塵も積もれば、たぶん、効果ある、よ
はい、この問題をもう一度
もうやぁだぁ
やだじゃありません
大体さぁ、こんなことチマチマやってても無駄だってば〜
何を言うんですか、小さなことの積み重ねが大きくなるんです
クイーンの小言がながぁい説教になるみたいにぃ?
怒りますよ、それに諺だってあります
うえぇえ、トレイみたぁい
……はぁ、いいですか?
「好きだよぉ」
ふわふわした甘いとさえ感じる声色で、シンクさんは言う。
私はその声を聞きながら、笑いを零しながら、答える。
「ありがとうございます、私も好きですよ」
ねぇ、髪結わせてぇ。
シンクさんがそう言ってくるのはそう珍しくもないこと。
今日も授業の合間にいつの間にか背後に回られて、髪留めを抜かれていた。
振り向けば、いつもの笑顔で、どこから取り出したのか解らないブラシを手に小首を傾げていた。
「デュースの髪もー、手もー、目もー、全部好きぃ」
髪を梳く指先が、時折耳をかすって、くすぐったい。
この人は。シンクさんは。
12人の中で、私と一番年が近い。一番誕生日が遅い私と、ほんの少ししか違わないけれど、ちょっとだけ、年上。年上と言っていいか解らないけれど。だからなのか、お姉さんになれるのが私しかいないから、私をこうやって構ってくれる。
甘やかそうと、こうやって、言葉と行動を、くれる。
それが少しだけ気恥ずかしいけれど、嬉しいことには変わりないから、私は今日もこうして、それを受け取って、答えるのが日常。
ちゃんと、甘える妹が出来ているかは、わからないけれど。
「でもシンクさんの髪の方が、綺麗です」
「ええぇえ……、シンクちゃんはデュースの髪のが好きだよぅ」
「うーん、でも、やっぱり綺麗です」
「デュースのだから好きなのー」
「ありがとうございます」
にこにこと紡がれる言葉と、髪に触れる優しい手。
私と比べるのが申し訳なくなるくらい、綺麗で素敵な人。あの重量を持つ武器を扱うとは思えない手が、髪を束ねていくのを感じる。
末っ子。と、呼ばれることがある。12人の中で一番背が低いのもあるし、もちろん年のこともある。
頭を撫でられることもある。甘いお菓子を貰うこともある。小さな子供みたいに見られていると感じることもあるけれど、掌の大きさだとか、暖かさだとか、向けられる笑顔だとか、優しい言葉だとか、そういうのをわからないわけじゃないから。
「デュースの匂いも好きだよぉ」
「シャンプー、同じですよ?」
「そぉじゃなくてー」
「え?」
「デュースの匂いー」
「私の?」
「あまぁい」
「お菓子持ってないですよ?」
だから、同じくそれを受け取る側でいるシンクさんが、たった一人それを出来るのが、私だというのもよくわかっている。
だから。だから。
受け取るだけで申し訳ないけれど、こうやって構ってくれるのが、ちょっとだけおかしくて、くすぐったくて、嬉しくて。
「ねぇー、デュース」
「はい?」
「好きぃー」
好き。
二文字の、簡単な、それでも一番率直な好意の伝え方。
とてもわかりやすくて、とても素直な言葉だからこそ、甘やかそうとしてくれてるのが、頑張ってるんだなぁってわかる気がして。
お姉さんをしているシンクさんが、可愛くて。
「はい、私もです」
私は今日も、こうしてちゃんと、甘えさせてもらっている。
「レベル99のプリンに木の棒でぺちぺちしてるのを見てる気分になってきた」
「ああ……、それ合ってるわー」