーションにより退路はありません。
「いい匂い、なんだって、凛ちゃん」
「いい匂い、なんだってね、穂乃果ちゃん」
「しないから、そんな匂いしないから」
そんなことを言いながらじりじりと近づいてくる二人と少しでも距離を取ろうと、絢瀬さんは腕を突っ張る様に前に出し、抵抗を試みます。
しかしそんなことで止まるわけがありません。
「それは確かめなくちゃいけないよ……!!」
「ほ、穂乃果はよく抱きついてくるじゃない!」
「今日は嗅いでないもん!」
「かっ……!」
一つ下の後輩は、わんこ。
「絵里ちゃん覚悟するにゃー!!」
「凛も真似しなくていいから!」
「ちてきこーきしん!」
「違うものに向けなさい!」
二つ下の後輩は、にゃんこ。
「ま、待ちなさい、待って……!!」
「「とりゃあああ!!」」
じゃれつかれる運命なのです。
がっちり捕らえられて、というより抱き着かれて、肩口やらなんやらに顔を埋められている絢瀬さん。
それが目的だったとはわかってはいても、改めて匂いを嗅がれるというのはとてつもなく恥ずかしいものです。真っ赤っかです。
やめなさいだのほんとやめてだの、わぁわぁ言ってもすんすんと鼻を鳴らす二人は聞いちゃくれません。
「えりち、大人気やなぁ」
「の、希、そんなこと言ってないで助けて」
絢瀬さんがそののほほんとした声に、助けを求めて視線を向ければ。
「いやー、今手ぇ離せへんわぁ」
「ちょ、何で撮ってるのよ!」
ビデオカメラ片手にニッコリ笑顔の同級生。
裏切り行為でした。しかし東條さんは端から助ける気などありません。裏切り以前の問題でした。
絢瀬さんが録画を止めさせようとしても、くっついている二人がいるためどうにもなりません。
ようやく顔を上げた二人が、言います。
「絵里ちゃん今日もちょういい匂い!!」
「ナイス匂い!!」
きらきらした瞳でした。
「わ、わかったから、もう、離れて」
もはや、脱力するしかありませんでした。
そうしてやっと離れた二人に、ものの数分でぐったりした絢瀬さんは気付きます。
この部室にはもう一人いました。同級生と先輩の暴走を止めようにも止められなくてあわあわしていた可哀そうな子ヒツジ。
その子ヒツジが、どうにも熱い視線を自身に向けているということに、絢瀬さんは気付いてしまったのです。
小泉さんは、じっと絢瀬さんを見ていました。
目は口ほどに物を言う。その瞳が雄弁に語っていたのです。
ついでに、先述の二人とは違うタイプの小動物系お伺いの眼差しというものでした。
これは堪りません。
「えーっと……花陽?」
「ひゃい!?」
何より、絢瀬さんはこういう目に弱いのです。
少しの逡巡。ちょっとだけ笑って絢瀬さんは軽く腕を広げ、目を丸くした小泉さんに口を開きます。
「おいで」
許可でした。
花開くように、それでも綻びかけの花の如く照れを浮かべた笑顔で、小泉さんは靴音を鳴らします。
先ほどの二人と違って、遠慮しながらもおずおずと抱き着いてくる小泉さんに癒しすら感じるものでしょう。
「「あああああああああああ!!」」
そんな、腕の中に収まった小柄な体を腕で緩く囲って、ご満悦な表情を見ていた絢瀬さんの耳を劈く絶叫。
絢瀬さんと、小泉さんが肩を震わせて見れば、そこには猛る二人。
「花陽ちゃんずるい!!」
「絵里ちゃんずるい!!」
同じことを言っているようで違うことを主張する高坂さんと星空さんの行動はやはりシンクロしていました。
「絵里ちゃん離れて!!」
「もう離れてるでしょ……」
絢瀬さんを引っ張って抱き着くわんこ。
「かよちん返すにゃ!!」
「凛ちゃん、どうしたの……?」
小泉さんを引き寄せて抱きしめるにゃんこ。
そのまま、自身の腕の中のものを、自身のものだと主張するように、何故か威嚇しあう二人。
さっきまで仲良くじゃれついていたとは思えない光景でした。
「……あー、もう」
笑いながら録画し続ける東條さんを見て、絢瀬さんは天井を仰ぎました。
園田さんが来るまであとどのくらいだろうと思いながら。