おまじない



手にしたファントマの数を数えて、それがいつもの任務より多いことに一つ息をつく。
討伐任務だった。
近接戦闘型の二人の補助としてあたしが三人目に加わって、出撃。
予想よりも早く終わって魔導院に帰ってきたのが十分ほど前。
いつものような任務なのに、あたしが持つこれがいつも以上なのには、理由がある。

「シンク、ごきげんだね〜」
「んふふ〜」

終始鼻歌でも歌いかねない、今はもう奏でているこのメイス使いのおかげというか、せいというか。
今日のシンクは絶好調。目に入った魔物は全て圧し折られ叩き墜とされ磨り潰された。
ジャックと一緒に難を逃れようとしたおこぼれと言って差し支えないやつらを切り伏せて撃ち落とした。
おかげでとっても楽だったけど物足りない。私の銃は獲物に飢えている……!
で。任務報告を終えて、教室に戻ってきたあたしたちはこうして雑談をしているわけで。

「今日のシンクちゃんはいつもとちょぉっと違うんだなぁ」
「え、同じじゃん」
「えぇ〜? 見てわかんないー?」

ジャックと一緒にとりあえずシンクの頭のてっぺんから靴の先をずずいっと見る。
うん。うん。……うん。

「どこが?」
「どこ〜?」

わかんない。
いつも通りのゆるふわ髪。ゆるふわ雰囲気。ゆるふわ脳内。
あ、綿飴食べたい。
どうでもいいことを考えながらジャックとふたり、首を傾げる。
ぶぅっと膨れるシンク。けれど、少しだけ嬉しそうなのは何故だろう。内緒話をしている時と同じ顔。

「あ、皆さんおかえりなさい」

背後で扉が開く音がして、届いた声に振り向いて。

「デュースー!」

あたしたちの前に居たはずのやつがもうすでに机を飛び越えてその人に飛びついているのを見て、驚く前に呆れた。
武器が重いだけで、元々の動きが鈍いってわけじゃないからね。

「きゃあ!」

可愛らしい悲鳴もろともデュースを抱きしめて……というか抱き着いて、ひとしきりぎゅうぎゅうしてから、少しだけ身体を離したシンク。
ていうか、近いくない? 近いって。
ジャックどう思う。いつものこと? まあそうだけど。近くない?
それが二人の当たり前の距離。

「し、シンクさん?」
「デュース、シンクちゃん今日の任務凄く頑張ったよぉー」
「あ、はい、お疲れ様です」
「いっぱいぶちのめしたよ〜」
「ぶちの……」

ああ、うん。
あれはぶちのめしたがぴったりだね。プリン系が標的じゃなくてよかった。色々飛び散りそう。
あたしたちの前。言葉がすぼまるデュースに構わず、シンクは笑う。

「えらい〜?」

こどもみたいな、えがお。
ま、あたしたち子供なんだけどね。

「ねー、褒めてぇ」

とはいっても、それこそ子供のようにねだるのが、シンクらしい。
感情に素直。ただしその感情が読めないのがめんどくさい。
けれどそれに慣れているのもまた、シンクの目の前に居る人。

「はい、えらい、えらいです、シンクさん」
「えへへぇ」

ごろごろと喉を鳴らす猫か。ぶんぶんと尾を振る犬か。
撫でる掌にもっとと頭を押し付けるのを見て、そう思う。

「おまじないきいたみたいー」
「おまじない?」

繰り返すデュースにあたしとジャックも疑問符を浮かべる。
おまじない。
それが、たぶん、シンクがさっき言っていたいつもと違うところなのだろう。
シンクが手にしたのは、自分のお下げ。
そりゃあもう、嬉しそうな笑顔。

「デュースが結ってくれたからぁ」
「ぁ……」
「ね〜?」
「はい、嬉しいです」

デュースも頬を緩めて、ほわほわした空気が広がる。
……。
あー。
はいはい、なるほどねー。

「ジャック、何か苦いもの食べたくない?」
「そーだね〜」

よし、リフレに行こう。


inserted by FC2 system